31缶目「白の封筒?」
今回はいつもの以上に色々と試行錯誤して時間かかってしまった為、前回の倍くらい文が長くなってしまいました;
平日の11時前に誠磨達が乗車した車内はそれなりに空いていて、二人が隣り合わせで座るのに十分な席が確保できた。
「……」
「……」
しかし長椅子に横並びで座った途端、二人は一言も喋ることなく目線を下にやるなり窓の景色を眺めたりと互いを視野に入れずに目を泳がせている。
「(……やばい、何て話しかけたら良いのか考えてもすぐ真っ白になっちまう……。さっきまではそれなりに何とか喋れたと思うんだが、この至近距離は喫茶店で隣に座ってもらった時とはレベルが違う!)」
両膝に置いてある手の平が次第に汗ばみ、染み込む布地を左右それぞれ拭おうと擦り始める。
「(あと数センチどちらかが近づけば、柔そうな美少女の二の腕が当たってしまう……。咄嗟に触れてしまった暁には悲鳴を上げられるかもしれないし、それ以上に俺の心臓がもたないかもしれない。まるで何時ぞやのセンサー爆弾みたいだ)」
「(どうしよう……、緊張して何も話題が浮かばない……。事前に粕寺さんから話題にできそうな事を少し聞いてきたのに、全部忘れてしまった……。こういう時って、男の人はまず服装を誉めるところから始めるんだっけ? でも甘巻さんからは何も言ってくれないし、今時は違うのかな……。それか私の服が似合ってなくて一緒に居づらいとか……!?)」
スピルの方は膝の上に置いている鞄の取っ手をキツく握り絞め、お叱りを受けている時のような膠着状態に陥っている。そうして二人の顔色が各々違った意味合いで青ざめてゆき、もはや我慢比べしているような状況へと悪化していく。
そんな中、乗り換えの1つ手前の駅にて電車が一時停車した。その際、同じ車両の端で誠磨達とは少し離れた距離に立っている少女がバランスを崩して小さく声を挙げた。
「ぬわっ!? っとっとっと……、何じゃ!? あっ!」
「ほ~ら、ちゃんと手擦りに掴まんなさい。危ないわよ」
粕寺が後ろ向きのままミユリの二の腕を掴み、バランスを整えつつ少し低めの声で注意を促した。
「……」
ミユリは急いで女性と同じ方向へ向き直り、無言で相槌を打つ。
「(今の声……ミユリか? いやいや、一緒に来れないって粕寺さんが言っていたし、今は俺を避けていると思うんだが……。気のせいか?)」
「えっと……どうしました?」
「あ、いや……大丈夫です。すみません、何か緊張しちゃってなかなか話す事が思い付かなくて……不甲斐ないです」
「あっ……い、いえ! 私の方こそ、黙りですみません! 私も引き出しが固くて……」
「ははっ、スピルさんも固いんですね」
そう誠磨が述べた途端、先程までと違って僅かにスピルの返答に遅れが生じた。
「……ふぇ!? あ、いやいや! か、固くないです全然!」
「あ、そうでしたかすみません…… (さっき固いって自分で言っていたような……まぁいいや、それより無難に話せる話題がないものか……って、いやあるじゃないか肝心なのが!)」
「……い、いえ! はは…… (どうしよう、今ので完全に変な人だと思われたかも……。とりあえず、この雰囲気を変えるために私が何か言わなきゃ!)」
「「……あの!」」
「あ、……すみません!」
「ごめんなさい!」
端から見ても呆れるくらいに遅延が続き、まともに話せないまま目的の駅に到着してしまった。
「ほ~ら、やっぱりデートじゃない。まるで初々しいカップルねぇ~……いや、もうなってるのかしら? ーーあ、ここで降りみたいだから降りよっか。大丈夫?」
「……うむ」
二組はそれぞれ別の乗車口から降りて、誠磨達が駅を出た後から二人組の女性も気づかれぬよう距離を保ちつつ後をつけていく。幸いにもそこが都会寄りの田舎なせいか、人混みが並々いる程度で丁度良いくらいに見張りながら隠れ蓑を辿っていける尾行に適した環境となっている。
「……」
「……」
街に出ても尚、誠磨とスピルは沈黙なまま目も合わせず平行して同じ方向へと歩いて行く。それを後からミユリ達が背後から見て、ノーアクションな二人に焦れったく思いつつ観察する。
「(……緊張は確かにしているんだが、それとは別に何か不安を感じるんだよなぁ……。ミユリとは逆の、こういう何というか……大人しい美少女と一緒に人前を歩く緊張のせいか?)」
「(どうしよう……、言い出しが被っちゃってから恥ずかしくて何も言えないよぅ……。この間会った時よりもちょっとオシャレな格好で来てくれたし、そういう意識を向けているってことなのかな?ーーダメだ、意識すると顔に出ちゃう! 静まれ……静まれ……)」
