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Say!天缶!  作者: 信条
52/53

52缶目「癒しの唾液?」

「眠り姫問題」という、架空実験の未解決問題をご存知ですか?


かく言う私も最近知ったのですが、コイントスで〝表〟を出す確率が本来ならば表と裏で1/2。

しかしこの実験を行った被験者には、それが1/3に成りうる可能性もあるという。


その不思議な確率問題を裏付ける論文がネットでいくつか上がっていて、読んでみたら結構興味深くて面白かったです

 病室で誠磨が自宅で起きたミユリとの騒動について繋益に説明する。


「あのメダルがねぇ……まさかとは思ったが、やはりミユリの仕業だったか」


「どれだけ腕力が強かろうと、玄関のドアにメダルをめり込ませるなんて人間じゃ不可能ですからね」


「それで、ミユリ嬢を怒らせたのもそのメダルと」


「えぇ……水族館の記念メダルなんですが、あれをペンダントにする金具がありますよね?」


「あぁ、あるな」


「それとメダルを嵌めずに重ねて見せたら急に暴走して……」


「ふむ……まぁ考えられるのは、その重なった状態のものがミユリ嬢の何らかの記憶を呼び起こしたってことだな」


「そうですね……、よりにもよって辛い方の記憶を思い出させるなんて……」


「こればっかりは仕方ないだろ、どういうのが記憶の引き金になるかなんて誰も分からないんだからな」


「はい……」


「で、ずっと黙ったままだがミユリ嬢はそろそろ話す気になったか?」


「……」


「ダメみたいだな、余程ショックだったか」


「ごめんなミユリ……」


「……」


「取り敢えず、保険が効いてるとはいえ治療費もバカにならねぇし、窓の修理もあるからそれらを済ませてくるわ」


「え、いや……それは!」


「まぁ何かしらの形でテキトーに返してくれればいいさ、固く考えず今は治療に専念しろ。磨が退院するまでミユリ嬢の面倒は俺が見るからさ」


「本当……すみません何から何まで」


「気にするな、両腕使えなくて退屈だと思うから二人でちょくちょく見舞いに来るわ。んじゃ行くぞミユリ嬢」


 黙って座り込むミユリに繋益が手を差しのべるが、ミユリは黙ったままその手を払う。


「おっと」


「ミユリ!」


「お主は先帰れ」


「ん? いや、そうはいかないだろ……お前一人でどうやって帰るんだ?」


「……いいから帰れ」


「いやだから、そういう訳にはーー」


「帰れ!!」


 ミユリの大声が病室の外に漏れて、看護師の一人が顔を除かせた。


「どうされました?」


「あ、いえ大丈夫です。なんでもありません」


「そうですか、失礼しました」


 看護師は会釈してそっと扉を閉めていった。


「大声出すなって……また耳痛くなるだろ」


「帰れ」


「だから……」


「繋益さん」


「ん?」


「暫くミユリと二人にさせてもらえませんか?」


「誠磨……大丈夫なのか?」


「はい」


「はぁ……じゃあまた迎えに来るから、用が済んだらミユリ嬢から連絡を……てかスマホの使い方は分かるのか?」


「いえ、また後で教えようと」


「口頭だけじゃ伝わんないだろ、俺が教えとくからじっとしてろ」


「すみません……」


