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Say!天缶!  作者: 信条
51/53

51缶目「両腕ギブス?」

最近Zero Escapeという極限脱出シリーズの2作をクリアしました。

凄まじい脚本の構成に圧巻し、難しいながらとても参考になりました。

 ミユリの暴走によって両腕に無数のアザが出来た誠磨は、壁を背にして床に倒れた状態でミユリを止めようと呼び掛け続ける。


「ミユリ……頼むから一旦落ち着いてくれ……俺が悪かったから、とにかく落ち着いて話そう?」


「違う……こんなんじゃ……違う違う違ぁあああうッ!!」


 両腕がだらけて防御の為に振り上げることが出来ず、距離が縮まる拳を見据えて誠磨は歯を食いしばる。


「(あの最初に会った時とは違う……、今回は回復魔法みたいなので治してもらえそうにないな。ここで殺されたとしても、事態を招いたのは俺だから自業自得か)」


 そう諦めかけた時、目前の拳を遮るかのように気をてらったタイミングで誠磨のスマホが着信のバイブを鳴らした。


「着信……?」


「……」


 バイブで揺れ動くスマホに目をやったミユリは拳が一時的に止まり、その隙に誠磨が匍匐して手を伸ばす。しかし、激痛に麻痺した指先が画面に表示された受信ボタンに狙いが定まらず、スライドが最後まで行かないもどかしさに焦りが生じる。


「(くそっ……指が動かねぇ……、ミユリも何でか知らんがピタッと止まったままだ。どうなってるんだ……?)」


 誠磨は指先での操作を諦め、小指の付け根にある出っ張った骨の部分で操作を試みたがスライドが最後まで行く前に着信が切れてしまった。だが、その直後にドアを叩く音と男の声が玄関から聞こえてきた。


「おい誠磨、何があった? 返事をしろ!」


繋益けえきさん……?」


 その声を聞いた誠磨はミユリの挙動を目で確認しながら玄関の扉に向かって、慌ただしくバタバタとした様子で走って行ったあと止まることなくそのまま扉にぶつかった。


「いって……繋益さん!」


「おい大丈夫か? さっき妙な騒音が聞こえたんだが……とりあえず鍵開けてくれ」


「すみません……繋益さんが開けてくれませんか?」


「俺が? 開けられないのか? まぁいい、待ってろ」


 部屋主である誠磨が玄関に立っていながら部屋の外にいる人間に開けるよう頼むのもおかしな話だが、それほど危ない状況であると判断した繋益は急いでマスターキーを使い扉を開けた。


「おい、何があった?」


「それはその……とにかく逃げてください!!」


「あぁ?」


 扉の開いた音で再び動き始めたミユリは、誠磨達のいる玄関へと獣のように体勢を低くし走ってきた。


「おいおい、お前は彼女の何のスイッチに触れたんだ?」


「あとで言いますから今は逃げてください!」


「逃げる? いや別に逃げるこたねぇだろ……ん?」


 そう呆れて口にしたが誠磨の両腕がだらんとしたまま上がらない状態と、扉の内側の覗きレンズ付近に突き刺さった金色のメダルを見て緊迫した状況を察する。


「……ったく、どうなってんだよ……」


 繋益はため息つきながら軽く誠磨の肩に手を添えてミユリとの間に立つよう横向きにすり抜け、猛進してくるミユリの前に仁王立ちした。


「……ッ!?」


「どうした、そこそこデカい男には手が出せないか?」


「ぐ……んぐぁあああッ!!」


 ミユリは一瞬怯みはしたが獣のような雄叫びを上げ、全身に行き渡る運動エネルギーを潤滑させることで俊敏さを高めて拳を前に突き出した。だが繋益は仁王立ちから防御も回避もすることなく、そのまま胸骨に打たれるのを許した。


