化け草履の噺
別口で新連載始めました(露骨な宣伝)
東京を江戸と申した時分のお話。
江戸のある長屋に履物を粗末に扱う男がいた。
草履を粗略に扱っていたので、すぐ傷む。草履、下駄。草鞋、雪駄を隔てなく粗暴に使っていたので、やがて底が擦れたり、すぐに鼻緒が切れたりする。すると余計に機嫌が悪くなって更に乱暴に履くという始末であった。
ある夜の事。
その男が寝ていると、どこからともなく
「カラリン、コロリン、カンコロリン。まなぐ三つに歯ニん枚」
と妙な歌が聞こえてきた。
見れば框のところで、男が捨てた履物たちに手足や目鼻がつき、輪になりながらそんな歌を歌っていた。
男は恐ろしくなり、布団をかぶると朝まで震えていた。
そしてその日から夜になると決まって履物たちが騒ぎ出すのだった。
◇
男は耐えかねて、近所の識者に相談を持ち掛けた。すると、その化け物の正体は「化け草履」という妖怪であると知れた。そして、粗略に使われた怨みを晴らしに来たと教えられると、反省し、どうしたら許してもらえるかを聞いた。
識者の話では、とにかく酒や肴で持て成して、自分の非を詫びて許してもらう他ないと言われた。
男は早速、酒と肴を買い、夜になるのを待った。
いざ化け草履の一団が現れると、男はすぐに今までの非を謝り、酒宴の席を設けたから飲み食いしてほしいと申し出た。
化け草履たちも、そう言われて悪い気は起こさなかったのだろう。大人しく、男の用意した料理を飲み食いし始めたのである。
ところが。
この化け草履たち、相当の下戸のようだった。
酒が回ると気分が悪くなり、ところ構わず食べた物を戻してしまった。やがて、具合が悪そうな体を引きずるようにして、外へ消えていった。
本当に酔いの上での粗相なのか、それとも意趣返しなのかは知れぬ。
とにもかくにも、履物に「はかれた」男の話であった。
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