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網切の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
その年の夏は、どういう訳かよく蚊の出る夏であった。なので、村ではどこの家でも蚊帳をつって夜を過ごしていた。
ところが。ある時から、夜な夜な蚊帳がすっぱりとハサミか何かで切られるという怪事が起こるようになった。いずれも家人が寝静まった頃に、いつの間にか切られるという始末で、ほとほと困り果てていた。
村で一番の識者がいうには、それは『網切』という妖怪の仕業なのだという。
両の手が大きなハサミになっており、空を自在に舞い、網目のものを切るのだそうな。
◇
始めのうちは迷惑していた村人たちであったが、不思議な事に網切に遭った家はそれから段々と裕福になっていくのである。なんでも無駄な金を使おうとすると、どこからともなく網切がハサミを使う音が聞こえるという。
「一体、どんな音が聞こえるんだ?」
「ハサミを使う音さ」
つまりは、ちょきんちょきん。
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