「繋益さんッ!!」


 骨肉のぶつかる鈍い音が誠磨にも聞こえたが、繋益は声を上げることも無く仁王立ちの姿勢を崩さずその場に立っていた。


「……え!?」


「はぁ……なんだよ、メダルがドアにめり込んでたから正直俺もビビッてたが……ただのガキのパンチじゃねぇか」


「え、いやいや……え? (ミユリの様子は変わらないが、力だけ普段の状態に戻ったのか!?)」


「……!」


 続けてミユリは繋益の脇腹に回し蹴りをもろに入れたが、それでも繋益は呼吸を乱ざず怯む様子も見せなかった。


「繋益さん……大丈夫なんですか!?」


「まぁガキのパンチとキックだしなぁ……取り敢えずミユリ嬢、一旦落ち着かないか?」


「どけぇえええ!!」


 ミユリがその後何度攻撃を加えても効いてる様子が無く、ミユリの怒りは増す一方でスタミナが切れるまで必死に打撃を加えた。


「こういう時に粕寺が居りゃなぁ……、まぁ昼前だしぼやいても仕方ないかーーミユリ嬢、話はあとでちゃんと聞くから一旦落ち着いてくれ。誠磨の応急処置をしなきゃならんからな」


「す、すみません……痛っつつ……」


「黙れ……はぁ……はぁ……」


「ったく何の逆鱗に触れたらこうなんだよ……早よ行くぞほら、事が済んだら旨いもん食わせてやっから」


「……チッ!」


 府に落ちず苛立ちが治まらないものの、約束された“旨いもん”に釣られたミユリはあっさり停戦を受け入れて後ろへ振り向いて3人はリビングへ集まった。そして窓周辺の惨状を見た繋益は思わずドン引きする。


「おいおい……いったいどんな喧嘩したってんだよ、窓の修理代結構かかるんだぞ? それより破片で怪我とかしてないか?」


「すみません……厳密には喧嘩じゃないんですけど、えっと……」


「まぁ後で聞くわ、それより誠磨、腕の骨に痛みは感じるか?」


「はい……」


「そうか、なら骨折かもしれんなぁ……二人ともそこで一旦座ってくれ、俺が固定できそうな物探してくるーー」


 誠磨とミユリがリビングの真ん中で腰を下ろしている間、当て木になりそうな物が無い中で繋益は空の2Lペットボトル2本とハンドタオル2枚を用意して片腕ずつ処置を施した。


「酷いアザだな……こりゃ内出血してるかもしれん、悪化する前に病院行くぞ。車出すから二人とも来い」


「は、はい…… (また病院か……昨日行ったばかりだってのに)」


 そうして誠磨は繋益の車で昨日と同じ総合病院へと連れられ、以前ミユリが襲われて搬送された時の担当医師が診察に当たった。


「では、外しますよ」


 医師は迅速かつ丁寧に固定されたハンドタオルを外し、外見の状態を確認する。


「数センチのアザが両手首から肘までに数ヵ所……真ん中の辺りに若干の腫れ上がりーーではレントゲンで骨の状態を確認しますので奥の方でお待ちください」


「は、はい……痛っ!」


ーーー

ーー


 その後、レントゲンでX線写真を確認したところ僅かなヒビ割れが3箇所と、若干中心から緩やかに曲がってしまっていて全治4ヶ月と診断された。その為、自力で日常生活を送れなくなった誠磨は入院することになった。


「ーー災難だったな誠磨」


「すみません……」


 骨折した両腕に二の腕から指先までのギブスを巻かれ、繋益の申し出でにより個室の病室を用意してもらって誠磨はベッドで横になる。


「両腕そんなんじゃ仕事出来ねぇし、、まずは勤め先に連絡だな。つってもその腕じゃ無理だろうし俺が電話するわ、スマホ貸してくれ」


「あ、いや……でも」


「大丈夫だって、間違ってもライブラリ漁ってネットでダウンロードした二次元のエロいイラスト集とか覗かねぇから」


「間違って開くんじゃなく漁るんですね……」


「冗談だ、真に受けるんじゃない。それよりほら、スマホ渡すの嫌なら店の番号だけ教えてくれ」


「えっと……覚えてないので俺のポケットからスマホ出してください」


「まぁそうなるわな、んじゃちょっと失礼するぞ」


 繋益は揺らさないよう誠磨のズボンに手を入れて、スマホを取り出し電話帳を開く。そして誠磨に見せながらスクロールして、居酒屋“千夜桜ちよざくら“の電話番号を開いてから繋益は自分のスマホで電話をかける。



