45缶目「明るみの嫌悪?」
今回は間延びしないよう少し短めにしてみました
雛月の合図によって始まった、店の控え室にて開かれた深川の状況におけるミーティング。4人が丸椅子に座り正方形となるよう身体を中央へ向けて、まず雛月が誠磨と一流木に問いかけるところから始まる。
「じゃあまず甘ちゃんと一流木ちゃん、二人が深川君の家に行ったときのことを詳しく聞かせてくれる?」
「では俺から話します、まず深川さん家に着いて暫くはインターホン押しても反応が無かったのですがーー」
そうして誠磨が数分かけて、深川の自宅での出来事を頭の中で一度整理しながらありのまま全て雛月に伝えた。
「ふんふん……なるほど、ありがとう。じゃあ次は深川君について聞きたいんだけど……良いかな?」
「あ”ぁ”? 別に話すことなんて無いッスよ、それより早く解放してくんないッスかねぇ……」
深川は苛立ちを隠そうともせず、激しい貧乏揺すりで椅子の脚をガタガタと鳴らすも雛月は構わず質問を投げ掛ける。
「あなたの名前は深川昴君で合ってる?」
「そうッスけど……」
「ならここ最近の出来事で覚えていることを全部、この場でちゃんと私たちに教えて。そしたら解放してあげる」
「はぁ……何で私が他人にわざわざそんなことを……」
深川はうつむいて後頭部を掻きむしるが、ほんの一瞬だけ不自然なタイミングで一回だけ頭部を僅かに上下させてのに誠磨は違和感を覚えた。だが今の深川の挙動は3人にとってはいわば初対面とも言える状態で、癖なども把握していないので二人がツッコまないでいる状況に準ずることにした。
「……先週、私宛にメールが届いてたッス」
「メール?」
深川はジーパンの右ポケットからスマホを取り出し、LINER画面のスクリーンショット1枚を3人に見せる。そこにはアプリ内での友達リストに無い“S8”アカウントからメッセージが送られてきたものだった。そのトーク画面の上部に“登録されてない方からメッセージが届きました、登録されますか?”との注意書と、その下に登録とブロックと通報の3ボタンが設置されている。そして本文にはたった一言のメッセージだけが寄せられていた。
『来週、君は本当の自分を得る』
「……本当の自分?」
「じゃあその、陽与ちゃん先輩にまで悪態ついてる今の貴方が本性ってこと?」
「んなもん知らねッスよ、前の自分を覚えてないんスから」
「え、でもそのメッセージが来た時にはまだ貴方はーー」
「覚えてるのはこのメッセージをスクショで残してからブロックしたってことだけ、それ以前も以降も覚えてないッス。もういいッスか?」
「(目が覚める前の記憶を殆ど失った状態で、面影こそあるが髪型や体格など完全に性別が変わっている……。この非現実的な状態はミユリに少し似ている気がするが、ミユリは体格の方は本人の自称だけで変化しているかどうか分からないし、記憶も殆どではなく全て失っていると言っていた。二人を重ねて考えるのにはまだ情報が足りないな……にしてもこの香り……)」
「それ以前も以降もってことは……二人が深川君の家に来るまではどうしてたの?」
「だから知らねッスよ! こいつらに呼び鈴や大声で無理矢理起こされるまではずっとーー」
言葉の圧が弱まっていって言い切る前に深川は後ろへ身体が傾いて椅子から滑り落ち、左右に隣接して座っていた雛月と誠磨が反射で席を離れて床に触れる前にスピードで間に合った誠磨一人がお姫様だっこの形で深川を受け止めた。
「深川さん! 大丈夫ですか!? (似ている……)」
「しっかりして!」
「私、水持ってくる!」
雛月が急いで厨房へと駆け込み、その後は二人で深川に呼び掛ける。
「しっかりしてください!」
「急にどうしたの深川君!?」
「……腹」
「ん?」
「腹……減っ……」
「っ! 誠磨さん、そのまま抱き抱えててください! 私ごはん作ってきます!!」
「は、はい、お願いします! (空腹で急に倒れたってことは俺たちが来るまでの間、満足にご飯を食べず寝て過ごしていたってことか……?)」
当人が記憶が無いと主張している以上、疑問の答えを聞き出すことは体力回復させた後も出来そうにないのでそのまま頭の片隅に仕舞っておくことにした。そして数分もしないうちに雛月が500mlの水のペットボトルを片手に戻ってきて、開封し深川の口に傾けた。
「ほら深川君飲んで! すぐに一流木ちゃんがご飯作ってきてくれるから!」
「……」
