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Say!天缶!  作者: 信条
49/53

49缶目「痛みの距離感?」

先日、歯医者さんから炭酸の飲みすぎと指摘をいただきました。思い当たるのはやはりモンスターエナジー……かな?w

本数少し減られすべきか……

 ミユリは押し入れで見つけた鎖で巻かれた分厚い本を両手で持ったまま、裏の右下に小さく書かれていた“ゆりな”という文字について考えながら暫くその場で立っている。


「誰なんじゃ……? 奴との会話の中で一度も出てこなかった名じゃが、そもそも名前なのかこれは……?」


 いくら考えても情報が一切無い状態で答えが出る筈も無く、思考が散漫としてきてやがて重さに意識が向いたので一旦テーブルの上に置いた。


「後で聞くしか無いのぅ、取り敢えず他に暇潰しは……」


 面倒で目を背けていたテーブルに添えられている“キーボード打ち方表”を手に取り、布団に寝転がって興味無さげに見つめる。すると、日差しで透けた裏面の反転した文字が見えた。


「これは……」


 裏面を確認すると、そこに手書きでマウスの使い方が絵と文字が記されていた。


“キーボードがむずかしいと思ったら、こっちからチャレンジしてみよう!”


 ノートパソコンに備わっているマウスやブラウザ画面の絵、ブックマークから面白いと思った動画や公式チャンネルの音楽動画にアクセス出来るようブックマークへの移動手順の図が分かりやすく書かれていた。


「こっちを表にしろ馬鹿者……」


 その後は用意された作り置きの玉ねぎ入り肉団子を食べつつ、動画で時間を潰して誠磨の帰りを待った。




「ーーただいま~、はぁ」


 疲れた様子で深夜1時頃に誠磨は帰ってきた。


「ようやく戻って来たか、ったく夜中まで待たせおって」


「いやそういう仕事だし……、ってかそれお前……!?」


 誠磨はテーブルに置かれていた鎖が巻かれた本が目に止まった。


「あぁ、これについてお前に聞こうと思ってずっと起きてたんじゃ。それとお前この紙ーー」


 ミユリがマウスの使い方表を手に取ろうとした瞬間、誠磨が勢いよく分厚い本を手に取った。


「な、何じゃ……!?」


「開けて中を見たか?」


「いや、見ておらんが……そんなしっかり施錠されてはそもそも見れんじゃろうが」


「まぁそうか……、無理矢理壊した形跡も無いしな」


 誠磨は押し入れを開けてそっと本を上段に置いた。


「“ゆりな”……とは何じゃ?」


「ッ!?」


 折り畳み扉を閉めようとした手が止まる。


「……お前には関係無いことだ」


「あ”?」


「この本の事は忘れろ、ミユリの記憶と関係しない」


「何故そう言い切れる!!?」


「これはミユリがうちに来る前からある俺の私物だ、それに関係あるなら真っ先に見せるだろ? 10日もネットにかじりつかずにさ」


「ふむ……」


「まぁさ、鎖ぐるぐる巻きで怪しいのは分かるけど呪いとかそういうのじゃないから気にしないでいいよ」


 そう言って押し入れの扉を閉めて収納ボックスから替えの服を手に取る。


「風呂はちゃんと入ったか?」


「当然じゃ、お前の方は相変わらず変な臭いじゃな」


「だからそういう仕事だって……」


 誠磨は渋々とシャワー浴びに風呂場へ入室した。



 翌日、いつものように16時前に到着するよう家を出て居酒屋“千夜桜“に出勤し、控え室に入ると制服着た雛月が目の前に立って驚きの表情を浮かべていた。


「うそ……これ手品とかじゃないよね?」


「そうッスね」


「おはようございま~す、どうしたんですか?」


「あ、甘ちゃん! 深川君すごいんだよ! ほらもう一回やって、次はこれ!」


 雛月はテーブルについている深川に向けて未開封の炭酸飲料ペットボトルをかざし、深川がそれを視界に入れて数秒経過すると突如そのペットボトルの蓋が開いた。


「なっ……!?」


「やばいでしょ?」


「これ手品とかじゃないですよね?」


「それ私さっき言った」


「あ、そうでしたか……」


「……」


「これどうやったの? まさか超能力とか!?」


 目を輝かせながら雛月が深川に迫り、その間隔だけ深川の上半身も反対側へ傾く。


「し知らねッス……何か意識したら勝手に開いた、それだけッス」


「それエスパーじゃん! やばいじゃん!!」


 目の前で起きた非現実的な現象に興奮が止まらず、押し倒さん程に深川へ寄りかかる。


「いいから離れるッス! それ以上寄るなら……」


 深川の声が耳に入らないのか、押し寄せる雛月の勢いが止まらない。そしてーー



 パチンッ!



