30缶目「奇妙なフォーム?」
今回からほんの数話ほど連続して、ちょくちょく登場しているスピルって子をメインにスポットを当てていきます。
スピルとの約束を取り付けた後、誠磨は出勤1時間前に落ち着きを取り戻して粕寺にLINERでメッセージを送った。
『この間の変なイラストのTシャツを覚えていますか? ミユリと3人で買い物に行った時に取り合いになったやつです』
すると返事が画面開いている間すぐに届いた。
『えぇ、覚えているわ』
『あのTシャツのイラストにミユリが夢中になっていたこともあって、それについて色々と調べていました。それで、そのデザイナーさんが水族館で勤務しているとの情報を得たので、明後日その情報元のスピルさんと聞き込みへ行くことになりました』
『ほ~う? それはつまりデートってことかしら?』
『いえ、そういうわけでは……。その、ミユリへのお詫びといいますか……もし宜しければ4人で行きませんか? 料金は全て俺が持ちますので』
『なるほどね、甘巻君はハーレム思考ということね』
『いや、ですからそういう意味で言ったんじゃなくてですね……ミユリに謝りたいのと、記憶に反響が見られるよう新鮮な良い体験をしてもらいたいので予定が合えば一緒に来ていただけませんか?』
『冗談よ、分かってるわ。けど悪いわね……流石にすぐにはミユリちゃんをまだ会わせられそうにないから、また今度一緒に行きましょ。今回は2人で行ってきてちょうだい』
『わかりました……すみません、少しの間ミユリのこと宜しくお願いします』
『おっけー、ミユリちゃんはこっちで可愛がるから安心して楽しんできてね』
『いや楽しむものではなくて、ただの聞き込みです』
『分かったから、頑張ってね!』
『ありがとうございます、情報入り次第また連絡します。あと、俺が言えることでは無いかと思いますがミユリの様子をちょくちょく連絡していただけると助かります』
『はーい』
返信に既読を付けてから誠磨はLINERを閉じ、心身共に冷却するよう気を落ち着かせる。
「はぁ……、こんな時にデート気分で女の子連れ歩くかよ。とは言え、服装はちゃんとそれっぽいものを着て行くべきだろうから、何着て行ったらいいのかちゃんと調べないとな……」
それから家を出る直前まで服装についてネットで調べるなり、クローゼットを漁って着合わせしてみるがどれも汎用的なデザインでお洒落とは程遠い。テキトーに買ったものばかりな事に今になって後悔し始める。
「……これだからモテないんだよなぁ」
一方、その隣宅にてスマホを見つめる粕寺の顔が突如緩み、にんまりとした表情を浮かべたせいでミユリが引き気味にたじろぐ。しかし、その尻込みを気にすること無くそのままの表情でゆっくりと口を開いた。
「ミユリちゃん、明後日のお昼前にお出掛けしたいところがあるんだけど……いいかな?」
「……?」
匿われている以上は断る訳にもいかず、何より粕寺の朗らかな笑顔からはどこか不穏を匂わせる何かを帯びているように感じて、ミユリはその笑顔を直視出来なかった。
ーーー
ーー
ー
そうして各々が当日に向けて準備を整え、その日がやってきた。
「あぢぃ……、何だって俺がこう出掛ける時はいつも晴れてんだよ……」
水色と白色のシンプルなボーダーシャツに藍色のパンツ、ネットで拾った無難な夏コーデを着こなして誠磨は絵本駅行きのバス停を目指しスマホのマップを確認して歩いて行く。
「(絵本駅ってバスで行く分にはまぁまぁ近いんだが、そのバス亭までが家から少し遠いんだよなぁ……)」
身を焦がすような日照りで肌から汗が滲み出て、バス亭に着いた頃には服の大半が汗で滲んでしまった。
「いつもならあんま気にしないんだけどな……」
バス亭には他に待ち人がおらず、普段あまり使わない清涼感スプレーを恥ずかし気無く使うには良い状況だ。なので誠磨はショルダーバッグから清涼感スプレーを取り出して自分に吹き掛け、スポーツドリンクで喉を潤しバスを待った。
「(“少し緊張しちゃって、不安だったので姉も連れてきました”、なんてことにはならないだろうか……? 流石に2~3回会った程度の男にいきなり一人で会いに行くってのは、あの特に強気な姉さんが許すとは思えんしなぁ……)」
そう不安が過る頃にバスが到着し、駅に着くまでの暫くは待ち合いの状況について推測が続いた。
「(ーーもし姉の方も一緒に居たとして、その場合俺が来た理由も知っている筈だから“うちの妹をタブらかしてんじゃないわよ!”って公共堂々パンチが飛んできそうな……っと、着いたか。まぁ流石に過ぎた妄想はもうやめよう、飛んでくるならそれこそ堂々とノーガードで受けるまでだ!)」
勝手に膨らませた不安を抱えてバスを降り、辺りを少し見回しながら駅の入り口近くへと歩いていった。するとそこに一人、金髪ポニーテールに赤茶色フレーム眼鏡、白シャツから下へ伸びる真っ白な肌が際立つ濃い緑のロングスカートを履いた、可憐な西洋人の少女のような姿を見かけた。
