3缶目「パニック症?」
投稿後にも日々推敲(何度も見直し書き直すこと)をしているのですが、特に接続語で「ん?」ってなる使い方が多々あります……精進します;
繋益が気を回して一旦この場の状況から悪転を避けようとするも、部屋の奥から顔を覗かせている美少女(?)の一声によって台無しになってしまった。美少女(?)を目にした誠磨と粕寺は、其々別の意味合いで強烈なパニックに陥る。その状況に、繋益は思わず溜め息を漏らす。
「おいおい、マズいことになっちまったなこりゃ……。途端に収拾つかなくなっちまったぞ」
「あぁあああぁあぁ……俺の人生が……終わって……しまっ……」
「何あの子……誰なのあの子……何で甘巻君の部屋に女の子が……何で………何で……」
二人は各々踞って小声で独り言を呟く。繋益はまず粕寺の元にしゃがみ、粕寺の背中をさすりながら正気に呼び掛ける。
「落ち着け、部屋に居るって事は誠磨の知り合いかもしれないだろ?」
「あの子……髪が濡れて……ずっとこっちを見て……あぁッ……」
「そりゃあ、そんな状態で玄関に座り込まれてたら誰だって見るだろ」
「甘巻君……甘巻君が……」
「あぁ~……それは恐らくだが、ローション動画の撮影中に俺らが来ちまって、あらぬ誤解をされてしまったと思っているんじゃないか? 俺たちが知らない、しかもあんなロリ美少女とローション塗れになってる所を見られたんじゃ、そら絶望するわな。なぁ、誠磨?」
「……俺はもう……捕まって……」
「捕まらねぇよ、誰も通報するなんて言ってないだろ。いいから一旦落ち着け、コイツを落ち着かせた後にゆっくり話聞いてやるから」
「は、はい……すみません」
「甘巻君が女の子と……ローション塗れ……い、いやぁああああ!!」
「うわっ!? 急に耳元で叫ぶなって! あぁもう面倒くせぇ……、おい誠磨! 水を持ってきてくれ、いつものヤツ飲ませる」
「わ、分かりました!」
誠磨は立ち上がって数歩先の台所に向かい、コップに水を注いで戻ってくる。しかし、その僅かな間に粕寺は自制の箍が外れてエスカレートし、その場で座ったまま暴れ出す。繋益は自身の右ポケットから、白色に透き通った小さな長方形のプラスチック容器を誠磨の足元へ滑らせる。そして粕寺の背後に回り、羽交い締めで何とか取り押さえる。
「いやぁあああ!!」
「おい誠磨!! 早くそれ飲ませろ!!」
「は、はい!!」
誠磨は足元の容器を拾って蓋を開け、白い錠剤を2錠取り出して手の平に乗せる。左右に揺れる粕寺の口元に目掛けて小走りで近づき、狙いを定めて錠剤と水を同時に入れ込む。
「んっ……んぐ……!」
吐き出さないよう繋益が口を手で押さえ、そのまま上に向かせて強引に飲ませた。粕寺は暫く噎せた後、ゆっくりと気を失うように寝静まった。
「……はぁ、取り敢えずこれで一旦落ち着いたな」
「そ、そうですね……」
「にしても、コイツがここまで強烈なパニックに陥ったのは、精神科から薬を渡されて以来だな」
「すみません……」
「いや、お前のせいじゃない。多分後ろのアイツを引き金に、本人にも分からないほど色々なものが込み上げてきたんだろう。それが何なのかは俺も分からんがな」
「は、はい……」
「まぁ取り敢えず俺は一旦コイツを家に帰してくっから、お前は服を着替えてローション塗れの部屋を片しておくんだ。終わったら俺に連絡してくれ」
「了解しました、お願いします」
「ラーメンの匂いまでこっちにきてるからな~、よっぽど慌てていたんだろうな」
「あ、やばっ!! 忘れてた……」
「すまなかったな、来る時にそいつの分まで何か飯持ってきてやるから勘弁な」
「あ、いえそんな……」
「いいから、んじゃまた後でな」
「はい、ありがとうございます」