「……へっ!?」


 雛月は先程のきらびやかな表情とは別の、理解不能さに青ざめた驚愕さを浮かべて両手を胸に抱き後ずさった。


「……」


「雛月さん……?」


「……最低だよ」


 そう言い残して両手を抱いたまま厨房へと走り去った。


「はぁ……やっと静かになったッスか」


「……今の、雛月さんに何したんですか?」


「あ”ぁ”? アンタには関係無いッスよ」


「ありますよ、仲間に変な手口であんな風にされて……黙って見過ごせる訳ないでしょ!!」


「あぁ~……うるっさいなぁ、アンタも早く向こう行けよ」


「お前……!!ーーう”っ!?」


 深川の胸ぐらに掴みかかろうと近づいた途端、突如誠磨に強烈な頭痛が鳴り出し片膝をつく。


「あ”? 何してんすか?」


「ぐっ……あ”あ”あ”……!!」


 痛みが増して両手で頭を押さえながら床を転げ回り、それを椅子に座って異物を見るような目で深川が静観する。

 部屋を挟んだ向こう側にいる城崎店長は勢いよく胸に飛び込んできた雛月を受け止める。


「ーーなぁに~もう、深川ちゃん女になったってのにまだ男の性欲が残ってたのかしら?」


「知らないよ……私はただ教えてほしかっただけなのに」


「あんたがまた強引に押し入ったんじゃないの?」


「それは……多分」


「まぁ後で謝んなさい、あっちも混乱してるんだから。ほら、二人を追い出してとっととブラ着け直すわよーーん? 今何か聞こえなかった?」


「ッ! 甘ちゃん!?」


 城崎店長と雛月が駆けつけた時には、誠磨は外への扉の前で頭を押さえてのたうち回り、その数歩手前には薄らと笑みを浮かべた深川が突っ立っていた。


「甘ちゃん大丈夫!? アンタ、何やってんのよ!!」


「あ”ぁ”……あ”あ”あ”!」


「は? 別に」


「別にって……、甘ちゃんしっかり!」


 雛月が誠磨のもとへ駆け寄り、外れたブラのホックも気にせず抱き寄せる。


「アタシが病院に電話するから、雛月ちゃんはそのまま!」


「分かった!」


 雛月が必死に呼び掛ける中、深川はゆっくりと誠磨に数歩近づいた。


「ハッ……!? ぐぁあ”あ”あ”あ”!!」


 すると痛がる誠磨の様子が更に悪化し、雛月を強引に押し退けて外への扉を開けて飛び出し転げ回った。


「甘ちゃん!!」


 雛月は再び誠磨の元へ駆け寄り、必死に呼び掛けながらも戸惑いが露呈する。


「もうすぐ救急車がくるから、もう少しの辛抱だよ! (ーーこんな痛がる甘ちゃん見るの初めて……、それに頭痛でこんな転げ回るなんて普通じゃない! 救急車来るまで私どうすればいいの!?」


「雛月ちゃん! 救急車が来るまであと14分くらいだから、それまでこれ!」


 城崎店長は氷水が入ったビニール袋とハンドタオルを雛月に手渡した。


「これ当てれば少しは楽になるかも、アタシが身体抑えとくから頼むわよ!」


「分かった!」


 雛月が抑えきれないほどにのたうち回る誠磨を、城崎店長が上半身だけ軽く拘束し雛月が氷水の袋を額に押し当てる。


「お願い、もう少しだけ我慢して……耐えて……!」


 二人が必死に誠磨を救おうとしている中、扉越しに深川は静観したままでいる。


「ちょっとアンタ……ぼさっとしてないで手伝いなさいよ!!」


「あ~れ? 私が近づくとそいつ、痛みが増すみたいッスけど気づかなかったんすか?」


「……えぇ!?」


 深川から向けられた疑問が気になり、誠磨の額から氷水の袋が少し離れる。


「何やってるのよ雛月ちゃん! ほらしっかり当てときなさい!」


「ご、ごめん! (深川君が近づくと痛みが増す……? どういうことなの……!?)」


 その後、14分とは思えない長い時間の体感を経てようやく救急車が到着し、雛月を付き添いに誠磨は近くの病院へと搬送された。




つづく

「痛みを訴える描写」は私にとって課題ですね……、単調にならないようバリエーションを考えていますがシンプルに技量が伴う部分はやはり難しい。


今回は少し短めで申し訳ないですが、来週の金曜日をお楽しみに!

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