 それから多々ある逆ギレに堪えつつ、丁寧にゆっくりと復唱して手順を何度もおさらいして苦難ながらもなんとか習得させた。


「これで使えるようになっただろう、じゃあ俺帰るわ。防犯の為にも今日中に窓の修理しとくから」


「本当ありがとうございます、必ず色々とお返しします」


「あいよ、んじゃ騒ぎを起こさないようにな」


 繋益は二人に背を向けて手を振り病室を出ていった。



「……ミユリ、何で繋益さんについていかなかったんだ?」


「腕のそれ外せ」


「あ?」


「外せと言うとるんじゃ戯け」


「いや何言ってんだよ、無理だって!」


「いいから外さんか!」


「見りゃ分かんだろ! 両手塞がってるし、そもそも両腕折れてて動かせないんだよ!」


「……もういい、じっとしておれ戯け」


「は?」


 誠磨の理解が及ばぬ内に、ミユリが突如誠磨の左腕のギブスを両手で掴み噛みついた。


「ハァ!? ちょっ、何してんだよ痛ででででッ!!」


 痛み止めの効果を無視した激痛が前腕から伝わり、振り退けようにも力が入らない。


「むぐぐっ! んむぅー!!」


「馬鹿!! やめろっていでででで!!!」


 誠磨の様子にお構いなしで必死に包帯へ噛みつき、八重歯を食い込ませて馬鹿力で強引に引き裂いてギブスを解体した。


「はぁ……はぁ……お前何やってんだよ……、流石にキレんぞお前!!」


「黙れ、まだ終わっておらんわ大人しくしておれ馬鹿者!!」


「出来るわけねぇだろ! いててっ……骨折れたのは俺のせいでもあるから何も咎めなかったが、こんなことされたら流石に許せねぇわ。これやるために残ったのか? 俺になんの恨みがあんだよ!」


「まだ終わっとらんと言っとろうが」


「何がだよ! 俺を殺す為の準備か? 両腕を完全に使えなくして無防備な状態でこれ以上痛ぶるってか?あ”ぁ!?」


「……これ以上話すだけ無駄じゃな」


 ミユリは避けられぬよう素早く左腕を両手で掴み、そこへ一気に顔を近づけた。


「イ”ッっっっ!! まさかお前……!? (俺を喰うつもりか!?)」


 怒りの全てが一瞬にして恐怖に塗り代わり、左腕に近づけられる顔から避けるように顔を背けた。そしてーー



「っぐぁああ……はぁ……はぁ……、っつぅ……」


 左の肘裏から手首に向かって、燃やされているような激しい痛みに紛れた一点のくすぐったい感覚がゆっくりと皮膚をなぞるように伝っていく。


「い”ぅ……ぐぁあぁああ!!」


 思わず痛みに耐えかねて暴れ出すが、両手で抑えられている左腕を動かすことが出来ず声を出すことしかできない。


「……全く世話の焼ける奴じゃ、じっとしておれ!」


「いぎゃあ”あ”あ”あ”あ”!!」


「黙れ、抵抗するでないわ!」


「い”っっっでぁ”あ”あ”あ”!!!」


 暴れるのを無理矢理抑える力で余計に痛みが回って絶叫が止まない。


「鼓膜が死ぬわ愚か者め、す~っ……はぁ……」


「お前……なにしてんだ!?」


「だゃまえといっとょようが」


 なぞられた跡に空気が当たり、そこに付着していた水分が乾き始めたことによりようやく脳が舌で舐められていると理解する。だがその行動自体には理解が及ばず、体勢や容態的にも抵抗ができないので終わるまで様子を見る他無かった。


