46缶目「悪態2号?」
数日前、近所のコンビニにコカ・コーラ社のエナジードリンクが並んでたので試しに買って飲んでみました。
普通のコーラに若干ドクペが混ざったような薬っぽい味が加わっていて、刺激も薄くエナジードリンクの中では癖が控えめで飲みやすいと思います。
でもやっぱり私はMonster派かな
深川を自宅からサルベージした当日、出勤までの空き時間もシフトに入れてほしいと頼んで誠磨は制服に着替えて調理の仕込みに、一流木はホールの準備に取り掛かる。
その間に雛月は深川を厨房用の制服に着替えさせる為、上下のサイズを選んで着替え用のカーテンの奥へと引っ張り入れて服を脱がせる。
「さぁて、よいしょ!」
「ひぁっ!? この……やめろ! どこ触ってんスか!」
深川の履いているジーパンは明るめの青色で、色はまだギリギリ良しとされるがダメージ系で膝が破れているタイプだったので衛生面を考慮して脱がせた。その際に吐息が太ももに吹きかかってしまったせいか、触れられたと勘違いした様子。
「私触ってないよ~、息がかかっちゃった? ゴメンね (本当に無いんだ……)」
「この……」
「黒い派手派手なパンツ……、これは後で一流木ちゃんに聞いておこうーーえいっ!」
続いて真っ黒な無地のTシャツを両手で引っ張りあげて上も脱がせる。
「いぁあ!?」
「うわぁ~……キャミソール、しかも真っ黒だけどレースが付いててかなり透けてる……私でも着たことないよそれ (ってこっちはあるんかい! しかも私よりちょっと大きいのがムカつく!!)」
「うるさいッスよ!! 起きた時にこの状態だったんすからしょうがないじゃないッスか!!」
「ごめんごめん、ほらこれに着替えるよ足上げて」
「自分で履けるっすよ……」
「まぁまぁ、良いから足上げなさいな」
「……」
深川は不貞腐れながらも片足を上げて左右順番に指先を通し、上の制服も同様に履かされる。
「ベルトはジーパンに……付いてないか、じゃあ今度買いにいかないとね。下着と一緒に一流木ちゃんと3人で買い物行こっか!」
「お断りッス」
「だ~め、強制連行! 決定事項!」
「はぁ……」
雛月の勢いに気圧されながら、その後も深川はワンツーマンで厨房仕事の基礎を学ばされる。誠磨がアドバイスなり加勢しようとすると無視して別方向へ歩き出し、雛月がその後ろで顔に手を添えて謝るジェスチャーを向ける。
「じゃあ後は任せるけど、バイトの子まだ来てないわね。雛月ちゃん電話した?」
「したけど出なかったよ、シフト入ってるってことは今日部活無いと思ってたけど……どうなんだろう」
「もうバイトの子契約切っちゃえばいいんじゃないですか~?」
「そういう訳にもいかないのヨ~、アルバイトをこっちから勝手に切ることは出来ないのーーえっと代わりに来れる子はっと……」
調理の仕込みと事務作業を終えた城崎店長はデスクに置いてあるパソコンからシフト表を確認し、出勤できそうな学生アルバイトを探したが空いていそうな子はいなかった。
「他の学生の子にも電話したけどダメだったよ、夏休みこそアルバイトしたい子結構いると思ったんだけどなぁ……皆やっぱ遊びたいのかな」
「親から貰えるお小遣いが多いんじゃないですかね最近の子は、だからサボっても平気だとか。ゲームの課金の為にコンビニに走ってる子もいるとか聞きましたけど」
「はぁ……羨ましいんだかそうでないんだか、今日は4人で回すよ」
「は~い」
「了解しました」
「……」
「まぁ仕込みの量も念の為増やしておいたし、これだけ準備していれば大丈夫でしょ。もし夏休み大学生の小隊が押し寄せてきて、やばかったらアタシを呼んでちょうだい」
「了解、お疲れさま~」
シフトに入ってない城崎店長は帰宅し、4人で営業時間を迎えることとなりキッチンとホール2人ずつに分かれて配置についた。キッチン担当の誠磨と深川は業務用冷蔵庫の前にある作業台の端に少しもたれかり、ペアとなった以上は連携をこなす為にコミュニケーションを取ろうと誠磨が深川の方へ顔を向けるが、深川は一向に誠磨の方を見ようとしない。
