35缶目「自己検証?」
最近近所のコンビニで、比較的飲みやすく美味しいと聞くMonsterのゼロカロリーが売られていたので買ってみました。
今年の夏はこれをお供に書いていこうと思います。
水族館から帰宅した翌日の昼過ぎ、誠磨は二日振りに例によってミユリに叩き起こされる。
「起きろ~~!!」
「痛い! 痛いって!! 何だよそれ……洗剤?」
ミユリの手には液体洗剤が入った白いプラスチックのボトル容器が握られていた。
「いやそれ思いっきり殴ったらヤバいから!! 凶器だってそれ! まだ結構入ってるだろ!?」
「傘で起きんお前が悪い」
「だからってグレードアップしすぎだろ……、あと今回起きないのは言っとくけどお前が原因だからな!? 夜中トイレ行く時に毎回叩き起こしやがって……向こう電気付けっぱにしてるだろうが!」
「黙れ!! んなことより早よ飯作らんか戯け!!」
「あんまそうやって怒ると、今日の昼飯抜きにするぞ?」
「……卑怯者」
「いや急に勢い無くすなよ……調子狂うだろ、ちゃんと作るから良い子にして待ってな」
「フンッ……バカにしよって」
「(飯抜き言うのは控えた方が良いかな……多用し過ぎると虐待になりかねないし、俺も気分悪いし実際に抜きにするつもりは毛頭無いから効果だって次第に無くなるしな)」
昔の習慣が根付いているアニメや現実の世帯ではこういった食事抜きを罰則として与えることも珍しくなく、誠磨自身も幼少期に何度か経験している。そこから当時の習慣付けられた記憶によって“親の教育方針”を反射的に浮かべてしまい、それに釣られて反射的に言葉が出てしまう。
「(取り敢えずどうすっかな~……このまま一週間は何とかバリエーションの乏しさを誤魔化せると思うんだが、人に食わせるのを意識して作ったことあまり無いから難しいな……)」
誠磨は冷蔵庫の中を覗いてキャベツ半玉と人参1本、玉ねぎ1個ともやし1袋と豚バラの粗びき肉を1パック取り出す。そして野菜をそれぞれ一口サイズに切って火の通りにくい野菜から順番にフライパンで炒めていく。
「(結局、昨日は尾辺涼子さんに連絡を取る手段が得られなかった。用意した封筒は誰にも渡さず持って帰って、結果として二人でいた時間は粕寺さんの言う“デート“のまま終わっちまった。 情けないことこの上無いな……どう説明すればいいんだ)」
ミユリとの仲をより戻す為の手がかりを何一つ見つけられず、昨日の帰宅から何も聞かれずそのまま今に至るのだが、何れ聞かれるどころか誠磨の方から言い出さなければならない事なので弁解を必死に考えている。そうして頭の中で煮詰めているうちに、フライパンの中から漂う異臭が鼻に通りかかった。
「ヤベッ! 火を通しすぎた……一旦皿に移してフライパン洗うか」
フライパンの中の焦げを洗い落として水気を拭き取り、気を取り直してゴマ油で豚肉を炒める。火が通ったら皿に移した野菜を加えて塩コショウで下味を付け、仕上げにオイスターソースを絡めて完成。
「お~い、出来たぞ~。運ぶの手伝ってくれ~」
粕寺に預かってもらっていた2日間、短い期間だがその間に向こうで少しは共同生活のノウハウを養っているのではと期待を込めて呼び掛けてみた。
「断る!!」
だがその期待も秒で砕かれた。昨日の事もありあまり強く言えない誠磨は諦めて自分一人で二人分運んで準備を済ませた。
「よし、じゃあ食べようか」
「……何じゃこれは」
「野菜炒めだ、旨いぞ」
「……」
「ま、まぁ昨日のレストランのに比べればグレードダウンしてるけどさ……。ちゃんと旨いから大丈夫だって!」
「……フンッ」