「……、あれ? え? ミユリ……」


「じっこしけお、わりゃわこてこんやこてょ……」


 何度も舌で往復されているうちに、気づけば絶叫と共に痛みが微々たる差で柔いでいって動かさない状態ではくすぐったい感覚の方が勝るようになっていた。


「はぁ……はぁ……反対に回るのも面倒じゃ、そのまま大人しくしておれ」


 そうしてミユリは反対側へ回ることなく誠磨のベッドに乗っかって、右腕も同様に力づくで引き剥がして唾液をまぶしていく。

 鳩尾辺りに触れる膨らみかけの柔い感覚に間抜けながら僅かな幸運を感じたが、すね辺りに乗せられている不愉快な臓器の突起物により残念な気持ちで塗りつぶされる。


「(全く意味が分からない……、どうすりゃいいんだ俺は……)」


 そして、何度も往復されているうちに右腕の耐えがたい痛みも徐々に和らいでいった。


「(両腕とも痛みが抑えられてる……どういうことだ!?)」


 されるがまま左右の前腕が唾液にまみれ、ミユリはそっとベッドから降りて丸椅子に鎮座した。


「ミユリ……」


「はぁ……口の中カラカラじゃ、水を持って参れ」


「俺、怪我人なんだけど」


「いいからはよ持って……参……」


 言い終える前にミユリの顔がベッドに伏せてしまった。


「ミユリ!?」


 急いで呼び出しブザーを鳴らし、医者と看護師を呼びつけた。




「どうされましーーってちょっと君!?」


「ぎ、ギブスが……!」


 駆けつけた医者は数日前にミユリの身体について調べてもらうよう誠磨が依頼した人で、看護師と共に目の前の状況に息を飲む。


「あ、これはその……」


 誠磨が痛がりながらも両腕を動かせていることに、医者は更に驚愕した。


「甘巻さん、ちょっと腕の状態を見せてもらいますので診察室へ一緒に来てください。その子はうちの看護師に見てもらいますから」


「は、はい……」


 そうしてまたレントゲンを撮ってもらい、X写真を確認したところ折れ曲がっていたりヒビが入っていた所が完全し修復されていた。


「信じられない……一日経たずしてこんな……どうしたんですかこれ!?」


「俺もよく分からないうちに痛みが治まっていって……まだそこそこ痛いんですが、仕事に復帰しても大丈夫でしょうか?」


「う~む、医者としてOK出すのは躊躇われますが、重いものを持たないよう無理しない程度ならいいと思います。ですが今日明日ではなくもう少し様子を見てからの方が良いでしょう、痛み止めを出しておきますから二週間後に来てもらう形で」


「分かりました」


 誠磨は会釈して診察室を出て扉を閉めるまで医者を見ると、ずっと不思議そうに首を傾げている様子が伺えた。

 痛み止めを貰って不自然ながらも当日退院許可を得たので、先程まで誠磨が横になっていたベッドにミユリを寝かせてスマホで繋益に連絡した。


『あぁもしもしミユリ嬢か?』


「もしもし、誠磨です」


『誠磨? あぁ耳にかざしてもらってるのか』


「いえ、自分で持ってます」


『……はぁ!?』


 その後、理解に及ぶ筈もなく自分ですら飲み込めない状況を説明して病室まで繋益に迎えに来てもらい、ミユリをおぶって繋益の車まで運んでもらった。


「すみません、本当に色々と迷惑かけてしまって」


「別に迷惑とは思ってねぇよ、それよりどうなってんだその腕。骨折が一日足らずで、てかついさっきまで折れてたのが急に治るとか聞いたことねぇよ。魔法か? ヒールかけてもらったのか?」


 繋益は半笑いしながらハンドルを握り、ルームミラー越しに二人の様子をチラ見する。


「それが……先程も電話で言いましたが、ミユリに舌で舐められて急に治った……と思います」


「正直、信じる方が馬鹿だと思うが信じざるをえんわな……実際に治って退院してんだからよ。で、ミユリ嬢はそのあとすぐに寝ちまったのか?」


「はい、多分この治癒した力か何かの負担でしょうね」


「ふむ……夢でも見てんのか俺は」


 当人が寝ていて聞き出せないので二人の脳裏に疑問が募ってゆき、どっと疲れている二人は口数が減り自宅のマンションに到着した。


「窓の修理はまだ済んでない、業者呼ぶ前にお前からあり得ない電話が来たからな」


「は、ははは……すみません、後で俺から電話で依頼します」


「とりあえずお前の部屋にはまだガラスの破片が散らばってるだろうから俺の部屋に来い、昼飯作ってやっから」


「すみません……ありがとうございます」


 度重なる世話に萎縮しながらも、自宅へ戻ることは出来ないので車から降りてまた繋益にミユリをおぶってもらいながら繋益の部屋にお邪魔した。


「さて、んじゃ飯作る前に冷たいもん用意するから、そこ座って待ってな」


「ありがとうございます」


 誠磨はリビングのテーブルに座り、繋益はミユリを起こさぬようにベッドに寝かせた後にキッチンへ入って冷蔵庫を開ける。


「なんというか……一日のまだ半分終わったところなのに色々起きすぎだよな」


 冷蔵庫から2リットルの開封済みグレープソーダを、冷凍庫からバニラアイスが入った業務用のプラスチックケースを取り出して棚からグラス2つ用意してソーダフロートを作り始める。


「ほんとですよね……」


「まぁ結果的に入院4ヶ月しなくて済んだし、その点だけは安心できて良かったんじゃないか? ほれ、これでも飲みな」


 両手にグレープソーダフロートを持ってテーブルに運び、誠磨と自分の前に置いた。


「ありがとうございます……でも、さっき来てくれた二人には何て言ったらいいんでしょうか」


「そこだよな~、粕寺にはさすがにこんなこと言っちゃ発狂するか気失うだろうし、職場のあの店員……というより誰に対しても無理だろ説明すんの。医者もよくあっさり退院させたよな」


