41缶目「稀有な構造?」
今回は人によってキツい部分があるので少し心配ですが、元の案より大分マイルドに抑えたのできっと大丈夫……なはず!
スピルに強引かつ丁寧なマッサージを受けさせられる誠磨は、すぐにでもミユリの元へ向かいたい筈なのに今の状況を続けたい気持ちの方が強まって自分で身体を動かすことが出来ない。
「スピルさん、あとマッサージどのくらいかかります?」
「そうですね~、表面の部分は大分解れてきたと思いますが、芯の部分がまだ固い感じなのでもう少しかかりますね。背中を上にしていただいてよろしいですか?」
「はい……」
スピルは少し後ろを向いて手に粘液をまぶし、誠磨の背中へゆっくりと粘液を伸ばしていく。
「何か温かくなってきましたね」
「えぇ、オイルを染み込ませて内側も温めております」
背を向けになってスピルの顔が見えなくなったからか、マッサージに慣れてきて緊張する要素が無くなって誠磨はまた睡魔によって眠りについた。
「どうぞごゆっくりお休みください」
ーーー
ーー
ー
暖色の明かりに包まれた薄暗い部屋でくつろぐ二人とは反対に、真っ白で逆に落ち着かない空間でもう一組がぶつかり合う。
「くたばれ腐リンゴ女がァアア!!」
「何よそれ、アタシのことぉ?」
ミユリの放つ拳を軽々と身体を左右に最小限ずらして余裕着々と回避するピルカ。
「どうでもいいけど、語源を知りたいわね~それの……っと!」
避けたタイミングに合わせてピルカはミユリの鳩尾を狙ってボディブローのように下から拳を突き上げる。
「ガハァ……ッ!!」
反動で後退し両手で腹を抱えたながらミユリは床でうずくまる。
「あ、ごめんごめん腹殴ったら喋れないよね~、アハハ! 背中叩いてあげようか~? トントンって」
「殺す……」
「まさかアンタが半端者だったなんてね~、どうりで女の子の見た目なクセして変に気に食わないと思ったわ」
「黙……れ……」
「聞いてたのと違って全然手応え無いっつうか~、戦闘タイプじゃないアタシに完敗って弱すぎじゃない?」
「絶対……殺す!!」
「あぁ殺すのはアンタじゃなくてアタシ、今はちょっと遊んであげてるだけよ。スピルにも少し多目に時間とらせてるからさ」
「……」
「あんたの男は今頃うちのスピルに気持ちよくしてもらって、出るもん出てんじゃないの? それが何かっていうと~」
「ッ!!」
ミユリはバネのように立ち上がって顔面に向けて右拳を放つ、だがピルカの左手に捕まれてそのまま壁へ蹴り飛ばされてしまう。
「アハハ、何を想像したの? アタシ“声”って言おうとしたんだけど~?」
「……」
「はぁ……、喋らなくなったしつまんないからもう殺すわよ」
壁際で横たわりながら血眼の殺意を向けるミユリの元へ、手ぶらのまま近づいていく。
「本当なら拘束具を着けて痛ぶるなり好き放題やってから殺すつもりだったけど、正々堂々と屈服させるチャンスを与えてあげたのよ。一応はスピルの友人らしいからさ」
「……」
「けどまぁ、これは一生かかっても膝まつかせられることなさそうだし素直に死んでもらうわよ」
馬乗りになって両手で首根っこを掴み、じわじわと力を込めて絞め上げていく。
「ぐっ……」
「これで天国へ送り返してあげるから、感謝なさい!」
「……せ……ま……」
脳裏に浮かぶ言葉を虫の息に乗せるが、脛椎の軋む音に掻き消されて意識と共にか細く消えかけている。
「半端者の上に乗るのなんてアタシらにとっては屈辱だけど、人間的に殺されるアンタも屈辱的でしょ?」
「……」
消えかかる意識の中、ピルカの言葉を解釈すべく頭を回すも思い当たるフシが無く脳への酸素供給を絶たれているせいで思考が定まらない。だが明確な殺意を向けられていることだけはハッキリと認識した。