半ば不満そうに鼻を鳴らすミユリの態度に“今は目を瞑ろう“と誠磨は少し堪え、微妙な空気のまま二人は昼食に手をつけ始めた。
「どうだ?」
「……うむ」
「旨いか?」
「まぁまぁじゃ」
「まぁまぁか……、粕寺さん家ではどんなものを食べていたんだ?」
「……朝はフライパンで焼いた甘いパン、昼は作り置きでミンチカツ、夜はミネスなんとかじゃったか……」
「フレンチトーストにメンチカツにミネストローネ……ってところか、その中で好きなものはあるか? 今度俺が作ってあげるよ」
「……甘いパン」
「フレンチトーストかぁ、あれ朝に食うと旨いんだけど……俺は仕事の都合でいつも昼に起きるから、今度の休みの日に作るよ」
「作れるのか?」
「まぁね、一人の時はたまに昼間とかに作って食べてたから」
「妾は昼に食ってはいかんのか?」
「いやダメってことは無いけど……、あれおやつみたいなもんだし昼飯に出すものじゃないぞ。俺はしっかり食べてもらいたいから、こうしてちゃんと野菜と肉のご飯を出しているんだ。ーーそういや向こうではスゴい量食べてたって言ってたけど、どのくらい食ったんだ?」
「甘いパン4つと……」
「4つ!!? いやいや重い重い……絶対朝から食えないって油っこいパン4つとか……」
「ミンチカツ13個と」
「メンチカツな!? てかその量、多分何日かに分けて食べさせるつもりだったと思うが……」
「ミネスなんとかは鍋全部と言っておったな」
「……」
聞いているだけで胃もたれを感じるほどの重みを感じ、既に目の前の残り少ない昼食すら食べきれる気がしないと誠磨は苦笑いを浮かべる。
「なるほど……それで粕寺さんはミユリの食べっぷりを把握したってわけか」
「それよりお前、昨日妾に言ったこと忘れとらんか?」
「昨日言ったこと……?」
「デートとは何なのか説明がまだじゃぞ」
「あぁ~、そういや言ってたな。悪い忘れてた」
「ではその肉貰うぞ」
ミユリは軽い箸捌きで誠磨の皿へと手を伸ばし、真ん中に残った最後の肉を取り上げ口に含んだ。
「あー!! オイ、何すんだよ! 最後に取っておいた大事な肉を……」
「約束を忘れた罰じゃ! ムグムグ」
「はぁ……、デートってのは恋心を抱いた者同士が出掛けたり寄り添うことだよ」
「よく分からぬ」
「……例外はあるが、大まかに言えば男女が二人で遊びに行くってことだよ」
「じゃあお前はあの女と二人で遊びに行ってたのだな」
予測は出来ても回避出来ない、罪悪感に満ちた的に真っ直ぐと矢が突き刺さる。
「いや違……、粕寺さんから何か聞いてないか?」
「二人の様子を見守りに行くとしか言っておらぬ」
「(本人から直接言えってことか……、まぁ当然か)ーーミユリ……確かに俺は昨日、結果的にはデートみたいな形になってしまったが、目的は他にあったんだ」
「待て、言う前に追加を寄越せ」
「“おかわりください”と言うんだよ、粕寺さんの時もそんな言い方だったのか?」
「いや……」
ミユリの表情に浮かべた若干の揺らぎを誠磨は見逃さず、そこから歩を譲らぬよう攻勢に入る。
「なら、“おかわりちょうだい”と言うまであげない」
「言い方変わっておるではないか!!」
「敬語は似合わなさそうだし言いにくいだろうから、難易度を下げたんだよ」
「寧ろ上がっておるわバカ者……」
「さぁどうした、おかわり欲しい時は何て言うのかな?」
「……」
ミユリは右手で行儀良く持った箸を逆手に持ち替え、侮辱と捉えたのか誠磨の予想以上に気を悪くした様子でこちらに鋭い眼差しを浴びせる。
