化け雛の噺
桃の節句
人形のように人を象った器物はより不可思議な性質を宿しやすいと言われている。特に人間の願望や欲求を込められている雛人形などは、とくに人の気を吸いやすい。
こうして霊性や妖力を宿して、妖怪と化した雛人形を『化け雛』という。
◇
ある商家に大変な長者の家から一人の女が嫁いできた。その女の家では代々末女が嫁ぐと、その度に雛人形を一体ずつ買い足して、母から子へ受け継がせるという習わしがあった。女も例に漏れず、実家から雛人形を持参したのだが、その代で丁度百体目を数えたのである。
しかし、その家の隠居が大量の人形の事を気味悪がり、女を上手い具合に言い包めて少しずつ売ったり捨てたりし始めた。
粗方の人形を処分した頃。そこの家で怪異が起こり始めた。何か小さいものが夜中に廊下を走るような音や、微かだが泣くような声が聞こえるのである。
その怪異に怯えながら過ごしていた、ある日の事。
隠居が寝ていると、突然足に痛みが走った。
驚いて布団を剥し、痛みのあるところを触ってみると何かがくっ付いているようだった。這うように外へ出て、月明かりにそれを照らしてみると、思わず全身に身の毛もよだつような寒気が走った。
隠居の腿の肉に、首だけになった雛人形が噛みついていたのである。
百を数えるまでに代々の家と娘を守って来た雛の怨みを、腿に食らいついて晴らした、化け雛の話である。
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