「レントゲン見る限り治ってたみたいですし、そうせざるをえなかったんでしょうね」


「まぁ医者はいいや、それより二人をどうするかだな。仕事はどうするんだ?」


「できれば明後日の土曜日から復帰したいなと、忙しいでしょうし俺も今回色々出費してしまったので」


「まぁ……気持ちは分かるけどな? ついさっきまで骨折で動かせない状態で、あの店員が見舞いに来た2日後の土日ピークにシフト入れると思うか? 誰だろうと普通はしねぇよ? つうかあり得ねぇよ?」


「た、確かに……」


「医者は良いって言ってたのか?」


「重いものを持たずに無理をしなければと、2週間後にまた来るよう言われました」


「なら少なくともそれまでは自宅で様子見だな、とりあえず二人には……『俺が医者に頼んで普段使われない強烈な治癒薬を塗ってもらって2週間で治した』と、強引だが後からそう言っておこう。それまで一歩も外に出るなよ?」


「はい、ありがとうございます」


「んで、飯はネットの時間指定出来るところで注文して、粕寺の居ない昼過ぎとかに届くようにすれば多分バレないだろう」


「了解しました」


「うし、んじゃ昼飯の材料買ってくるわ。冷蔵庫見たら大して入ってなかったからな、ミユリ嬢が起きても喧嘩するんじゃないぞ? こっちの部屋まで窓割られちゃ敵わん」


 冗談混じりに誠磨に注意を促し、財布とスマホを持って部屋を出ていった。


「……はぁ、俺今日だけでどんだけあの人に迷惑かけてんだろ……」


「んむ……」


「お? ミユリ起きたか」


「何処じゃここは……」


「繋益さんの家だよ、今は昼御飯の材料を買いに行ってる」


「……腕は」


「ミユリのおかげで今はだいぶ治まっている」


「まだ……はぁ……はぁ、治っておらぬ」


 気だるそうにベッドから転がり落ち、不格好に匍匐して誠磨の方へ這い寄る。


「いや確かにまだ痛いけど……無理するなって! よく分からんが力の負担でそうなってんだろ? ベッドに戻れってほら!」


 誠磨が腕の痛みを堪えながら、医者の指示に背いてミユリをベッドに戻そうと抱き抱える。


「う”っ!」


「じゃから……治っておらぬと言っておろうが!」


 脇下にくぐられた両腕を払い、体当たりする勢いで誠磨を床に倒して覆い被さった。


「ちょ……おい、何やってーーい”ぅ”っ!」


 床で仰向けになる誠磨の右腕を両手で押さえて、再び前腕を舌でなぞり始めた。


「ヒッ!ーー勘弁してくれよ……」


 またしても今度は胸骨にミユリの小さい胸が押し付けられ、下腹部に大きめの内蔵の突起物が同時に押し付けられ複雑な気分にさせられる。



 暫くして繋益がスーパーの袋を片手に部屋に戻り、誠磨たちの状況を目の当たりにした。


「……お前ら何やってんだ人ん家で」


「い、いやこれはその……」


 繋益が戻った頃には体勢が変わっていて、床に座る誠磨の下腹部辺りにミユリの後頭部が見える状態である。


「それ、どう見てもフェーー」


「違います!!!」


「いやこっちからはどう見ても……」


「違います!!」


「わ、分かったからお前までデカい声出すなって……鼓膜イかれちまう」


「すみません……。ミユリ、そろそろ離れてくれないか? 多分腕はもう大丈夫だから」


「……」


 ミユリは不満気に頭を上げた途端、電池が切れたように意識を失い床に伏せた。


「おいミユリ大丈夫か!? しっかりしろ!!」


「だいぶ消耗しているようだな、俺が寝かせるから誠磨はじっとしていろ」


 スーパーの袋を床に置いて、繋益が膝元で横たわるミユリをベッドに寝かせてキッチンに入る。そして熱を出して寝込んでいるミユリも食べられるよう3人分の卵雑炊を作り、ミユリが目を覚ましてから遅めの昼食を済ませた。