繋益が粕寺を抱き上げて部屋から退室し、それを見送った誠磨はリビングへ向かいつつ美少女(?)の手を引いて一緒にテーブルの前に座った。
「なぁ君、さっきの俺の言葉が通じてなかったのか?」
「……」
美少女(?)は無言で僅かに首を傾げる。
「ほんと勘弁してくれよ~……せっかく繋益さんがフォローしてくれたのに、君が顔を出したせいで俺と粕寺さん……さっきのお姉さんがパニックになったんだぞ?」
「……」
「……やっぱり言葉が届いてないのか? まぁどうせ見られちまった以上は隠しようもないし、繋益さんにはもう率直に“缶から天使が粘液塗れで飛び出してきたんです”って言ってみるか……。一応、粕寺さんには現実の範囲内として認識されたと思うからまだ救いだな。あの場でファンタジーにまで直面していたら……いや、考えるのはやめておこう。でもまぁ、あの場で翼を見せなかったのは偉いぞ!ーーって、うわっ!?」
「……」
頭を撫でようと触れた瞬間、粘液が付着し反射的に手を引っ込めた。
「そうだった、まずは風呂に入らないとな。ごめんな、長いこと素っ裸にさせたままで……風呂の入り方は分かるか?」
「……んむぅ?」
「疑問系のイントネーションってことは、通じていようといまいと分からないってことだな」
「……」
「ってことは、やっぱ一緒に入るしかないのか……。あぁもう、こうしてる時間が勿体無い! 俺が水着を履けば良いんだろ!? どうせ後で掃除するんだから、探し回ってやるよこんチキショー!!」
誠磨は押し入れの段ボールをいくつか漁り、競泳用に使う密着型の水着を手に取る。そしてそこら一帯が甘い香りの粘液に塗れている光景から、泣く泣く目を逸らして一目散に洗面所へ駆け込む。
鍵を一旦閉めつつ、そこで粘液で身体に張り付いたTシャツと短パンを脱皮の如く強引に脱ぎ、洗濯機の中へと放り込んでから水着に着替えた。
そして水着姿で鍵を開けて一旦美少女(?)を横切り、布団側の部屋の隅に置いてあるカラーボックスの前に駆け寄る。そして上段と下段の順に通販で購入した布地の収納BOXを手前に引き、英字が印刷されたのオレンジ色と紫色のTシャツを1着ずつ、それと夏用の薄い短パンを柄違いで2着取り出す。
「よし、風呂に入ってそのベトベトを洗い流すぞ」
綺麗に折り立たんである着替えを片手に、もう片方の手で美少女(?)の手を引いて洗面所に入る。着替えを洗濯機の上に置き、言葉が通じずとも段差に気を付けるよう呼び掛けながら風呂場に入れバスチェアに座らせた。
「さて、まずは洗い流すか。こうやって、少し目を積むってて」
誠磨が鏡の前で自分の目尻に指を指しつつ目を数秒間目を瞑る。すると、美少女(?)は無言で目を閉じた。
「よし、いいぞ!(実際にやってみせれば通じるのか、なるほど)ーーんじゃ、このシャワーでぬるめのお湯をかけるから、じっとしててくれよ?」
誠磨はシャワーからお湯を出し、温度調整した後に自分の身体に付いた粘液を洗い流す。そして美少女(?)の手を軽く握ってお湯を当てる。
「こんな感じな、熱くないだろう?」
「……」
「よし、まずはこの粘液を洗い流してっと……」
シャワーの水圧を自分に当てたときより少し下げて、美少女(?)の頭上から粘液を洗い流して行く。すると、誠磨と違って全身浸かってギットギトになっていたにも関わらず、身体に張り付くことなく綺麗に剥がれ落ちていく。
「意外と落ちやすいんだな……、何か小さい頃に遊んでた市販のスライムみたいな感じかな? でもそんなに固形って感じでもないし透き通ってるし……何なんだろうな」
想像と違って無抵抗に排水溝の中へと詰まること無く洗い流れていった。次に、髪にシャンプーを塗って泡立てながら丁寧に洗っていく。すると粘液がべったりと付いていた後とは思えないほどに、髪が指に絡まず間をすり抜けていく。