「分かった分かった! 取り敢えず“おかわり”だけで良いからちゃんと言ってくれ、それか粕寺さんのところで言ったのと同じで良いから!」
「……おかわり」
「はいよ」
誠磨はやれやれと台所へフライパンを取りに行き、ミユリの皿へ残った一人分未満の野菜炒めを盛ってフライパンを台所へ戻す。握りしめられた箸は再び行儀の良い持ち方になり静かに食べ始める。
「で、さっきの続きなんだがな……俺はーーいや、やっぱいい」
「何じゃ」
「もう少し動いてから話すよ、どっちにせよ今は目ぼしい情報が何も無いからな (やっぱ収穫も無しに言い訳がましく今話すのはやめよう、取り敢えず他に何かミユリの情報に繋がる手がかりは……)」
食べ終わった皿を床に置いてあるノートパソコンと置き換えてブラウザを開く。
「ミユリ、お前がここに来て丁度一週間なんだが、何か自分のことについて気になったことはあるか?」
「知らぬ」
「即答かよ……」
「昨日まで自分の限界を調べる為に色々とやってみたが、何一つ分からなかったからのぅ」
「(ッ!? まさか、あの不良を殴って女に蹴られたのもレストランでのバカ食いも、自分を確める為にわざと……)ーーだから俺ん家にいる時は、あそこまで大食いしなかったのか」
「まぁ味に満たされはしたが、腹は満たしておらんかった」
「あれでまだ食い足りないのか……!?」
「いや、足りてるかどうかは分からぬ。何せどれだけ食っても腹膨れる気がせんかったからの、じゃから今は其ほど食っておらぬ。無意味に食い続けるのも面倒じゃからの」
「じゃあおかわりって言ったのは?」
「ただの気分じゃ」
「気分で俺を殺す気だったのかよ……」
本来大食いというのは、人にもよるがバラエティや動画で活躍する為に普段から訓練を重ねて並外れた胃袋と食べるペースを習得している。だがミユリはトレーニングもせずに少女らしき身体の中へ大人4人分の料理が運ばれ、微塵も満たされないというのは現実ではほぼ実現出来ないケースである。
人成らざる者であることは初対面で既に目の当たりしている故、並外れた胃袋のみでは現実的な情報に繋がらない。
「そうか~、でもありがとうな。大事なこと教えてくれて」
「何じゃいきなり気持ち悪い!」
「色々自分でも頑張ってたんだな……」
「うるさい!!」
「蹴られた怪我はもういいのか?」
「あぁ? あぁもう平気じゃ」
「アザが出来てないか確認するから、上まくってみ」
「それが狙いかこの変態ッ!!」
ミユリの左拳が誠磨の右目に向けて打ち出され、若干の首の捻りと共に誠磨は床へ突き倒された。
ーーー
ーー
ー
一方、薄暗く大量の機材とモニターに囲まれた部屋で男は再びモニターに向けて呟く。
「思ったより早く第1被検体の元に戻ったが、あれ以来第1被検体の様子に特に変化は見られない……あの薬の影響か? いや、それは無いはずだが……まぁ仕方ない。少し手駒を動かすか」
男は軽快なタイピングでモニターのプログラム画面へシステム気号の羅列を打ち込み、コード認証の完了通知を確認し一息ついた。
「さて、そろそろ君の日常にもう一色加えさせてもらおうか。いやこの場合“もう一工夫”が適切か? まあいいーーよっと!」
キーボードの横に置いてある缶コーヒーを飲み干し、モニターを見たまま後ろのごみ箱へ缶を投げたが縁に弾かれ床に転がった。
つづく
決めてある筋書きのみでは薄く短い形になってしまい、目標の話数に全く届かないので何とかバランスを取ろうと進めていますが……やはり比率が難しいですね。
今回はちょっと動きが無さすぎてるので、36缶目も同時に上げました。気が向いた時に宜しければそちらもどうぞ