「すぐに首の骨を折るんじゃ味気ないからさ……、その生意気なガキの顔が歪むのをもっと見させてよ」
首にかかる握力が徐々に増してゆき、窒息するかへし折られるかの大差ない死因を迫られる。そして視界の端から白く塗りつぶされようとした時、突如部屋の外で爆撃のような音が鳴り部屋が大きく揺れだした。
「うわっとと……!」
馬乗りの体勢を大きく揺さぶられたピルカは不意に横へ転倒する。
「いっっつぅ~……」
「ーーいってぇ!!」
それとほぼ同じタイミングで誠磨もマッサージベッドから床に転げ落ちて、ふらつく頭を押さえながら目を覚ます。
「大丈夫ですか!?」
「はい、俺は大丈夫ですが……何これ、爆撃?」
「分かりません……外からでしょうか?」
「ちょっと俺、ミユリのところへ行ってきます、マッサージありがとうございました!」
「あ、ちょっと……!」
駆け寄るスピルの手を軽く払って、傍のカゴに畳んで置いてあるTシャツを急いで着用する。粘液でシャツ全体が張り付いているせいで着心地は最悪だが、最早気にしている余裕は無くドアノブを捻って扉を押し開けて部屋を出る。
「えっと、ミユリ……というかあのお姉さんのいる部屋は……?」
部屋を出た先はリビングではなく、窓が設置されてない白いライトのみが照らす無機質なコンクリートの通路であった。
「来た時と内装が違いすぎて分からん……どっちに行けばーーぬわっと!!」
迷っている間に再び爆撃らしき音と共に床が大きく揺れた。
「こっちです!」
「え、あ……ちょっと!」
部屋を出てすぐの所で立ち止まったせいで、早々にスピルの手に捕まってしまったが先ほどの部屋とは別の方角へと引っ張られていった。
「……ゲホッ……ゲホッ!」
「運の良い奴ね~、まさかこんな邪魔が入るなんて。こんなことならもう少し早めに殺っとくんだったわ」
ピルカはポケットから真っ赤な金属フォルムのバタフライナイフを取り出し、下のロックを外して折り畳まれた片方を持ちながら手首のスナップを利かせて縦回転させ金色の刃を展開する。
「これも人間的な殺害法よね、フフフッ……これでくたばんなさい!!」
逆手に持ったバタフライナイフがミユリの心臓の上に掲げられ、そのまま勢いよく降り下ろされる。
「……っ!」
抵抗力を失ったミユリは仰向けのまま目を強く瞑って死を覚悟したが、寸前のところで刃の進行を阻害された。
ーーバァンッ!!
「ミユリ!」
扉を勢いよく開けて誠磨が部屋に入るなり目の前の光景に騒然とする。
「え……?」
「アンタは……」
続いてスピルも誠磨の後から入ってきて二人の状況を見て両手で自分の口元を覆う。
「な、……何やってるの姉さん!!」
「す、スピル……これはーー」
「今すぐミユリちゃんから離れて!! それ捨てて!!」
スピルが今までに無い怒号の混じった声をピルカに浴びせ、ピルカは黙っておずおずとミユリから離れてバタフライナイフを壁際に捨てる。
「大丈夫ミユリちゃん!? 誠磨さん、早く病院へ電話を!」
「は、はい!」
誠磨は挙動が激しく乱れながらも自分のスマホから病院へ連絡し、到着した救急車にミユリが担架で乗せられ、誠磨とスピルが付き添いで乗って近くの市民病院へと搬送された。
ーーー
ーー
ー
「え~、首元に両手による絞首の跡がありますが、それによる脳への異常や肩回りの神経における後遺症の恐れはないでしょう」
「良かった……」
黒髪の若い男性医師から検査の結果を聞いて、誠磨とスピルはそっと自分の胸を撫で下ろす。
「他に外傷は無いのですが……、お二人はこちらの患者さんの身内の方ですか?」
「え、えぇまぁ……」
「私は二人の友人です」
「……」
「では過去にこの方について何か検診の結果などを聞かれたことってありますか?」
