8缶目「抱擁力?」
ごめんなさい! 予約忘れで更新出来てませんでした……すみませんでした
「まず、この子についてですが……」
誠磨は慎重に頭の名の中で、体験した事実を無難な事実へと変換しながら言葉を紡いでいく。
「繋益さんから連絡が行った通り、ホームステイという形で家に越してきたんです」
「いつから?」
「えっと……昨日の13時頃で、丁度あの時の一時間前くらいに駆け込んできまして」
そう言うと、美少女(?)はテーブルの下から誠磨の服の裾を軽く引っ張る。
「(お、おい、本当にそうなのか? 妾は自分であの部屋に来たのか!?)」
「(いいから、ちょっと黙っててくれ)」
「そっかぁ、何で甘巻君のところに来たの? 手ぶらだった? ご両親は?」
粕寺は誠磨も抱いているであろう数多くの疑問について、自分でも歯止めが利かない様子で食い入るように次々と問いかけてくる。これは責めているのではなく、突然現れた可憐な少女について気になって仕方がないという衝動である。誠磨も昨晩にこうして美少女(?)に問いかけたい意気込みだったが、“覚えてない”の一言でバッサリとカットされてしまったので、こうして第三者から改めて問われると心の中がモヤモヤする。
「(はぁ……そんなの俺が聞きてぇよ。ここは嘘で溝を掘らずに、目の当たりにした事実だけを使って少し変わった日常として誤魔化そう)ーーえっと、この子はどうやら記憶を無くしていて、うちに来た理由も身内も、そして自分が誰なのかも覚えてないみたいなんです。あと手ぶらでした」
「え!? それってアニメや漫画でよく使われるあの……記憶喪失ってやつなの!?」
「えぇ、おそらく……なのでこの子は自分の名前も分からなくて、取り敢えず一時的に仮の名前でも付けようって話をさっきしていたのですが」
「えぇ……」
「その途中で揉め事になってあぁいう形に……」
「なるほどね~、嫌な名前でも付けられた?」
「いや……まだ何も。じゃが彼奴ときたら悠長に一人で考え込むばかりで無駄に時間を浪費しおったんじゃ!」
「そんな大袈裟に言うこと無いだろ……朝食を食べ初めてからの大体数十分ってところでーー」
「お前は何も分かっておらん!!」
「おい、人ん家でまで大きな声出すなって……すみません粕寺さん」
「う~うん、いいの」
粕寺は静かにそう一言だけ告げて、ゆっくりと美少女(?)の方へ擦り寄って横から腕を回す。
「な、何じゃ!?」
「いいのいいの、そのままじっとしてーーほら」
粕寺は美少女(?)を腕の中へと優しく包み込み、胸元へ頭をもたれさせた。それを美少女(?)は必死に暴れて抵抗する。
「な、何をする! 離せ!!」
「いいからいいから、ほらもっとこっちにもたれかかって」
「やめろ! くそ……離れんか!!」
「ちょっと粕寺さーー」
粕寺は右の手の平を軽く誠磨の方へ突き出し、一時静止の合図を出す。
「ほら、大丈夫よ。私が側に居てあげるからね」
「うるさい! 離れろ!!」
「怖いんだよね、知らない場所で自分を忘れちゃって。どうしたらいいのか、混乱しちゃって分からないんだよね」
「うるさいうるさい!! 怖くなどない!! 今こんなことしてる場合ではないんじゃ! くっそ……離せぇえええ!!」
横から抱き込む粕寺に必死に反発して何度も鎖骨辺りを叩いてる内に、その手を引く際に粕寺の下顎に拳が当たってしまった。
「……あっ……」
その瞬間、美少女(?)の反発が急停止して膠着する。
「おい、お前……!」
誠磨が引き剥がそうと立ち上がりかけたところ、粕寺が再度右手を突き出して止めさせる。
「大丈夫、平気よ」
「粕寺さん……」
「大丈夫? 固いところ打ったでしょ、痛くなかった?」
「んな、何を言うておる……殴られたのはお前の方じゃぞ!?」
「そうね、でも大丈夫よ。こんなことで痛がったりなんてしないわ、だから安心して。お姉さん強いから!」
「……」
「大丈夫、私と甘巻君があなたを守ってあげるから、あなたが安心して過ごせるようにしっかりと傍にいるから、安心して」
粕寺のやんわりとした声色も合間って、間近で聞いているうちに美少女(?)は粕寺の胸に顔を埋めて寝息を立て始めた。
「っふふ、可愛い寝顔しちゃって」
「あの……、すみません色々とご迷惑おかけしてしまって」
「いいのよ、迷惑なんかじゃないわ。それより甘巻君、この子の話を色々聞かせてもらってありがとうね」
「い、いえ……」
「でね、今こうして抱いてみて何となく、この子の気持ちが分かったの」
「えっ!?」
「しっ、起きちゃうでしょ」