「痛くないか?」
「……」
「大丈夫そうだな、にしても君の髪すごいな~。櫛で溶かした後みたいに全然引っ掛からなくてサラサラだし透き通ってるしーーさて、んじゃシャワーでまた流すぞ~」
そう言ってシャンプーの泡を洗い流し、シャワーを一旦止めた所で誠磨は一時停止する。
「(さて、ここからなんだよな~……身体も勿論洗ってあげなきゃいけないんだが、俺にとって3つの問題に直面している。この子の上と下、そして背中の翼だ)」
上半身には女性特有の胸の膨らみ、下半身には男性のみ携えている得物。そして一瞬触れただけで死に追い込まれるほどの威力で殴り飛ばされる白い翼。いずれに触れてしまった際には、きっとそれぞれによる何かを失ってしまうかもしれない。そう思って手が動かないのだ。
「(下のアレには何故か毛が全く生えていなくて、サイズ以外は小学生みたいな感じではあるが……だから何なんだと。そもそも他人のソレに触れること自体、普通に嫌だろ! 上のアレに関しては起きた直後に密着していたのに、動揺していたの俺だけだからな……まぁ俺の意識次第なんだが、一番厄介なのはこの翼だ!! 触れたらやられる!! どうしろと!!?)」
誠磨が頭を抱えて唸っていると、鏡越しに誠磨の顔を見つめていた美少女(?)は背中がオレンジ色に光り始め、吸い込まれていくように翼がゆっくりと背中の中へと納まっていった。その光景に誠磨は下を巻く。
「……っ、つうか収納できたのかよソレ!? 出来るなら髪洗う前にでも仕舞っておいてくれよ……、さっきまでもすんごい神経使ってたんだぞ?」
「……んむぅ」
「……まぁいいや、一応気を遣ってくれたみたいだし、このタイミングで翼を仕舞ったってことは覚悟を決めたんだな?」
「……」
「よし、んじゃ今度は俺の番だな! 許可が下りた以上、引け目を取るわけにはいかんからな!」
そう気合いを入れて、吸盤で張り付けている掛け棒からバスタオルを手に取り、ボディーソープを多めに付けて泡立てる。
「うおぉおおおお!! よし、んじゃ腕からいくぞ!」
美少女(?)は返事をしないものの、身体の力を抜いているので順調に両腕と首回り、そして背中を洗ったところでボディタオルを更に折り立たんで厚めに持って美少女(?)の胸元の前へ構える。
「このぐらい厚く持ってるから、意味無いと思うけど幅を持たせてこれでいくからな?」
「……」
「(もう返事するしないの基準が分からんって……)ま、まあいい、いくぞ! 嫌になったら痛くない方でサインを出してくれよ?」
返事を数秒待ったが、様子にも全く変化がないのでそのままゆっくりと、押し当てるのではなく撫でるようにやんわりと鎖骨辺りから徐々に下げていく。緊張しながら胸部を避けるように経路を曲げつつ腹部や脇腹などを磨き、骨盤から足裏までを済ませる。そして、股と胸部をスルーしたまま手を引っ込めようとした時、その腕が何に捕まれた訳でもなく急停止した。
「(……っ! 何だ!? 誰にも捕まれていないのに、この子の太ももから手が離せねぇ!! けど何かしらの変な力とか感じないし、捕まれてる感覚も無い。これは、俺の気持ちなのか……? 俺自身が手を引くことを拒んでいるのか……? 俺の知らない俺に危険地帯からの撤退を封じられたんだが……さっきの意気込みを貫き通すしか無いのか……クソッ!!)ーーおら、いくぞォオ”オ”!!」
か細く裏返った雄叫びを上げながら、美少女(?)の胸部を下から軽く上下にスライドさせた。すると、小さな膨らみの頂上を通過した瞬間に美少女(?)の上半身が僅かに機敏に揺れ動いた。その振動で反射的に誠磨も飛び上がるように、数歩後ろへ下がり両手を挙げた。
