38缶目「清涼菓子依存?」
今年も梅雨が巡ってきましたね。雨は嫌いですが、暑い日差しを遮る濃い雲と湿った空気はちょっと好きです。
誠磨は藍色の髪の毛を見つけてしまったことで夜中部屋で見た人影が実体であることを確信し、身の危険を感じて出勤時間まで眠ることが出来なかった。
「ミユリ、俺が帰ってくるまでに部屋の足音が聞こえてきたら、すぐどこかに隠れるんだ」
「何でそんなことせねばならん」
「いいから! 俺はいつもミユリが寝ている夜中に帰るけど、それより前に玄関から足音だけが聞こえてきたらすぐに隠れてやり過ごせ! いいな?」
「理由を答えろ、でなければ応じぬ」
「あぁもう……、もう時間だから仕事行ってくるけどちゃんと言う通りにするんだぞ! じゃあな!」
誠磨は急いで鞄を持って部屋を出ていった。
「何じゃアイツ……急に慌てふためきおって」
不審に思いつつも冷房を効かせた部屋でプニィのぬいぐるみを背もたれにぐったりとし、繋益から返却されたゲームの続きを始める。
部屋を出た誠磨は扉を閉めた途端に大きな欠伸を片手で覆い、曇りかけの意識を拭うように眉間に指を押し当てつつ居酒屋“千夜桜”へと歩き出す。
「(あぁ……眠い……、出勤まで結構時間あったのに、結局言わなきゃと気づいたときにはもうギリギリだった)」
欠伸の回数が徐々に通行人とすれ違うより多くなるが、それもあの実体あるかもしれない人影の存在が気がかりでミユリを一人にする不安と緊張が自意識を繋ぎ止めている。
「(あんな言い方じゃ伝わる筈がないが、どの道確証を得られていない今話しても変に不安を煽るだけだ。クソッ……ミユリのこともまだ何も情報が掴めていないのに、これ以上不可解な事態が増えるのはゴメンだっての)」
最早、欠伸を抑える為に手を上げて下げるのが面倒なほどに頻度が増してしまい、次第に鼻を指で擦るなり他のことをしながら口元へ据える状態が長引くようになった。そうしているうちに居酒屋“千夜桜”へ到着し、軽く頭をフラつかせながら裏口から控え室へ入っていく。
「おはようございま~す……」
力無く挨拶を告げると、横長テーブルに座って紙に筆記する女性ホールスタッフの一流木と目が合った。
「おぉ、誠磨さんおはようございます! って何かすげぇ眠そうですね」
「すみません……昨日徹夜しちゃって」
「またゲームですか~?」
「え、えぇまぁ……そんなところです」
「ダメですよ誠磨さ~ん、そこは嘘でも“資格の勉強してました!”とか言わないと!」
「いや元々やってないですし、そういう嘘を突き通せる自身もありませんからーーふぁ~……」
「もう、しょうがないなぁ」
欠伸が止まらないまま制服に着替える誠磨を見かねて、一流木は自分のロッカーから手の平サイズの長方形な黒いスチール缶を取り出した。
「ほら誠磨さん、手を出して」
「え?」
「ほら早く」
「あ、はい……」
言われるがままに手の平を一流木に差し出すと、白と水色の層がある清涼系のキャンディーが1粒乗せられた。
「それかなりスースーしますから、食べると目ぇ覚めますよきっと」
「ありがとうございます、助かります」
貰ったキャンディーを口に含もうとした時、またいつものように獣の如く雛月が嗅ぎ付けてきた。
「あー! 一流木ちゃんに甘ちゃんが餌付けされてる……! ダメだよ!」
慌てて接近するも、至近距離へ詰められる前に誠磨は急いで手元の清涼キャンディーを口に含んだ。
「あ”あ”あ”ぁ”! 食べちゃダメー!」
「すみません、俺今日は寝不足で……。あぁ~これ良いですね、スッキリします」
「でしょ? 足りなくなったらまたあげますから、私を指名しておねだりしてくださいね」
「あ、いえ……戴いた1粒で大丈夫です多分……、ありがとうございます」
「ちぇ~、せっかく誠磨さんの手綱を握れるチャンスだと思ったのに~」
「一流木ちゃん……? ちょっとこっち来よっか……」
雛月は誠磨の背後から眼光をチラつかせ、座っている一流木の腕を引っ張り厨房の奥へと引きずっていった。
「じょ、冗談ですってマジにならないでくださいよ陽与ちゃん先輩~! 今日は私、誠磨さんよりちょっと後の出勤なのにぃ!」
「ッハハハ…… (にしても、また隠し事が増えてしまったな……このままやり過ごすのにもいずれ限界は来るだろうし、早いとこ対処しないと苦手な嘘を今後つき続ける羽目になる……)」