「(あれって……もしかしてスピルさん!?)」
その西洋人らしき人物は入り口の壁を背に横顔を向いていて、両手で鞄を前に持っているその立ち姿があまりにも絵に描いたような神秘さを醸し出していた。それに惹かれた何人もの通行人の視線を他所に、少女の横顔がふと誠磨の方へと向いて二人の目が合った。
すると誠磨に気づいた少女はハッとした様子でこちらに向かって、鞄を持つ両手を前にしままま前方に少し傾いた不自然なフォームで駆け出してきた。
「(って、いやいや体勢そのままっ!? そんな体勢で勢いよく走ってきたらーー)」
誠磨の予測は早々に当たり、接触距離の約3メートル手前でタイルの浅い窪みにサンダルの爪先が引っ掛かった。
「あっ……!」
「あぶなっ!」
こちらに傾いた瞬間に誠磨もその場から踏み込んで、両手を肩に添えながらそっと丁寧に受け止めた。
「ふぅ~、大丈夫ですか?」
「っ!? す、すす、すみません!!」
慌ててスピルは誠磨の胸元から離れて体勢を整えた。
「いえいえ、足挫いたりしてません?」
「は、はい……大丈夫です」
「良かった、いやぁビックリしましたよ。いきなりあんな格好で走ってきたんですから」
「すみません!! えっと、その……(当たってないよね……? 当たってないよねっ!?)」
「ま、まぁ怪我無くて良かったですよ! では駅ん中入りましょうか (良い匂いだったなぁ……)」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「では人が多いので一列で行きましょうか、俺が前通りますので見失わないようお願いしますね」
「はい、分かりました!」
二人は駅の中へ入る際、誠磨を先頭に1列で通行人を避けて通っていく。これはよく近辺の駅にて出没する、気弱そうな人にわざと肩をぶつけてくる害悪な存在“当たり屋”からスピルの身を守る為の措置である。
誠磨は二人分の切符を買い、指定の待機場所へと階段を降りてスピルと横並びで待機する。
「(にしても、待ち合わせから30分も前に来た筈なのに、それよりも早く待ってくれていたのか。いったいどのくらい前から待ってくれていたんだろう……聞いていいのだろうか?)」
「あ、あの……」
話の切り出し方を迷っていると、スピルの方から不安そうな声色で問いかけてきた。
「ん、どうしました?」
「時々周囲に目をやっているようにお見受けしますけれど、何か心配されていますか?」
「え? あ、いや……そんなに見てました?」
「は、はい……たまにキョロキョロとされているご様子で……」
「すみません、そんなに目立つくらい見てたつもりはなかったのですが……ーーここ最近でよくこの駅周辺で、“当たり屋”とかいう最低な奴による被害が増えているそうなんですよ」
「当たり屋……ですか?」
「えぇ、ぶつかっても何も言わなそうな人、特に女性への被害が多いらしいです」
「そっ……そうなのですね……」
「なので、スピルさんに危害を加えさせないよう少し周りを見てました。流石に今みたいに待機している中でだと目立つと思うので、多分もうやってこないでしょうけどね」
「すみません……ありがとうございます」
「いえいえ、すみません物騒な話してしまって……。電車もうすぐ来ますしこの話はやめましょう」
「は、はい……」
話のムードが若干盛り下がり、互いの気まずさで内心焦りが生じてしまいあと数分もしないうちに来る電車を急かすように待ちわびる。
そんな中、二人の並ぶ列より1列奥の方で並ぶ“二人組の女性”が小声で喋りつつ誠磨達の方へと時折り目をやっていた。
「気づかれてないみたいね……やれやれ、あんまりにもキョロキョロするものだから気配に感づいたのかと思ったわ。ねぇ?」
「…… (妾はいったい何をしておるのじゃ……)」
帽子を深く被り、伊達眼鏡を掛けて後ろ髪を一本に束ねて変装したミユリが誠磨達の乗車を気づかれぬよう不満気に見据える。そして別の乗車口から粕寺と一緒に二人の後をつけた。
つづく
凄く今更なんですけど、自分は台詞の中に()で内心を描いているのですが読みやすいでしょうか?
自分は改稿やおさらいで何度か読み直してますが、読みやすいと思ってます。
台詞の前後に「内心でこう思った」みたいな感じで書く方が()の数が少なくて、そっちの方が読みやすい場合もあると思います。
表現に関しては手探りなところもあるので、今後良い形が見つかったらこれまでの文も改善していこうかなと。
あとクライスタってゲームが予想以上に出来が良くて楽しいです
ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!




