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怪談 しゃれこうべ  作者: 小山志乃
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角盥漱の噺


 後の人が平安と呼ぶ時代のお話。


 この時に六歌仙の一人とうたわれた小野小町という歌人がおり、素晴らしい歌を数々読み上げて、人気を博していた。


 小町には、同じく六歌仙の一人に数えられる大友黒主という歌会の好敵があった。歌会とは、題に即した和歌を詠み上げ、集った面々に評価してもらい優劣を競うというものである。


 ある歌会の日の事。


 大友黒主が会が始まるまでの時間を持て余して歩いていたところ、相手である小野小町の歌を、不慮に聞いてしまった。そして魔の差した大友黒主は、あろうことかその歌を自分の作った歌であると、先に公表してしまった。


 小野小町はそれを知った途端に、その歌は自分が作った歌であると申し出たが、それを証明する術がない。


 自室に戻り、このまま泣き寝入りするしかないのかと、悔し涙を零した。そしてその涙の雫が、普段から使っている自前の『角盥漱(つのはんぞう)』の中にしたたり落ちた。角盥漱とは、当時の洗面器のことで顔を洗う他にも口をゆすいだり、うがいをするのにも用いられていた。


 すると。


 不思議な事に、その角盥漱がカタカタと震え出したかと思うと、徐に語り始めたのである。


「我が主の無念、口惜しく思います。しかし、一つ術がございます。我に水を注ぎ、その中で歌の記された紙をお入れくださいませ。さすれば我が主の潔白を示しましょうぞ」


 ◇


 小野小町は、角盥漱の言葉を信じて言われるがままに支度を始めた。


 いざ歌会が始まると、小野小町は万葉集の中にある件の歌の草紙を切り取って、角盥漱の中へと沈めた。すると不思議な事に、墨で書いたはずの文字が徐々に水に溶け始め、ついには紙切れ一枚を残すばかりとなったのだ。


 こうして小野小町は、歌の盗作の事実を暴き出した。そして大友黒主は罪に問われることになったという。


 ◇


 大友黒主はこの事を猛省し、次の歌会には顔を洗って出直してきたという。


読んでいただきありがとうございます。


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