5缶目「食欲旺盛?」
平成が残り一ヶ月、実感沸かなすぎて少し不安ですが……次の西暦が何になるか楽しみですね
「ーーき……ろ……」
耳元から微かに声が聞こえてくる。
「ーーい……、お……ろ……」
女性の、声……? けど粕寺さんじゃない、もう少し幼げ……? 誰なんだこの声は……?
「ーーい……げ……、……きろっ……」
俺は確か自分の部屋に居て、あの子がっ……あの、子? そういえば、あの鳴き声みたいなのに声質が似ている気が……。
「いい加減……、起きろこの馬鹿者がぁあああッ!!」
幼げの罵声がハッキリと聞こえた瞬間、固い衝撃がこめかみ辺りに強い刺激が走った。そして、その痛みによって視界の中央から光が差し込み、現実の意識へと何者かによる所要で引き戻された。
「いってぇ……、何これ、コントローラー?」
「おのれ、いつまで府抜けておるつもりじゃ! 妾はとうに空腹に耐えかねておるのじゃぞ!?」
「……なんだ、このクセの強い喋り方は……? 部屋に来る人の中にそんな人いたっけか? つうかマジでいてぇんだけど」
誠磨は目の前にPSHow用コントローラーが落ちていることに気づく。おそらくコレを投げつけられたのだろうと推測し、ようやく声の主の方へ振り向き視界に捉える。すると例の美少女(?)が、5個入りのうち4つ積み重なってビニールに包まれたティッシュ箱タワーを振りかざすのが見えた。
「いい加減……」
「ちょっちょちょちょ待ってくれ! 頼む殺さないでくれ!!」
「……あぁ?」
美少女(?)は呆れた様子で溜め息をついて、振りかざしたティッシュ箱タワーを手離してその場に放った。
「何を大袈裟に狼狽えておるのじゃ、こんなもので殺せるわけなかろうが!」
「えっ? あ、いや……というか君、喋れるようになったのか!?」
「はぁ? 今度は何を言うておるのじゃ……、お主にはこのみてくれが幼児に見えるか?」
「いや君さっきまで全く喋れなかっただろ!? “んみぃ~”とか“んむぅ~”とかよく分からん鳴き声しか上げてなかっただろ!」
「そんな間抜けな声を上げた覚えなぞ無いわ! それより、はよ妾の食事を作って参れ。空腹で苛立ちが治まらぬ」
美少女(?)はその場に女の子座りで座り込み、お腹に手を当てつつ机に突っ伏する。
「空腹って、夕飯に焼きそばライス食ったろう……。今何時ーー」
誠磨は手元のスマホで画面を表示し、時刻を確認しようとしたところLINERに一件の着信とメッセージが入っていた。
『すまん、風呂入ってた。で、どうした?』
「しまった! 繋益さんから折り返し来てたのか……。取り敢えず一旦誤魔化してっと」
『すみません、この子が急に喋りだしたので、ビックリして勢いで電話を掛けてしまいました。けど意思疏通に難有りといいますか、余計に混乱してきたのでまた後日に連絡します』
『おぉ、喋れるようになったのか! それはまた楽しみだな、どうやったのかまた今度実際に聞かせてくれよ。んじゃな』
やり取りを終えてLINERを閉じ、改めて時刻を確認する。
「23時、あれから5時間経ったのか……。あれからーーっ!?」
誠磨は気を失う前の出来事を思い出し、美少女(?)から目線を剃らして顔を赤らめる。しかしその様子を垣間見ず美少女(?)はテーブルに突っ伏したまま声を荒げる。
「おい、いつまでボサッと座っとるつもりじゃ……はよ食事を作らんか! このままでは死んでしまうわ!」
「わ、分かった分かった! すぐ作るから待ってろ! (少しは頭の整理くらいさせてくれよ……、もう何が難だか分かんねぇよ)」
小言でぶつくさと、聞かれない程の声量で文句を垂れながら表面が乾いた焼きそばライスを台所へ持ってゆき、ラップして冷蔵庫に保管する。そして、そのまま冷蔵庫からベーコンと卵と玉ねぎを取り出す。
「(そういや、俺も結局飯を食ってないせいで腹減ってきたな。ならこの際二人分作って、食いながら聞き込みでもするか)」
誠磨は手早くベーコンと玉ねぎを刻み、フライパンで中火で炒めつつボールで溶き卵を作る。
「痛って! そういや右手首をあの子に殴られたんだったな、結構なアザが出来てるし……」
「まだか~? 妾はもう限界じゃ~ぁ……」
「すぐ出来るからもうちょい待ってろ~」
右手首の痛みを堪えつつ、溶き卵にマヨネーズを加えて混ぜる。そこへ炊飯器から白ご飯をよそって投入し混ぜ混む。それをフライパンに入れて醤油と塩コショウで味付けしながら炒めて完成。