そう念じて力んでいく内にスピルの顔が徐々に火照ってゆき、言い出すタイミングを見図ろうとチラ見した誠磨が慌てて声を掛けた。
「……あれ? だ、大丈夫ですか!? 顔が赤いですが、まさか熱中症とか!?」
誠磨がそっとスピルの背中を支えながら額に手の平を当てる。
「んヒャぃ!? あ、だ、……大丈夫れす! すみあせん!! な、何ともないれす……」
「呂律が怪しいんですが……、一旦涼しいところへ行きましょう!」
「は、はい……すみあせん」
二人は駅の近くにあるコンビニへ寄り、500mlの水とスポーツドリンクをスピルの分だけ購入し退店する。そして出た直後、誠磨のスマホに電話の着信が入った。
「(あ、電話が……粕寺さん? ミユリに何かあったのか!?)ーーちょっとそこの日陰で休みましょうか、電話掛かっちゃったので少し時間いだだきます」
「はいぃ……分かりました」
誠磨はコンビニのすぐ傍にある線路の下のトンネルへ連れて行きつつ、粕寺からのLINERの電話に出た。
「はい、もしもし甘巻です。もしもし?」
電車や車の行き交う騒音に掻き消され、電話の声が聞き取れなかったので一旦通話を切ってそのままトンネルの日影に入った。それから小さなコンビニ袋をスピルに手渡した。
「これ、水とスポーツドリンクです。両方スピルさんの物なので遠慮せず飲んでください、ではちょっと電話を掛け直しますね」
「え、あ……はい、すみません。ありがとうございます」
誠磨はスピルから少し離れた位置に立ち、粕寺に電話を掛け直した。
「すみません、もしもし?」
『もしもし甘巻君? 大丈夫? 聞こえる?』
「はい、今は聞こえます。さっきは移動しながらで聞き取れなくて……どうされました?」
『いやぁデート上手くいってるかなぁ~って』
「いやですから、デートじゃなくてですね? 聞き込みの件で向かっていると言った筈ですが…… (なんだ、ミユリの件じゃないのか)」
「(ッ!? い、今……デートって聞こえたけど……き、聞き間違いかな?)」
『まぁまぁ、スピルちゃんと二人きりでちゃんと話せてる?』
「いや……まぁそうですね……、お互いに吃るといいますか……まだタイミングが合わなくてあまり上手く話せてないんですよね。主に俺が原因だと思うんですが」
『そう……、まぁなんとなくそうじゃないかとは思っていたわ。じゃあ、お姉さんから1つアドバイスしてあげる!』
「えぇ? まぁえっと……はい、お願いします (お、お姉さん……? まぁ確かにお姉さんだけども、何か急に元気な声になったような……)」
『まぁ二人とも緊張してるのよね、特に甘巻君はあぁいう大人しくて可愛い年下っぽい女の子が好きそうだし……初めてでしょ? あぁいう子と二人きりで出掛けて話すの』
「え、えぇまぁ……はい……経験は無いですね」
『男の方が緊張してると、一緒にいる女の子まで緊張しちゃって上手く話せなくなっちゃう子もいるのよ。その子も多分そうなんじゃないかな?』
「はい…… (俺がもっとしっかりしていれば……)」
『だからね、一緒にいるスピルちゃんって子を……““私だと思って”“話してみなさい?』
「……え?」
誠磨は一瞬何かの聞き間違えかと思い、不意に反射的に聞き返した。しかし粕寺の声が淡々といつもの冷静なおっとりした声で、一部の言葉だけを強調するようにハッキリと言われたので脳裏ではちゃんと認識している。
『ほら、久々に会った時も普通に話せていたでしょ私達? だから、そんな風に喋るといいかもよ。私と話してる時は今より気楽でしょ?』
「え、えぇまぁ…… (まぁ最近の粕寺さんとは何か読みづらいというか、別の意味合いで話しづらいような気もするけど……)」
『そういう訳で、私と話すような感じで話してみなさいな。それでちゃんと上手く話せそう? 何ならお姉さんが今からそっちにーー』
「い、いやいや大丈夫です!! 大丈夫ですから安心してください! アドバイスありがとうございます粕寺さん、また連絡します!」
『え? あ、ちょっとーー』
誠磨は強引に通話を切り、スマホをポケットに仕舞ってスピルの近くへと戻った。粕寺は溜め息をつきながらスマホを仕舞い、少しの間だけミユリに振り向く。
「はぁ……せっかく良いところで鉢合わせて驚かせようと思ったのに……、まだタイミングが悪かったかな?」
「……知らぬ (尾行するのか同行するのか、彼奴は一体何がしたいんじゃ……)」
ミユリは長髪を纏めて入れたベレー帽の下の生え際を掻きながら、冷たい目線で彼らを追い続ける。
「ーーお待たせしてすみません! 具合の方はどうですか?」
「はい、今はもう大丈夫です。ご迷惑おかけしてすみません……」