一時的に覚めた意識がまた睡魔で曇らないようにと、顔を洗う為少し早めに出勤した。
「おはようございま~す」
その後は結局顔を洗ってもすぐに効力が切れてしまい、睡魔に襲われ意識を失いかけるが休憩時間まで粘る。そして控え室へ行った際に一流木が同行して清涼系ですぐ溶けるラムネを容器ごと手渡してもらい、何とかそれでやり過ごす。
「誠磨さん、本当に大丈夫ですか? 私のあげたラムネと飴、結局今日だけで全部食べきっちゃうなんて」
「すみません……明日買って返しますね」
「いや私はいいですから、自分の分を買っておいた方が良いと思いますよ。というかもう早く寝た方が……」
「そうですね、ではお先失礼します。お疲れさまでした……」
消えかけの蝋燭のような、か細い声で誠磨は挨拶を告げて控え室を出ていった。
「ほんと大丈夫かなぁ誠磨さん、ここんとこ毎回疲れたような顔してますし……ねぇ陽与ちゃん先輩?」
「……うん」
眉間に指を押し当てながら、風の吹かないジリジリとした暑さだけが漂う夜道を真っ直ぐ歩いていく。いつもより遠く感じるが、断片を繋ぎ合わせるかのような意識の曖昧さで気づいた時には自宅のマンションに到着していた。
「ミユリ……」
玄関の前で細々と独りでに名を告げ、フラフラと左右に少し揺れながら鍵を開ける様は人影とは別の不審さを醸し出している。
そして部屋に入るなり奥の方から数秒だけ慌ただしいような物音がした。
「ミユリ……?」
ぼんやりとした誠磨の意識は急激に渦巻いた悪寒によって鮮明さを取り戻し、慌てて靴を脱ぎ捨ててリビングへと駆け出した。
「ミユリ!!」
だが、駆けつけたリビングにミユリの姿は無かった。
「うそだろ……? まさか連れていかれた!?」
玄関の扉をすり抜けていった昨晩の人影に、玄関ではなく別の方から通過して拐われたのかと膝から崩れ落ち、両手で頭を抱えて床で丸まる。
「こんなことなら誰かに身柄を匿ってもらうべきだったんだ……、そうでなくとも寝不足でもちゃんと説明しなくちゃいけなかったのに……何でもっと真面目に気にかけてやらなかったんだ!! うぅ……」
「(……出づらいのぅ)」
暗闇の押し入れで膝を抱えながら出方を伺うが、床で丸まりながら懺悔の言葉を連ねる彼の前に出るのは色々と気が引けて出るに出れない。
「(変な足取りの音がしたから仕方なく身を隠したが、彼奴は何を恐れておるのじゃ?ーーうぉ!?)」
不意に体勢を崩してしまい、折り畳み式の押し入れの扉に思いっきり肩がぶつかって半開きになってしまった。それに気づいた誠磨は慌てて扉を開けて確認する。
「ミユリ!? はぁもう何やってんだよこんなことで……」
「お前が隠れろと言うたんじゃろうが!」
「いやそうだけど、俺が帰ってくるまでと言わなかったか? というか何でまだ起きているんだ?」
「寝付けんかっただけじゃ、お前が変な風に言い捨てて行ったせいでな」
「(そうか不安だけ伝わってしまったのか……)ーー悪い、てか汗ダラダラじゃないか! 早く風呂入ってきな、着替えは後で持っていくから」
「むぅ……」
ミユリは不満そうにだらだらと風呂場へ入っていった。
「(あの人影は俺の薬を手に取っていたから、ミユリが狙いじゃないと思って高を括っていたが……。今日またいつ侵入されるか分からないし、目的が分からない以上は来る可能性を捨てきれないからまた1時間以上は起きていないとな……)」
急激な安心からまた眠気を誘われ、今にも閉じてしまいそうな瞼を擦りながら着替えを風呂場に持ってゆき、電池が切れたかのようにまたリビングの床で就寝した。
つづく
ピンク色のMonsterが売っていなくて、最近はF〇ISKやXilishといった鼻がスースーするお菓子を口にしながら書いてます。
清涼感を味わえるのはほんの少しの間ですが、口と鼻がスースーすると集中しやすい感じがします。
KIRINやコカ・コーラの会社が新たにエナジードリンクを出したり出す予定らしいのですが、緑色のMonsterのようにビビッと来る感じなら飲んでみたいですね。何度かここで書いてますが、あれが結構効く感じがしてモチベと集中力が高まるんですよ。個人的にはですが;
ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!