「よし、さっきの失敗を活かして今度は作るのも食うのも簡単なチャーハンだ!」
二人分をそれぞれ皿に盛って蓮華を添えてテーブルへ運ぶ。するとチャーハンの匂いに牽かれて美少女(?)は顔を上げて湯気を嗅ぐ。
「ほら、チャーハンだ。山盛りにしてやったから遠慮なく食いーー」
誠磨が良い終える間もなく美少女(?)は蓮華を手に取ってがっつき始め、誠磨は慌てて右手を掴んで一旦止めに入る。
「むごっ!? んな、何するのじゃ!!」
「食べる前にはきちんと挨拶しないと、ほらこうやるんだ」
「んぬぬっ……」
誠磨は手本として両手を合わせ、軽く会釈する仕草を美少女(?)に見せる。それを不満気ながら真似する美少女(?)の様子をチラ見してから挨拶を告げる。
「いただきます」
「い、いただきます」
「よし、食べていいぞ」
「っ!? んがっ……!!」
美少女(?)は身なりに合わない、まるで獣のような食いつきっぷりで一心にチャーハンを掻き込む。
「旨いか?」
「むぐむぐっ! むぐむぐっ!」
「相当腹が減ってたんだな……、あの缶詰から出てくるまで何も食えなかったとか? そもそもあの缶詰ってどういう構造しているんだ……?」
「むぐむぐっ……何じゃお主、食わんのか?」
「え? いや食うけど」
「そのまま手をつけずに冷めると勿体ない、いっそ妾が食ってやろう!」
そう言って美少女(?)は、隙を見て誠磨の皿を素早く取り上げて片手で掲げる。
「おいやめろ! 俺も腹が減ってんだよ、返せ!」
誠磨が手を伸ばして取り返そうとするが、何度も華麗に避けられてしまう。そうしているうちに、美少女(?)の様子が先程までの軽さから一変する。
「……妾はお主が思ってるよりもずっと空腹で、これほどの山盛りを食らっても食らっても一向に腹の虫が治まらぬ……。このような空腹になった経緯が、妾の記憶に無い」
「……」
「妾は混乱しておる、聞きたいことが山ほどあって気を失いそうになるほどじゃ」
「(俺と一緒……そうか、この子も俺と同じ唐突な出来事を前に立たされてーー)」
「じゃから、せめて落ち着く為にも、まずは思う存分に食わせてくれ」
「……分かった、いいぞ」
誠磨が暗い表情でそう言うと、美少女(?)はまた表情が一変して奪った皿を自身の手前へ持ってくる。
「んじゃ、遠慮なくいただくぞ~♪」
「っておい! さっきまでのシリアスな表情はどこいった!?」
「んあ? 知らぬ、人の食事を邪魔するでないわ」
「いやそのチャーハン誰のだと思って……」
「むぐむぐっ……、譲ったのじゃから今は妾の物じゃ」
「はぁ……分かったよ、俺はさっき冷蔵庫に仕舞った焼きそばライスでも食うよ全く」
誠磨は渋々と立ち上がって冷蔵庫の前へ向かう。そして中から焼きそばライスを取り出し、ラップを一旦外して醤油を満遍なくかける。そして剥がしたラップでまた包んでからレンジで温め始めた。その数十秒の間、誠磨が冷蔵庫にもたれながらスマホでまとめサイトの記事を眺めつつ美少女(?)の方をチラチラと様子見する。
すると、そのチラ見をする度に荒いコマ送りのように飛び飛びで皿の中が消え、奪われたチャーハンがものの数秒で胃の中へと消え去っていた。
「おいおい早すぎだろ……、もっとゆっくり食べないとしゃっくりが出るぞ?」
「何を子供染みたこと抜かしておる、妾はそんな間抜けなーーヒック!?」
「そこは言い通してくれよ……、お決まり過ぎてこっちも反応に困るだろ。待ってろ、今お茶持ってそっちに行くから」
誠磨は冷蔵庫から麦茶が入った100均の容器を取り出し、もう片方の手にコップ2つ持って急いでテーブルへ運ぶ。そして自分と美少女(?)の前にそれぞれコップを置いて、溢れる寸前まで麦茶を注ぐ。それを美少女(?)はそのまま飲もうと手を伸ばす。
「気が利くの~、ヒック! ではーー」
「違う違う、今から飲み方を教えるから!」
「飲み方って……どこまで妾をヒック! こ、コケにするつもりじゃ!」
「いや違うって、悪い、今のは俺の言い方が不十分だった。今からしゃっくりの治し方を教えるから、それに続いてくれ」
「う、うむ……」
「いいか? まずはこうやって後ろで手を組んでーー」
誠磨はゆっくりと言葉にしながら、美少女(?)の様子を確認しつつ手本を見せる。
《~おうちでかんたん! しゃっくりを止められる方法~》
必要なもの:お茶または水、コップ
その1)まずコップにお茶(または水)を満タンに入れます。(溢れそうになるくらいギリギリまで!)
