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Say!天缶!  作者: 信条
48/53

48缶目「割りきれない口癖?」

アースノーマットが全然効果発揮しない……この地域の生態には耐性がついているのでしょうか

 公園のベンチでスピルに両手が誠磨の左手を握り、顔が近い状況から誠磨は気の利いた言葉1つ出てこず背筋を伸ばしたまま固まる。その一方で、スピルの方はときめいている表情にも見えるが、その中に心配そうな表情が混ざっていて至って冷静な様子で誠磨の顔を見つめ、小声でゆっくりと誠磨に語りかける。


「甘巻さんと初めて会った時、私はあなたへの何か不思議な違和感を抱きました」


「……え!? (これって新手の告白パターンか!? いやでも、それなら“違和感”なんて呼称しないよな……)」


「最初は気のせいだと思っていたのですが、会う度にそれが少しずつ強まっていって……」


「(いやこれ告白パターンだろ絶対! 会う度に不思議な気持ちが高まっていって……それで?)」


「家に来た時には何やら強い静電気のような……磁場みたいなものを纏っている感じがして心配でした」


 勝手に浮上させそのまま撃沈した期待を表に出さぬよう、少し気を張ったせいで返答の声が裏返った。


「じ、磁場ァ!? あ、す……すみません」


「いえ、変に思われるのも当然ですから」


「いやいや変なんて思ってませんから、大丈夫ですよ (はぁ……そうですよね~、いきなり告白なんてしないですよね~。水族館のレストランでそれっぽいこと言われてもしかしたらと思ったけど……やっぱあれもノリの内だよね~うん……てか磁場ってなんだよ)」


 落胆した勢いで緊張が途絶え、高揚感を失ったが平常心は取り戻せたので残念ではあるが結果的に良しと捉える。


「それで、戻ってきたら急に倒れていたので慌てて安静な場所へ運んで、その違和感を内側から温めて外へ逃がそうと少し特殊なオイルを塗ってマッサージしました」


「あぁ、だからあの状況だったんですね」


「はい、少しでも元気になっていてくれたらいいなと思った矢先に、姉がミユリちゃんにあのようなーー」


「よぉ誠磨、その子は彼女さんか?」


 誠磨の座っている左方面から、紺色の作務衣を着ている繋益けえきがピルカの発言に食い気味のタイミングで歩み寄ってきた。同時にピルカが少し慌てた様子でピンク色のファイルを自分の鞄に仕舞い、誠磨はそれで秘密の情報であると認識する。


「いえ、そういうのでは……」


「そうか、流石にミユリ嬢を放っぽって昼間から女の子とデートなんてしないか。すまんすまん」


 そう正しくも軽く腹立たしい言い草で、軽く頭を掻きながら欠伸する。


「こんにちは、私は甘巻さんの友人のピルカと申します」


 座ったままピルカが軽く会釈する。


「ぴ、ピルカさん? あぁ海外の方かな?」


「えぇまぁ」


「どうも、俺は誠磨の友人で、誠磨が住んでるアパートの大家やってます」


「大家さんですか! すこいですね」


「ハハハ、どうもーーそれで二人はここで何やってたんだ?」


「えっと……少し前にここに来て喋ってただけです、繋益さんはこれから何処か行かれるんですか?」


「あぁ俺はコンビニへプリペイドカードと昼飯買いに行くとこ、悪いな邪魔して……また連絡する」


 繋益は欠伸する口を手で覆いながらもう片方の手を振って、二人の前を真っ直ぐ通り過ぎていった。ピルカはその後ろ姿を確認して、見えなくなってから誠磨の方へ顔を向ける。


「見られてないでしょうか?」


「多分……、人の隠そうとする物にあまり興味持たない人ですから、見られたとしても多分問題ないですよ」


「そうですか……良かった。ではさっきの話に戻りますが、姉の行いについては私が責任を持って処罰を下す方へと向かわせます」


「はい……、警察にはもう引き渡したのですか?」


「いえ、まだ……ですね」


「そうですか、取り敢えず自宅から出さないようにお願いできますか? ミユリは今もショックが大きくて昨日パニックを起こしましたし、二度とあんな目にあわせなくないので。 妹さんに言うのは酷だと思いますが」


「いえ、受け入れます……。さっきの缶詰については、あれ以上の情報が今は無いのでまた調べてきます」


「ありがとうございます、俺も探してるんですけど一切出てこなくてネットに関してはもうスピルが便りで……」


「っ! ……じゃ、じゃあまた……会ってくれますか?」


「もちろんですよ、スピルさんとは友人ですし姉の件で大変でしょうから尚更です」


「ありがとうございますッ! では今から調べてきます!! あ! あと甘巻さんが持ってる缶詰の写真は、危ないですからネットにアップしないでくださいね!」


「え、あ、ちょっとーー」


 スピルは誠磨の困惑に構わず勢い良く立ち上がって大きく会釈し、鞄を両手で前に持って走り去っていった。


「(何回見てもやっぱ変な走り方だな~、まぁ一応は情報が手に入ったし時間空いたし一旦帰るか……)」


 待ち合わせの為だけに来た近所の公園で、8月の昼頃という猛暑の中ベンチに座らせて数十分会話しただけ。それでどこかへ移動するでもなくそのまま一人で帰らせてしまった、そんな小中学生が借り物を返す時くらいにあっさりとした別れに罪悪感を抱いて暑さも合間って全身に重みがのしかかる。


