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琴古主の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
うち捨てられた屋敷の中に、古びた琴が一つあった。この家は、かつては名のある武家の屋敷であり、この事はそこな娘の手習い事の一つに使われていたのである。しかし、あらぬ嫌疑を掛けられ当主が刑に処され、お家は断絶に遭う。当然一家は離散し、屋敷も放り出されることになった。
幾年かの時が経った、ある日の事。
年月を隔て、古びた事は霊性と魔性を帯びて妖怪と化した。これが『琴古主』である。琴の端に目や口ができ、弦がまるでざんばら髪のようになり悲壮さを醸し出している。
◇
琴古主は、妖怪と化すと仲間を求めてあちこちを彷徨うようになった。
けれどもどこに出向いていっても、追い払われてしまう。
弦楽器の定めか、どこに行っても「つまはじき」にされてしまうのだという。
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