「ーーはい、はい……すみませんお願いします」


 誠磨は窓ガラスの修理業者へ電話し、20分後に到着するとのことで14時半に依頼した。


「14時半に修理業者が来ますので、来たらちょっと行ってきますね」


「あいよ、まぁミユリ嬢は飯食って満足したみたいだし暫くずっと寝てるだろう。んじゃ行く前に少し教えてくれないか、どうしてあんなプレイが起きたのか」


「そういうのじゃないです」


「すまんすまん、ミユリ嬢は何故あんなことしたんだ?」


 そう言われ誠磨は少し考えるが、思い当たるのはやはりまだ本人がまだ口にしない記憶についてである。だが、ミユリは何か確証を得たように病室と繋益の自宅でハッキリと奇怪な行動を2度実行し、そのどちらも誠磨以外の人間が出払ったタイミングで行われた。それが何を意味するのか理解するまでは、世話になっている友人とはいえミユリにとって繋益は信頼できない人間かもしれない為、プライバシーを尊重すべく下手に口走らぬよう心に決める。


「分かりません……」


「そうか、まぁ本人がいずれ口にするだろう。浮かぶ疑問の解消はミユリ嬢が起きてからだなっと……ログボ受け取ろ」


 繋益は疲れた様子でゆっくりと腰を軽く叩きながら立ち上がり、デスクに向かってパソコンを起動させる。


「(そういや、もう2週間もログインしてないな……。ゲーム自体はやるけど最近忙しすぎてネトゲやる気力が……)」


「今週のガチャ衣装もコンプしたし、誠磨の分も用意しといたからプライズに余裕が出来たらいつでも言ってくれ。安値でトレードすっからさ」


「ありがとうございます (相変わらず廃人だなぁ……ありがたいことにそれでライトユーザーの俺でもコスチュームがそれなりに充実してるけど)」


「まぁ最近はミユリ嬢のことで忙しいだろうし、チムメンにはリアル多忙とだけ言ってあるから安心しな。チムメン以外のフレンドには自分から余裕ある時に言うといい」


「はいーーあ、もうそろそろ修理業者の人来ると思いますので一旦帰りますね。すみませんがミユリのことお願いします」


「あぁ、だが修理代は大丈夫なのか?」


「修理代……多分大丈夫だと思います」


「不安をお裾分けされされてもな……あの感じだと3万は確実だぞ、安くても2万強」


「3万…… (ウソだろ……窓の修理代ってそんなかかんの!?)」


「ははっ、その面に素直に高ぇって書いてあんぜ。まぁ携帯ゲーム気1台分はかかるってこったーーっと、ほらよ」


 繋益はせっせと自分の財布から1万円札3枚を取り出して誠磨に差し出す。


「え!? いやいや、流石に受け取れないですよ!」


「いいや、これは厳密には修理代じゃない」


「……え?」


「前々から気になってたんだ、ミユリ嬢はいつも手ぶらで、お前が出掛けている時に俺と粕寺も居ない状況でミユリ嬢はどうやってお前に連絡するんだ?」


「それは……」


 誠磨も前々から気にしてはいたが、もう一人分の携帯を買って二人分の利用料を払っていくなんてのはフリーターには厳しい条件と言える。もちろん根詰めてシフトに出て生活に少し無理を利かせればこなせなくはないが、それで倒れては元も子も無いと現状維持を選んでいた。


「近所に住んでいるとはいえ、言い方は悪いがミユリ嬢からすれば俺と粕寺はいつ居るのか分からない最近会ったばかりの他人だ。俺らがどれだけ見守ろうとも信用までにはまだ時間がかかる」


「……はい」


「まぁとにかくだ、人一倍何が起きるか分からないこの子には一人でお前に連絡を取る手段が必要で、これはその為の連絡手段を取得するマネーだ。子ども用のならそれで足りるだろう」


「ありがとうございます……! でも良いんですかいただいてしまって?」


「あくまでミユリ嬢の為だ、この子を守りたいなら素直に受け取れ」


「ホントすみません……いつか必ずお返しします! (カッコ良すぎだろ……)」


 両手で丁寧にしっかり3万円を受け取る。


「鍵は開けておくから、戻ってきたらそのまま開けて入ってきてくれ」


「分かりました、では一旦失礼します!」


 貰った3万円を財布に仕舞って大きく会釈し、誠磨は繋益の部屋を一旦出て自分の部屋に戻っていった。


「ーーさてっと……、こっちはこっちでやること済ませないとな」


 繋益は自分のベッドで若干だるそうに眉を狭めるミユリをそっと横目に見る。




つづく

今回は次話も同時に更新しております、宜しければそちらもどうぞ!



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