『ーーはい、もしもし千夜桜です』


 3コール目で繋がって、電話越しにハキハキとした女性の声が聞こえてきた。


「あ、もしもしすみませんこんな時間に、そちらへ勤めておられる甘巻誠磨の友人で繋益昇斗けえき しょうとと申します」


『あ、はい……ご友人さんで』


「えぇ、実はちょっと誠磨について報告しなければならないことがありまして、落ち着いて聞いていただけますか?」


『え、えぇ……お願いします』


「では単刀直入に……、誠磨は先ほど不慮な事故でーー」


『え、えぇェエエエッ!!?』


 食い気味に発せられたスピーカーからの騒音に怯み、思わず耳を離してベッドの手すりにもたれかかる。


「痛ってぇ……」


「大丈夫ですか!?」


「あ、あぁ……、配慮したつもりが驚かせてしまったみたいだな」


「俺にも聞こえました……その声は雛月さんですね」


「そうか、まぁ事情を説明してから代わるわ。その状態じゃ回避しようがないしな」


「すみません……」


『もしもし? もしもし!?』


「あ、やべ! 出るわ」


 気を取り直して引き続き繋益が電話に出る。


「あぁすみません、俺もちょっとびっくりしたもんで」


『ご、ごめんなさい……』


「いえ、無理もありませんよーーそれで続けますが、誠磨はちょっとした事故で両腕を骨折してしまい現在病院で入院中です。命に別状はーー」


『今から行きます!!!』


 そう叫ばれた直後に受話器を荒々しく置かれる音で通話が切れてしまった。


「はぁ……だから痛ぇんだっての」


「すみません繋益さん……」


「気にしなくていい、それより電話相手のその雛月って人が来るみたいだぞ? つっても病院名言う前に切れちまったがな、多分掛け直してくるぞ」


 案の定、今度は携帯の番号から繋益のスマホに電話の着信が入った。


「ほらな、さて……俺の鼓膜よ持ちこたえてくれ」


「すみません……」


 それから雛月に病院名を伝え、続けて粕寺にも電話を掛けて仕事先の昼休憩中とのことですぐに繋がった。そして雛月の時と同様、事情を説明する合間に何度も叫び声を聞かされて耳の奥がジリジリと痛み出す。