「分からないことがあったら遠慮なく言ってくださいね、俺ここでそこそこ長くやってますから」
「……」
「あの、聞いてます?」
「あ”ぁ”ん? 別に聞いてないッスけど」
視線だけ誠磨に向けて細く睨み付ける。
「(何で聞かずにそんな態度が出来るんだよ……)ーー分からないことがあったら遠慮なく俺に言っていただければと」
「結構ッス、あっちで聞くんで」
「あっちって雛月さんのこと? でも向こうも2人だしわざわざこっちにまで来てサポートしてもらうのは……」
「なら聞かないんで大丈夫ッス」
「(それ大丈夫とは言えないだろ……、俺の何が気に食わないんだよ)」
コミュニケーションが上手く取れない不安を抱えたまま徐々に来店のドアベルが鳴ってゆき、ホールの2人は元気よく客を出迎えに動き出した。
「さて、じゃあ落ち着いて注文捌いていきましょうか。深川さんは今日何やるか聞いてます?」
「……」
「じゃあ……今日はサラダとモツ鍋を担当してもらいますね。簡単ですぐ出来ますから」
「……チッ」
「(……男だった時の深川さんは、こんな喧嘩売るような態度じゃなかったのに……。俺の言葉に真っ直ぐ受け答えしてくれて良い連携取れていたのに……、本当は内心でこんな風に思っていたのか?)」
スクショで見せられたあのLINERのメッセージが真実ならば、変貌したのは身体だけで中身は変わっていないことになる。だが、いくら送信時期とタイミングが噛み合っているとはいえ、そんな知らない誰かからのメッセージを鵜呑みにするほど軽率な考えを持つわけにはいかない。
迷惑メールの類いにしてはURLや出会いに関する言葉が無く、書かれていたのはS8という名のアカウントから“来週、君は本当の自分を得る”などというダイエット商品のキャッチフレーズのような一言だけ。
当人の悪態から目を背けたいが為か、その謎について考え始めるがーー
「ーーは~い注文入りま~す! 軟骨、チーたま、シーザー1人前、モツ鍋4人前お願いしま~す!!」
一流木の景気良き声でオーダーが寄せられ、それに応えるよう誠磨も精一杯に返した。
「あいよ~!! さて、じゃあ早速サラダから作ってもらっていいですか? 俺、軟骨と卵やりますんで」
「……チッ!」
深川は力強い舌打ちをしながら作業台の横を靴裏で押して前に出て、キッチンの奥にあるサラダ用の調理場へ歩いていった。
「あ、先にこの冷蔵庫にあるモツ鍋からやったほうが……」
作業台の横にある冷蔵庫の方を指差したが、深川は無視して奥に入っていった。
「俺がやるか……」
誠磨は冷蔵庫からラップされて4人前の具材のみが盛られているモツ鍋を取り出し、ラップを外して専用のスープを適量入れて前に出す。
そして衣が付いた軟骨をフライヤーに入れて、チーズ入りの卵焼きをレンジで温めてそれぞれ別の洒落た陶器皿に乗せて前に出す。だがサラダの方はまだ出ていなかった。
「深川さん、大丈夫ですか?」
「……」
調理台の上に置いてある白い皿には見映え悪く散乱しているレタスとクルトンのみが乗せられていて、とてもお客に出せるような代物ではなかった。
「あと……サラダだけですよ」
「……うるさい」
「やり方教わってなかったんですか? なら俺がーー」
「うるさいッスよ!!」
「どうしたの~?」
深川の怒鳴り声を雛月が聞き付けてキッチンに入ってきた。
「あとサラダだけだけど……、これじゃ出せないわね。やり方忘れちゃった?」
「……」
「じゃあ私がもう一回やるから、しっかり見ていてね。一回で覚えなくても大丈夫だから」
雛月は深川の背中を軽く叩いて優しい声色で落ち着かせ、お客を待たせまいと素早く丁寧に仕上げた。
「また後で教えるから、一回で覚えなくてもいいからね~! あと甘ちゃんの言うことちゃんと聞いて~!」
そう言ってサラダをお盆に乗せて急いで客席へと運んでいった。
「……」
「(家でも店でもこういうのと向き合わなきゃいけないなんて……、俺の居場所を全て失われた気分だ)」