「あ、すみません……」
「この子ね、今はだいぶ落ち着いてきたけど、さっきまで凄く身体が震えていたの」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ、凄く怖くて焦っていたんでしょうね色々と。凄く寝付きが良いから、昨日は眠れなかったんでしょうね」
「(そうか、男臭いとか言われたけど大元の理由はそれだったのか……。言うなればこの子にとっては全くの異世界で、それも自分の素性を知らない真っ白な状態。仮に俺がそうなってしまったら、多分俺も一秒でも早く自分に関する情報をと欲していただろう。時間は関係ない、自分の気持ちがとにかく必死に何かを掴もうと暴れていたんだ……)」
「甘巻君も大変ね、昨日の今日で突然こういうことになって」
「えぇ、まぁ……」
「でも、ラッキーじゃない? こんなに可愛い女の子がうちにやってきて、これから一応一緒に過ごすんでしょ?」
「え、えぇ……この子の記憶を一緒に探すと約束しましたので、共同生活を送っていこうかと (まだ共同はできていないが……)」
「そっか~、じゃあ一つお願いしていい?」
「は、はい、なんでしょう? (騒音注意とか、昨日言ってた“変なことをするな”とかか……?)」
「私も……この子のお世話をさせてほしいの」
「えっ!?」
「さっきこの子にも言ったけど、やっぱりこのまま“じゃあ頑張ってね~”って見送るなんて出来ないわ」
「粕寺さん……」
「この子が安心して過ごせるよう、力になってあげたいの。だから、私も協力させてくれる?」
誠磨は少し不安な思考が過る。粕寺に協力してもらうということは、物資供給等の応援に限らず誠磨の居ない時間帯で代わりに一緒に生活をしてもらうといった全体的なサポートも含まれる可能性がある。つまり現状、未知の多い美少女(?)と接する機会が多く設けられることになり、先日のような不可思議な状態を目にした時のパニックが起きる確率が大いに増えてしまう。
生活の時間帯を気にしてもらうこともそうだが、それ以上に彼女独特の大きな負担を与えてしまうことに誠磨は躊躇っている。
「……ダメ……かな?」
「……多分ですが、その子と一緒に過ごすということは、昨日のような……あるいはもっと過激でおかしな事態に関わってしまうかもしれませんよ」
「そうよね……。でも私、昨日はこの子だけに驚いたんじゃないの」
「……え?」
「どちらかと言うと、甘巻君……あなたに驚いたと言う方が近いわ」
「あ、俺ですか? 確かに今でも思い出すと恥ずかしいくらいボロボロになってましたけど……」
「そうじゃなくて、あなたが見慣れないこんな小さな女の子を部屋に入れていて、ローションを浴びていたからてっきりそういう関係が出来ちゃってたのかと思って……」
それを聞いて誠磨は昨晩の接吻が脳裏に過り、不意に言葉の間を空けてしまって互いに焦り出す。
「え……うそ……あなたやっぱりそういう……!?」
「ち、違います違います! あれは繋益さんの言う通り魔が差しただけでその……何にも敷いていない床に、その子が俺の用意していたローションをぶちまけられて思わず叫んでしまったんです! (お、我ながら良いファインプレイだ!)」
「そうだったの……ごめんなさい、また変に勘ぐるような言い方をしちゃって」
「いえいえ全然、お構いなく! ではその、粕寺さんにとって昨日のはその子だけが引き金では無かったと?」
「えぇ、あまり詳しくは思い出せないんだけど、何かが沸き立った時には確かに甘巻君も意識の中にあったと思う。あと何より昨日、繋益さんからも言われたんだけど、あの時私慌てていて薬を飲み忘れちゃってたの」
「そうだったんですね……」
「ごめんなさい、今は薬を飲んでいるからこうして普通にお話出来るし、不可思議な事が起きてもせめてこの子の前でだけはもうあんな姿を見せないって覚悟は出来ているわ」
「……分かりました、では今後ご助力いただくようお願い致します!」
誠磨は胡座から正座へすぐ座り直し、深く頭を下げる。粕寺も抱き抱えたまま首だけで会釈を返す。
「こちらこそ、よろしくお願いね。じゃあ早速、名前を決めちゃいましょうか! 寝ている間に決めて、起きたときにビックリさせましょ」
「はい! けど、中々良い具合のが思い付かなくて……」
「そうね~、私も一緒に過ごしていく新しい家族みたいな子に名前を付けるのは初めてで……あ! ご、ごめんなさい!」
「い、いえ……あはは」
