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怪談 しゃれこうべ  作者: 小山志乃
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かみきりの噺

明けましておめでとうございます。


正月にはなんの関係の噺で本年スタートです。

 江戸が東京と名を改めた明治の頃のお話し。


 東京は本郷三丁目に一つの屋敷があった。


 親族が七人、奉公人が十人、合わせて十七人の大所帯である。


 家人は品行方正、それでいて諧謔(かいぎゃく)(ろう)するような気さくさもあり近所でも評判の家であった。

 

 ある日突然、その家で召し使いのおぎんという女の髪の毛が切られるという事件が起き、新聞沙汰になった。取り分け人々の関心を引いたのがその家の便所で切られたという点である。


 三月十日の夜九時ごろ。


 おぎんが屋敷の便所で用を足していたところ、後ろから背筋が冷たくなるような気配を感じた。その瞬間、自分の達磨返しが切り落され乱れ髪となった。あまりの驚きで悲鳴を上げると、家人たちが慌てて駆けつけた。そこには失神したおぎんと、隣には見事に切り落された(まげ)が一本落ちていた。


 それ以来、その家の者たちは便所を使う度にどこかしらの髪を切られるようになってしまった。


 ところが不思議な事に、その家の奥方であるお江府(えふ)さんだけは一向に被害に遭わなかった。


 実はお江府さんはとある病で髪の毛がなくなっており、かつらを使って誤魔化していたのである。


 あまりにもお江府さんだけが髪を切られないので、家の者は皆で訝しんでいた。

 

 このままでは自分のかつらがばれるのは時間の問題である。


 お江府さんは意を決して、便所に住まう妖怪・かみきり退治に打って出た。


 家の者全員に一旦外に出るように指示を出すと、念のためにかつらを被り直し便所に赴いた。


 大立ち回りの末、便所の天井から一匹の「かみきり」という妖怪を引きずりおろした。


 ここまでの騒動を起こした妖怪であったので、然るべき処罰を下そうとしたのだが、かみきりもかみきりで中々狡猾だった。


 見逃してくれるのであれば、二度とこの家で悪事は働かない。もしそうでないなら、近所中にかつらを被っていることをばらすと脅してきた。


 背に腹は代えられぬお江府さんは、しぶしぶかみきりを見逃すことにした。


「けど待ちなさい。見逃した後で、私のことを言いふらすつもりじゃないでしょうね」

「そんな事はしませんよ」

「保証がないでしょう」

「それがあるんですよ」

「どんな保証があるというの」

「あっしは妖怪かみきりです。髪の毛のことを切りはしても、ユウことはありません」


読んでいただきありがとうございます。


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