その後も深川は一向に誠磨と向き合おうとせず、指示を無視し続けているせいで店が回らないので誠磨が閉店までのそこそこ忙しいオーダーを全てやりきった。
「……あぁ~」
「甘ちゃんお疲れさま、はいこれ」
控え室のテーブルで誠磨が突っ伏しているところに、雛月が麦茶のグラスをそっと置く。
「あざっす……」
「いいよ、ゆっくり休んでーーもう、甘ちゃんの言うことちゃんと聞いてって私言ったよね?」
後ろからついてきた深川に雛月が叱る。
「……」
「記憶を無くした子にいきなり戦力になれなんて言わないよ? でも、一緒にやる先輩のこと無視して仕事全くしないのはまた別の問題だよ?」
「まぁまぁ陽与ちゃん先輩……彼、ていうか彼女? は、まだ混乱してるんですよきっと」
「分かってるよ、でもこのまま無視したり怒鳴ったりされて仕事しないのは見過ごせないでしょ。これからどうしていくつもりなの深川君?」
「……」
「すみません、俺の言い方や一人でパパッとやっちゃったのが悪かったと思います、次から気をつけます」
「それは……う~ん」
「まぁ明日また頑張りましょ! それよりこれから深川君をどうするか考えましょうよ」
「そうね……、深川君は自分で家に帰れる?」
「……無理ッス、知らないんで」
「そっか~、どの道このまま家で一人にさせるのは危なすぎるし、う~んどうしよう」
「じゃあ私が預かりましょうか? 一人暮らしですし、女の子同士なら変な危険も無いと思いますし大丈夫でしょ」
「そんな簡単に引き受けちゃって大丈夫なの? 荷物のこととか家賃とか生活スペースとか……」
「(耳が痛い……)」
「まぁ大丈夫ですよ、娯楽系は何も無かったので服と日用品、あと布団だけ運べば問題ないかと!」
「娯楽系ならPZ4が床に置いてありましたよ」
「じゃあそれも回収ですね」
「深川君の部屋はどうするの? 家賃払って継続するの勿体ないけど、解約するのも色々と……」
「一緒に大家のところへ相談に行って解決してきますよ」
「……一流木ちゃんのたくましさに私惚れちゃいそうだよ」
「あらあら陽与ちゃん先輩~、私と誠磨さんとで両刀を狙っーーいだっ!!」
雛月の手刀が一流木の頭上から振り下ろされて言葉が遮った。
「私も悪いけど、そこまでじゃないから! バカなこと言わないの!」
「は~い……」
「じゃあ時間ある時に私も協力するから、遠慮無く言ってね。さっきのような発言はダメだけど」
「ありがとう陽与ちゃん先輩~! じゃあ早速、この後荷物の運び出ししてきますね」
「……ところで一流木ちゃんって、車持ってないよね?」
「えぇ、徒歩でやりますよ」
「いやダメだよこんな暑い中でやっちゃ……布団も徒歩で運ぶつもりだったの!?」
「もちろんです! だって車持ってませんから!」
「その堂々とした笑顔に胸が痛いわ……。私が車出すから、お願いだから無茶しないで」
「は~い、ありがとうございます」
「甘ちゃんはゆっくり休んでていいよ、今日疲れただろうし、うちの車小さいから4人乗ると荷物入らないと思うし」
「すみません……ありがとうございます」
「さて、じゃあ帰り支度で着替えないとね。一流木ちゃん、深川君を確保!!」
「うぃっす!」
一流木は深川を両腕で捉えてそのまま更衣スペースに連行し、カーテンで視界を遮った。
「そのままストリップ!!」
「うぃっす!」
「ちょ……おい! 自分で脱ぐからやめるッス! ごらぁあああ!!」
カーテンの向こうで入り乱れている様子がシルエットと声から伺える。
「ははは……、じゃあすみませんけど俺はこれで上がらせてもらいます。失礼します」
「はいお疲れさま~、また明日ね」
手を振る雛月に会釈し控え室から外へ出る、そして自宅に向けて生暖かい風を受けながら歩き出す。
「さて、悪態1号の元へ帰るか……」
つづく
今回は深川と一流木で2人の誠磨に対する接し方に大きく差が出始めている、そんな感じを強調したかった回です。
ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!