「いえ、特にそういったものは……」
「そうですか……では本人に伝えるかはお任せ致しますが、これから少し変わったことをお伝え致します。よろしいですか?」
「(ミユリについて何か分かったってことか……?)ーーあ、ちょっと待ってください。その前にスピルさんはあの人のところへ戻っていただけませんか?」
「分かりました……、あの、この度はうちの姉がこのよぬあ事態を招いてしまい申し訳ございません……!」
スピルは誠磨の方を向いて深々と頭を下げた。
「……俺もあぁなるとは思ってませんでしたが、これで分かったでしょう? 二人だけを引き合わせてはいけないって」
「はい……重々承知いたしました」
「ミユリはもう貴方の自宅へは連れていきません」
「はい……」
「ではあの人のところへ向かってください」
「分かりました……、今回の医療費等は全てこちらでお支払いさせていただきます。失礼します……」
スピルは再度深々と誠磨に頭を下げてから、医師の方にも一礼して病室を出ていった。
「ーーよろしいですか?」
「……はい、お願いします」
「ではお話致します、絞首の原因として他に争いの外傷が無いか調べさせていただいただいたところ……内蔵ダメージは際ほど申し上げた通り特に無かったのですが、こういうと失礼ですが非常に奇妙といいますか……不思議な状態が見受けられました」
「えっと、それは一体……」
「人とは本来男性と女性、どちらかの性によって異なる機関を身体に宿す生き物です。それはご存じですよね?」
「は、はい」
「中には中性的な、男性とも女性とも判定されない状態で生まれてくる子もいらっしゃいます。しかしこの方は両方あって両方でない。非常に稀有なケースに当たる方でした」
「(両方あって両方でない……?) つまりそれはどういう……」
「ではハッキリとこの方の身体の構造についてお伝え致しましょう、男性と女性、両方の生殖機関がこの方に備わっているのです」
「……はい?」
誠磨は医師の言葉を咄嗟に理解できなかった。“絞首以外に争った形跡があるかどうか内面から深く調べてください”とスピルにバレないよう内部構造を調べてもらっていたのだが、予想だにしない回答で思わず間抜けな声を出してしまう。
てっきり女性の身体に何らかの作用で男性器たるものが付いてしまった、あるいは元々男性で中身が女性だったのを記憶喪失で忘れてしまっている、そう内に色々考えていた全てがハズレだった。
「この方の股側に男性器、そしてお尻の穴に当たる部分には女性器が備わっていて両方が一式として内蔵に備わっているのです」
「えぇ……そんなことって……」
「我々の管轄では正直初めてのケースで、それぞれが邪魔にならないスペースに収まっているという……しかしアメーバのような1個体で繁殖する構造でも無く……どうやって生まれてきたのか。とにかく生活に支障を来すことはないのでこのまま退院していただいて大丈夫ですよ、では私はこれで失礼します」
「はい、ありがとうございました」
一礼してインカムに答えながら医師が病室を退室し、一人残った誠磨はベッドで寝ているミユリの横へ椅子に座って暫く様子を見る。
「両方って……、どういう成り立ちでそうなるんだよ」
理解できない現象に呆れた言葉をただ一つ、どこに向けるでも無い虚構に吐き捨てながら今回起きたことについて反省を抱く。
その一方、病室の汚れなき真っ白な空間とは反対に、視野の自由を奪う暗闇に包まれた空間で空を裂く強烈な破裂音と、甲高く濁った女性の悲鳴が中央から交互に隅へと響き渡る。
「あ”ぁあ”あ”ッ!! いだぁ”い”!! 痛い痛い……!!」
「ねぇ、何であんなにいっぱい時間あげたのに仕留められなかったの?」
「やめっ……いだっ! ぁ”あ”あ”ッ!!」