朦朧とした様子で、流し込まれる冷水をゆっくりと口に含んで喉に通す。
「二人が来るまでどうやって過ごしてたのよ……、どうして誰にも相談しなかったのよ!!」
「雛月さん……」
表向きでは深川への注意する様子だが、誠磨は雛月が自身に対して頼られなかった不甲斐なさを悔いているように見えた。
「おまたせしました~! さぁ誠磨さん、そこ座らせてください」
一流木が黒色でアーモンドようなの形をした陶器皿を片手に戻ってきて、テーブルにレンゲと一緒に置いた。
「急いで作ってきたんでメニュー通りの高菜明太チャーハンですよ~」
「ありがとうございます、深川さん立てますか?」
誠磨が深川をお姫様だっこの状態から立たせようと少し重心を前へと傾ける。するとそれを思いきり押し除けて匂いの釣り針に引っ掛かったように自分で起き上がり、テーブルにもたれかかるような姿勢へと勢いよく皿に飛びついたがーー
「いっ……痛い痛い痛い痛いッ!!」
深川はテーブルの淵に胸部をぶつけた勢いで反射して床に転げ回る。
「大丈夫ですか!?」
誠磨が近づこうとするも深川に膝を足蹴されて拒まれ、見かねた雛月と一流木が二人がかりで抱き起こして丁寧に椅子に座らせる。
「そんなぶつけかたしたら痛いに決まってるでしょ、押さえてて良いからほら口開けなさい」
雛月が代わりにレンゲを持って深川の口内へチャーハンを運び入れる。
「い”ぅ……」
「男だった時の記憶が無くて、女の子である自覚も無いなんて……いったいどういう心境なんですかねぇ」
「(端にぶつかったら確かに痛いけど、あの距離からでそんなにか……?)」
一先ずは深川が大人しくチャーハンにありついている間、3人はそれを見守りながら各々自分なりに分からないながらも考えをまとめていく。
やがて痛みが引いて自分で食べるようになってからはペースが早まり、あっという間に平らげてしまった。
「足りない……」
「まだ食べたいんですか!? そこそこ多めに作ったつもりなんですけど~……」
「どれだけ食べないで過ごしてたのよ……って聞いても分からないか」
「……またこのパターンかよ」
誠磨は自分とミユリが出会った時に振る舞った状況と、目の前の状況にあまりの類似さを感じたせいでつい小言を呟いてしまった。
「「え?」」
「あ、いや……何でもないです、すみません」
「足りない……足りない!!」
「えっと……じゃあ私何かまた作ってきましょうか?」
「うぅん、大丈夫だよ一流木ちゃん。ありがとう」
「いいんですか?」
「うん、大丈夫ーー深川君、さっきの分は貴方が危ないと思って急いで作ってきてもらったけど、今はそれ以上あげられないよ」
「あ”ぁ”ん?」
「働かざる者食うべからず、ちゃんと働いたあとにまた食べさせてあげるから。いい?」
「だから動くにも足りないってーー」
「いい?」
「……うっす」
「よしよし、この店や私達のことを覚えてないってことは仕事の内容も覚えてない?」
「……全くッス」
「じゃあまた一から仕事を覚えないとね~、今後バイトの子達に何て誤魔化せばいいかも考えないと……新人を装うか身内の方と偽るか、う~ん」
「平日で良かったですね陽与ちゃん先輩、私も考えますから一緒に乗りきりましょう!」
「ありがとう! ほんと二人ともゴメンね、シフト日の昼に来てもらって……今度お礼するから!」
「いえいえ、お気になさらず (ミユリと出会って10日と経たないうちに俺の身近で記憶喪失者が一人……、ミユリの主張と同じ“身体を作り替えられた状態”で見つかった。こんな非現実的な偶然があるのか……?)」
自分が思っていたよりも事象の規模が大きいのではないかと一層不安が過り、いくつもの抱えている問題をぶちまけてやりたいと喉まで出かかったが飲み込んだ。今二人に自分と同じ負担を与えてしまったら、何処かの何かが壊れてしまうような気がしたからだ。せめて二人が直面している深川の状態を解決してから、ミユリのことから順番に話していこうと心に決めた。
問題と謎が増えるばかりではあるが、その中でも今はたった1つだけ誠磨に分かったことがある。
「(深川さん、俺のこと嫌いだったんだな……)」
つづく
投稿した後に読み返すと、やはり句読点の打ち方が悪くて読みづらい部分が見受けられますね……すみません。後々時間ある時に直していきます
ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!