「次はフェイズ挟まず直接カフェで待ち合わせよう……あじぃ」



 用事で早く出掛けると言って外出してから、30分と経たずに戻ってきたせいでミユリに軽く嫌みを言われる。だがスピルから教えてもらった情報を忘れないうちにメモする為、テキトーにあしらいつつテーブルに座りパソコンを立ち上げる。


「(磁場ねぇ……粕寺さんや職場の皆からは言われたことないけど、もしかしたら性別が変わってしまった深川さんの部屋にも缶詰があるのかもしれない。前に軽くリビングを見た時は無かったけど、他の場所に置いてあるかどうか一回聞いてーー)」




「あ”ぁ”? 知らねッスよ、んなもん」


「そ、そうですか…… (口癖は本人そのものだし別人と割りきれない分、対応が本当に難しいな……)」


 出勤して控え室に入ったところに深川が厨房の制服着て座っていたので、声を掛けたのだが恫喝紛いで会話を打ち切られる。その後も何度かそれとなくテキトーに話題を振るも無視されたので、本人に聞くのを諦めてシフト表を確認する。


「(あぁ今日は雛月ひなづきさんも一流木いちるぎさんも居ないのか……、ホールは女子高生と女子大生のアルバイト2人。厨房は俺と店長と……深川さん。まぁ今日は店長いるし深川さんの教育お願いしようかな)」


 気楽にやれるよう頭の中で、店長に教育任せる為の口実をいくつか用意しながら着替えて厨房へ入る。が、今日は暇な日だから奥で作業すると言われて、結局は厨房のメインと教育を任されることになった。



 一方、缶詰から出て10日余りのミユリは、いい加減時間潰しと記憶刺激の為にやっていた“Lili Princess of nighit”というアクションゲームもクリアしてしまい、音ゲーのDjmixをプレイしているのだがそれも誠磨が出勤して2時間ともたなくくなってきた。


「あ”あ”あ”あ”……暇じゃ、もっと他にやること無いのかこの部屋は……」


 部屋の中を見回すと、モニターの下にあるデッキの中に何本かPZ4用のソフトがいくつか置いてある。しかし誠磨の許可無しにプレイ出来ない決まりを設けられているのですぐに視野から外す。

 そしてテーブルに置いてあるパソコンと、誠磨がいつも出掛ける前にパソコンの横に添えているキーボードの打ち方表に目が止まる。


「……はぁ」


 だが知らない文字の羅列を覚える気にならず、プニィの巨大クッションもたれかかって溜め息を漏らす。


「妾はいったい何者なんじゃ……」


ーー何故この部屋で目が覚めたのか


ーー記憶を失ったきっかけは何なのか


ーー自分を知っている者は存在するのか


ーー自分は本来どこに存在すべき者なのか


 そう頭の中をかき回しては、1つも答えの出ない思考に腹を立てる。



「……そういや、あれは何だったんじゃろうか」


 ミユリはふと数日前に隠れた押し入れの中の事を思い出す。


「あの時足が滑って体勢崩して、頭に当たった四角い固いやつ……」


 口にした途端急に気になり出して、身を任せていたプニィのクッションから起き上がって押し入れの前に移動し、折り畳みの扉を開けて真ん中の仕切り板を潜って下の方を見渡す。


「確かこの辺に……あった、これじゃな!」


 ミユリは床に落ちている鎖グルグル巻きの、辞書くらいに分厚く留め具の付いた本を手に取った。


「重っ……、何の本じゃ?」


 分厚い本の表面や背表紙に題名は無く、茶色い厚紙カバーに金色の細かい装飾が輪郭に沿って施されている。


「魔導書か何かか……? これで妾を召喚した……とか?」


 4桁のダイヤル錠付きで、しっかりした鉄の鎖が巻かれていていかにも禁忌的な物体であると思わせる見た目である。その裏表紙を見てみると、表面と違って無地だがそこの右下に小さく書かれていた横並びの平仮名3文字を見つけた。


「“ゆりな”……?」 


 見知らぬ名らしき文字に困惑し、重さを忘れてミユリはその場に立ち尽くす。





つづく

8月に入って夏本番、いよいよ暑さも本気出してきましたね……。

この時期になると、幼い頃よく市民プールに連れて行ってもらった帰りに飲んだプリンシェイクの缶ジュースを思い出します。

あれまだ売ってるかな~



ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!

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