「私、念のためにと思ってしつこく引き留めてあげたんだけど、それでも出来なかった理由は?」
ピルカが床にうずくまる形で両手で後頭部を抑え、スピルが先程とは違う黒いベルトが全身の至るところに巻かれた過激な服装で、冷静な口調で問いかけながら右手に黒光りした鞭を持ってピルカの背に向けて無造作に振るう。
「そ、それは……」
そう口を割ろうとするが、痛みによる恐怖心に蓋をされてその後に言葉が出てこない。
「はいはい分かってるよ、この間のことといい来た時といい生意気だと思って痛め付けたかったんでしょ? でもね……」
「ぃっだぁあ”あ”あ”!!」
「私たちは遊びでやってるんじゃないんだよ? ここに来て2ヶ月、ようやく見つけた標的を逃がす羽目になったんだから罰則レベル4が妥当だよ」
「……」
鞭を持つ一方は左手に黒とピンクの派手な装飾が施された、“潜伏ルールブック“と表紙に書かれた手帳を翳す。
「あと、掟通りにするからこの罰則ルールのところに書いてある“アメとムチ”ってところ、つまりアメとムチをセットで行うよ」
「アメと……ムチ?」
「あぁ姉さんはこういうの読まない派だから分からないよね、でもそう書いてあるから。今後の目的遂行の為にもちゃんとやるよ」
そう言って手帳を腰のホルダーに閉まったと同時に、右側の瓶ホルダーから薄黄色の球体キャンディーを取り出す。
「ほらこれ、姉さんにあげるよ」
「へ……?」
「姉さんリンゴ味好きでしょ? 私だってアメとムチの意味くらい知ってるよ」
「……じゃあ」
「だけど、それじゃ罰にならないよね。悪魔でも罰則ルールに書いてあるんだから」
「……」
「だから……こうするの!」
スピルは取り出したキャンディーを自分の口に含み、少しの間口の中で転がす。そしてピルカの首根っこを掴み自分の顔に近づけーー
「んっ……んんっ!?」
「……っぷは~、もう押し返すの早いよ。あぁ~出しちゃだめ!」
反射で吐き捨てようとしたキャンディーをスピルが手で口元を抑えて留める。
「んんッ!!」
「ダメだよ姉さん食べ物を粗末に扱っちゃ、罰にならないでしょ? お互いに10秒ずつ口で転がしてから相手に口移しするの」
ピルカは目に涙を浮かべながらスピルの指示通り、スピルの唾液が混じった飴を舐め転がす。
「そうそう、あの子を仕留める時もそれくらい素直にやっていてくれたら良かったのにねーーっと、そろそろこっちに移してね」
スピルが顔を近づけるが、ピルカは躊躇って僅かに距離を取る。
「仕方ないな~、それじゃ罰が成り立たないでしょ? ほ~ら」
やれやれとスピルが手を回して強引に引き寄せる。
「んっ……んんぅ……!」
「……っと、ちゃんと移してくれたね。じゃあホントは溶けるまでずっと交互にやるつもりだったけど、流石に号泣されちゃこっちも心が痛むし……今回はこれで終わりにしてあげる」
そう言ってスピルは口の中に返されたキャンディーを奥歯で噛み砕いて飲み込んだ。
「さて……じゃあ罰の終わりに、忘れないように私たちがここへ来た目的を一緒に言うよ。せ~のっ」
「「……天に換わりし器の忌み子、性への冒涜者を抹殺すること」」
つづく
という訳で、今回でプロローグが終わって次話から本編スタートです!
今回のはようやくそれっぽい要素や、やりたい要素を小出しに出来たって感じです。
これまで登場人物の紹介がてら立ち位置や掘り下げに、日常メインでファンタジーを抑え目に書いてました。
それでもまだ足りない部分は多いですが、予定より少し縮めて良い具合に纏める方針として後々補う形を取ることにしました。
本編はプロローグよりもアクセル強く踏み込みます。ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!