「ご、ごめん!! ほんとゴメン!!」
「……」
「はぁ……もうやだよ……、俺何やってんのマジで。もうどういう感情を抱いたら良いか分かんねぇよ……、あの感じは明らかに男には無いものだし、つうか腕とか足もどうなんだけど。下のソレがあるせいでマジでどっちなのか分かんねぇんだよ! あとスタンドアップさせるな! なっちまう理屈は分かるけども……」
「んむぅ?」
「本当ならそこも洗わなければならない大事な部分なんだが、そこだけはマジで勘弁してくれ。これ以上踏み込むと俺が俺で無くなるかもしれない……つうかもうさっさと洗い流して出よう! そうしよう! いつまでもこうしてると部屋のベトベトが乾いて取れなくなっちまう!!」
誠磨は美少女(?)の全身の泡をシャワーで洗い流し、段差の注意を促しながら風呂場を出た。そして先に美少女(?)の身体の水分を、厚めに折り畳んで持ったバスタオルでしっかり拭き取る。そしてサイズが一回り大きくはあるが下着と服の上下を着せて、バスタオルを頭に巻かせてリビングへ座らせる。その後にすぐ自分も着替えを終わらせてドライヤー持って美少女(?)の脇に座る。
「じゃあコレで髪を乾かすから、こうやってデカい音が鳴るけど少し我慢してくれ」
そう言って頭のバスタオルを解き、近くの蛸足配線にコンセントを挿してスイッチを入れる。だが美少女(?)はドライヤーの騒音に対して一切挙動を示さない。
「(これ結構煩い音だけど、こういうのは平気なのか……?)」
不思議に思いつつも、丁寧に髪を乾かしたところで一息つく。
「はぁ……取り敢えずこの子に関しては、ほんの少しだけど落ち着ける状態にできたかな。で、ここから部屋の掃除しなきゃいけないのか……。風呂は入る前に散々動き回ったから部屋中やべぇことになってるし、いつ終わるか分かんねぇぞこれ……? つうかどうやって掃除するんだこれ?」
頭を抱えて暫く唸った末、誠磨は泣く泣く繁益に頼ることにした。一先ず彼に電話を掛けてみると、4ダイヤル目で繋がった。
『はいはい、どうした誠磨?』
『もしもし、先程はホントすみませんでした』
『いいって、んで片付けは終わったのか?』
『いえ、その……さっきの子をお風呂に入れて着替えさせたところなのですが』
『ほう、一緒に風呂に入っ……ととと、危ねぇ』
『あ、すみません! 粕寺さんの様子はどうでしょうか?』
『あぁ、さっき起きたんだが今は落ち着いてる。俺は早く部屋に戻ってゲームしたいんだが、さっきのことが気になりすぎて一人じゃ余計落ち着かないって聞かなくてな~』
『そうですか……、ちょっと繁益さんにお聞きしたいことがあるのですが今宜しいですか?』
『あぁ、何だ?』
『その……ローション、ですか?』
『いや俺に聞くなよ、自分で買ったか貰ったかしたんだろ?』
『それは、えっと……』
『ったく今日はやけにハッキリしねぇな~、まぁいい。で、本題は?』
『あの、非常に申し上げにくいのですが……』
『心配するな、別に怒ったりしない。お前もよく知っているだろう』
『そうなのですが、あまりに変な質問をしてしまうので……』
『前提でそれ言うのか……、まぁ言ってみろ』
『……、このベトベトってどうやって片付けたら良いのでしょうか?』
『……ハァ?』
つづく
内容もっと詰めていきたいのですが、私の中ではネット投稿する際に凡そ4千~5千文字という基準で書いておりますので、書いているうちにいつのまにか5千文字辺りに行き着いて入りきらない感じになる時があるんですよね……。
個人的には5千文字辺りが丁度いい長さかなと思っておりますので、読みやすい内容量で綺麗に区切っていこうと思います
ではまた次回、次の金曜日をお楽しみに!