二人は少し顔を赤らめて、互いが一時的に目を反らし沈黙する間が数秒だけ続いた。そして誠磨が軽く咳払いをして、話を引き戻す。
「コホンッ! えっと、この子は見ての通り女の子なのでやはり女の子らしい名前が良いですよね~」
「そ、そうね! でも、その前に一つ……聞いて良いかしら?」
そう粕寺から少しぎこちない声色で問いかけられる。
「何でしょうか?」
「その……非常に失礼で申し訳ないことを聞いてしまうのだけど……えっと……」
誠磨はあまりの言いにくさで困惑している様子に凡そ察しがついて、問われる前により冷静かつ鋭さを意識して先手を打つ。
「女の子ですよ、昨日その子自身が言ってました (やっぱりそこまで密着したらそら当たるわな……。まぁこうなったからには俺が強引に押し通すしかない)」
「そ、そうよね! でもこれって、男の子にしかついてないんじゃ……」
「世の中には付いていている女の人や、付いてない男の人もいたりで、本人の意思で男の子や女の子になる人もいますから。仮にその子が男の子だったとしても、本人が女の子と主張している以上、俺は女の子として接していきます」
「甘巻君……。そうね、この子の居場所になるならそういったこともしっかり認めないとね。分かったわ、私もこの子を女の子として接していくわ」
「ありがとうございます」
「いいのよ、それにさっきのあなたの言葉に少しキュンとして……」
「……え?」
「いや何でもない何でもない! じゃあ名前決めを再開しよ!? えっと、女の子に合う名前で、この子の特徴をヒントにした方がいいかもね!」
「え、えぇ……そうですね。う~ん……」
二人は暫し悩み続ける。その中で、粕寺は美少女(?)の髪を優しく触ったり匂いを嗅いでいた。
「ふんふん……、ねぇ甘巻君」
「え、あ、はい!」
「こうして抱いてる時から思ってたんだけど、この子すごく良い香りがするわね」
「そうですね、俺も昨日飛びかかられた時とかに密着して思いました」
「そ、そう……結構やんちゃなのね。何か柑橘系の甘い匂いがするんだけど、シャンプー変えた?」
{いえ、俺んとこのはそういった香り付いてないです」
「そっか~、じゃあ汗かいても洗ってもずっと良い香りなの? すごくない!?」
「た、確かに言われてみれば……(ふむ、今のところこの子の特徴と言えば、透き通っていて謎の良い香りが続く長い髪。あのネバネバが付いてた時もそうだが、どういう状態でもずっとサラサラしていて明らかに普通ではない。この果実のような香りがずっと続く髪は、きっと何らか記憶の鍵となるかもしれないーー)」
そう思考を巡らせていると、突然電流が駆け抜けたような衝撃が脳裏を過った。
「……そうか」
「何か思い付いた?」
「実結理です」
「え?」
「果実の実に、結ぶ、理由の理と書いて実結理、実を結ぶ理という意味です。理由はその髪が記憶の鍵になって、色々と繋がって形になるのではないかと思ったからです」
「……おぉ~……凄い、凄いよ甘巻君! それにしましょ!」
「ありがとうございます。それで、漢字3つはまだ自分で書くのも大変だと思いますし、ホームステイで海外の人という体でカタカナ表記にしようと思いまして」
「なるほど、それが良いかもね。女の子らしくて凄く可愛いと思う!ーーあ、そうこうしているうちにもうお昼前ね」
「もうそんな時間なんですね」
「早いわね~。今はそれ、甘巻君の服を着せてるんでしょ?」
「えぇ、流石にサイズが合わなくてブカブカですが……」
「そうよね、その服ってやっぱ今後も自分で使うわよね?」
「えぇまぁ、その子の服を買ってからは自分で使おうと思ってます」
「じゃあ私の服を一着サイズ合わせするから、それ着せてお昼食べた後の3人で一緒に服買いに行きましょ」
「いいんですか?」
「えぇ、大丈夫お下がりと言っても古いものじゃなくて、ちゃんと今風で合うものを使うから。今後のその子の服の一着として着せてあげて」
「すみません、ありがとうございます」
「いいのいいの、じゃあお裁縫するから甘巻君はお昼をお願い出来る?」
「分かりました、では買い出しに行ってきます」
「は~い、あぁでも冷蔵庫に結構入ってるから行かなくても大丈夫よ。好きに使っていいからね~」
「分かりました」
そうして誠磨は冷蔵庫の中を確認すると、粕寺の言う通り結構入っていた。しかし彼女もある程度の献立を決めて買っているはずなので、なるべく多くを使わぬようある程度の材料を確認してメモを取って買い出しに出掛けた。
つづく
次回からは定期通り金曜20時に更新します、失礼致しました……