その2)次に、テーブルの前で後ろに手を組み、床に膝が付いた状態で立って背筋を伸ばします。(お出かけ先で座れる場所が無い場合は立ってもok! ただし、人目に見られて恥ずかしいと思う場合もあるのでなるべく人目につかない場所で)
その3)その姿勢で背筋を伸ばしたまま、息を吐ききった状態にしてゆっくりと腰を曲げ、コップのお茶を凡そ5秒間飲みます。(飲む量は少なくてもok)
その4)そして、そこからスッと身体を起こすと、しゃっくりが治まります。(結構効き目がありますが、一応は個人差があるみたいです)
「どう? 治まった?」
「……うむ、何ともない」
「っはっはっは、やっぱすげぇな~このやり方。今のところ効き目100%じゃん!」
「何じゃ、どういう仕組みなんじゃ?」
「あぁ、まぁ俺も何年か前にネットでやり方を調べただけで、仕組みとかは忘れちまった」
「な~んじゃつまらん……。んじゃ今言った“ねっと”とは何じゃ……?」
「あぁそうか、そこからか……。んじゃ今度教えるとして、そろそろ腹も落ち着いたか?」
「うむ」
「そっか、良かった。んじゃ俺もさっさと食うか」
誠磨は洗面所へ行って収納ボックスの上段からハンドタオルを取り出し、台所へ行ってそれを両手に持った状態でレンジから焼きそばライスを取り出してテーブルへ運ぶ。
「さて、んじゃとっとと食っちまうから少し待ってくれ」
「時短の為に半分妾に分けても良いのだぞ?」
「まだ食う気なのかよ……、頼むからこれ以上俺の分から搾取しないでくれ」
「しょうのない奴じゃ、なら妾の気に障らぬうちにとっとと平らげるがよい」
「はいはい……(んだよコイツさっきから……、やたら偉そうな態度でつっかかりやがって何様だよ全く!)」
内心で怒りを抑えつつ、熱さを我慢しながら急いで食べ始める。乾いて固まっていた表面はすっかり元通りになって、醤油が加わって味が濃くなった。その為、誠磨にとってがっつくには丁度良い仕上がりになっている。
そうしてスマホをテーブルの上にあるスタンドに置いて、片手で例の缶詰について引き続き検索をかけながら食を急ぐ。その間、美少女(?)は暇潰しに部屋を物色し始める。
「のう、これは何じゃ?」
美少女(?)はテレビデッキの中に収納してあるPSHow用ゲームソフトの列を指差す。
「ん? あぁ、それはゲームと言って、その上にある画面を見ながら君がさっき俺に投げつけたこのコントローラーを使って遊ぶものだ」
「ほう、やってみてもいいか?」
「いいけど、その前に色々と君に聞きたいことがあるから、その後でな」
「聞きたいとじゃと?」
「あぁ、色々あり過ぎてホント何から聞いたら良いか……」
そう言いながらスマホのブラウザを閉じて、メモ帳アプリを開いて箇条書きで質問リストなるものを食べながら片手で書き始める。そして丁度食べ終わった際に、彼女から一言呟かれる。それにより、誠磨はスタートダッシュに躓くような勢いで手元が狂った。
「聞いても無駄じゃぞ、妾はさっき目が覚めた時点より前の記憶が残っておらんのじゃからな」
「……は、ハァ?」
誠磨はその言葉を耳にした途端、箸を掴む手が緩んで床に落とす。
つづく
一先ず一ヶ月分として、今回まで纏めて予約投稿しました。この一ヶ月間の猶予でどれだけストックを増やせるか……。未来、いや過去の私よ、週2で投稿できるくらいまでペースを上げておくんなまし!(
次回はまたいつも通りのペースなら来週の金曜日ですね、お楽しみに!