「ったく……何でこう女って驚いたらすぐキーキー叫ぶんだよ、猿かよ……森へ帰れよ」


「いやまぁ、その……急に事故で入院したなんて聞かされたら男女問わず叫ぶと思います。あとすみません」


「謝罪の言葉を取って付けてんじゃねぇよ……、ガキならまだ分かるがいい歳した大人がところ構わず叫ぶってどうなんだ? どっちも職場にいるんだぞ?」


「えっとその……確かに」


「あぁ悪い、もちろんお前を責めてる訳じゃないんだ。怪我人に愚痴言ってすまないな」


 繋益は大きくため息ついて、ベッドの横に置かれた2つの丸椅子にミユリと並んで腰かける。


「さて……二人が来る前に事情を聞かせてもらえるか、ミユリのこと詳しく話してないんだろう?」


「はい……、あ! その職場から来る雛月さんにはミユリの存在自体、話してないです……」


「なに? つまり隠し子ってことか」


「字面は合ってますが違います」


「バレたらまずいか?」


「多分……」


「……分かった、俺に任せな。二人とも俺に合わせろよ?」


 そう言って繋益はスマホを弄り始めた。


「は、はい…… (なんだろう、無茶振りされませんように……)」


「……」


 誠磨が無難に終わることを祈る傍らで、終始無言のまま不満そうにミユリはベッドのシーツを見つめる。そして数十分後に粕寺と雛月が慌ただしく病室に入ってきた。


「甘巻君、大丈夫!?」


「甘ちゃん、大丈夫!!?」


「あ、えっとその……」


「電話で説明した通り、事故にあって両腕を折っちまったらしい。他は以上無いそうだ」


「甘巻君……」


「事故って何があったの……ですか? というかその子誰!?」


 少し大きめの声を向けられて驚いたミユリは、雛月に一瞬目を向けるがすぐに視野を虚空へと避難させる。


「ひ、雛月さんそのーー」


 迷惑かけた気まずさに緊張して、繋益から見るに思わずバラしてしまうであろう様子だった為口を挟んだ。


「この子は数日前に記憶を失って、一人でさ迷い倒れてるところを俺たちが見つけて保護したんだ」


「警察には?」


「それが、俺たちが見つけた時にこの子酷い怪我を負っていて、治した後に警察へ連れていったんだが……」


「中に入る前に警察署の外観と、その近くを走っていたパトカーのサイレンに怯えて逃げようとしてました。なので、記憶が戻るまでは暫く見つけた俺たち3人で面倒を見ることにしたんです」


「そうでしたか……ごめんなさい、変に詮索してしまって」


「いや良いんですよ、気になるのも仕方ないですから」


「(そうか……、繋益さんは粕寺さんにさっき嘘の打ち合わせをしていたんだ。ここまで冷静に虚言を混ぜて、事実よりも信じられる嘘を作り上げるなんて……やっぱ俺とは違うな)」


「……ん?」


 突如、雛月はその場で周囲の匂いを嗅ぎ始めた。


「ッ!? (おいおい嘘だろ……マジで所構わずかよ!)」


「ど、どうしました……? (何だこいつ……まさかほんとに猿か?)」


「あ、あの……」


 3人がドン引きしている中、雛月は嗅覚を研ぎ澄ませるのに夢中で周囲の空気を読まない。そして方角を定めた雛月はミユリの方へ視点を定める。


「もしかして……っ!!」


 雛月は突如ミユリへ近づこうと俊敏にその場から動き出し、座ったまま動かないミユリの隣に立っている繋益が盾となり進行を防いだ。


「あの~すみません、この子まだ人に慣れてなくて俺たちにもまだ心を開いてない状態なので……」


「この匂い……あのTシャツのと同じ匂い!」


「匂い……?」


「お、落ち着いてください!」


「ッ!」


 勢いよく近づこうとしてくる雛月に対し、怒りが沸き上がったのかミユリも椅子を倒しながら勢いよく立ち上がって近づこうと歩を進める。


「おい待てって! 粕寺、そっちを抑えてくれ!」


「わ、分かった!」


 繋益と粕寺が二人それぞれ引き合うのを取り押さえ、落ち着かせるよう呼び掛けて何とか静まり返る。


「ーーふぅ……先程も言いましたが、この子はまだ人に慣れてないので刺激を与えないようお願いします」


「ごめんなさい……」


「ごめんね甘巻君、騒がしくなっちゃって」


「いえ、すみませんこちらこそお忙しい時に来ていただいて……」


「うぅん、それより事故の原因を聞かせてくれる?」


「えっと……」


 先程の騒動で頭が真っ白になり、誤魔化す言葉を忘れてしまった。だが繋益の右と横で交互に動かす目線を察して思い出した。


「デパートの階段……から、派手に転んでしまって」


「えぇ……」


「もしかして、また頭痛?」


「は、はい……」


「そっか……、両腕がこうじゃ仕事無理だよね……。休暇の手続きは私がやっとくから、今はゆっくり休んで」


「ありがとうございます」


「んじゃそろそろ私仕事戻るね、騒がせちゃってごめんなさい……また来るから」


「私も、休憩時間過ぎてるし戻んなきゃ……また近いうちにすぐ来るからね」


「お二人ともすみません、ありがとうございます」


 二人を見送り、繋益は片手を腰に当てて息を大きく吐いて背筋を伸ばす。


「はぁ~……職場にあんなのがいて、お前も大変だな」


「いえ、雛月さんはちょっと変わってるところありますがいい人ですよ」


「まぁ見舞いに来るくらいだしなーーさて、んじゃ二人が仕事に戻ったことだし本当の事故の原因を聞かせてもらえるか?」


「分かりました……」


 唯一ミユリの非現実的な事態を聞いていた繋益は今回の異常事態の説明を受ける。





つづく

今回は投稿遅れてしまい申し訳ございません……


今月の頭に申し上げた通り、次回の投稿を目処に一旦休載します。私生活が落ち着いたらまた投稿していく予定で、それまで出来る限り書き溜めしていきます。


ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!

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