「いえいえ、とんでもないです! 気にしないでください、ここからあとどのくらいか……っと」
誠磨はズボンのポケットからスマホを取り出し、地図アプリを起動して残りの距離を確認する。
「ここから1キロくらいか、じゃあこのまま線路沿いを歩いていきましょうか。こっちからなら日が当たりにくいでしょうし」
「はい」
二人は線路沿いの道程をゆっくりと歩いて行き始め、その際に誠磨の脳裏に先程の粕寺の言葉が過る。
「(“私だと思って”話す……か、比較的話し慣れた異性との会話を意識するってのは、こういう状況で有効な1つの手段なのかもしれない。けど何か引っ掛かるというか……、ちょっと二人に失礼な気がするし聞かなかったことにしよう……)ーーあの~、スピルさんは引っ越してからはこの辺って来たことあります?」
「いえ、その……私あまり外に出歩かないタイプなので、この辺りは来たこと無いですね。姉のパシ……いや、お使いで近所を出歩くくらいなので」
「そうですか、俺も仕事と買い物以外は基本出掛けないので……ここ来ると初めてなんですよね~ (いやいや、なにリードする側の俺が初めてとか言ってんだよ……不安にさせるような事言っちゃダメだろ!)」
「そうなのですね、では今向かってる水族館も初めてということでしょうか? (同じインドア派かぁ、これなら話が合いそうかな)」
「そうですね~、でも大丈夫です! ルートはしっかりと頭に入ってるので安心してください! (だから! そう言うと逆に空回りしそうな不安を押し付けるんだって!)」
「ありがとうございます! すみません私、あれから尾辺さんについて転職した事以外にも調べたのですが何も情報が得られなくて……」
「い、いえいえ! 俺も実はその……肝心なその尾辺さんって人の容姿とか担当の役職とか、こっちでも調べたんですが出てこなかったんですよね……。なので、どの道現地で聞くしかないので大丈夫です! (本当は調べてないけど、スピルさんが見つけられないなら多分どこにも載ってないんだろう。水族館のホームページにそれぞれの担当飼育員が載っていたら顔だけでもすぐ見つけられるだろうしーーあぁ、やっぱ無いな)」
誠磨は話しながら地図アプリを縮小し、スライドしてブラウザに切り替えて“夢の幸水族館 ホームページ”と検索してみたものの、担当職員の項目はやはり載っていなかった。
わざわざ出向かずとも、そのページに載っている受け付けの電話番号から聞いてみればいいのかもしれない。例えイラストについての質問であろうと、転職前の職務について聞くことになるので個人情報に纏わる件だと断られる可能性がある。ましてや勤務中にわざわざ担当動物について以外で飼育員の方が通話に応じてもらえるとは考えにくい。
それ故に聞き込みという体で現地に向かっているのだが、いきなり尾辺涼子と職場で直接話す機会を得ようとは誠磨は思っていない。
「その尾辺さんって人がもし今日勤務していたとしても、多分その場で直接は会えないかもしれません」
「そうですね……お仕事中にいきなりお客さん個人の呼び出しに応じていただくというのは難しいかもしれませんし」
「えぇ、なので今回はこういう物を用意してきました」
誠磨は鞄から、自分の宛先を記してある小さな白い封筒を取り出した。
「そ、それは……?」
「折り返し連絡いただけるよう俺の連絡先と、簡潔な内容を書いたメモが入っています。これをもし今日会う機会を得られなかった時には受け付けの人とかに渡して、後日連絡いただけるよう頼んでみようかと」
「なるほど! (しまった! “ここ”ではそういう手が通用するのか……こんなことなら私が用意してくるよう言っておくべきだった。手ぶらの無策で来た無能と思われるの嫌だなぁ……、まぁでもそれが通じない時はこっちがアレ使えば……いやでもそれも嫌だなぁ)」
そうして現地での行動について話を進めているうちに、目的地である“夢の幸水族館”へと到着した。
つづく
本来予定していた進捗より少しペースが遅れている気がしますので、一話一話の推敲時間が前回よりも長くなる分、一話の文量を今後増やすと思います。(なので定期投稿が難しくなるかもしれません……)
次回も同じくらい長くなっており、その次の分がまだ仕上がっていなくて推敲を重ねている段階です。
約4000文字にはなっているので量としては十分で定期投稿の為に区切ることも出来るのですが、進み具合的にまだ物足りない感じがするので再来週は投稿が厳しいかもしれません。
次回はちゃんと上がりますのでご安心ください、ではまた来週の金曜日をお楽しみに!




