29缶目「ナチュラルな誘い?」
脳内エンジンを掛けるキーとしてよく飲んでいたMonsterエナジーを、最近は飲むのを自重して自力で短時間への集中を意識して書いています。
理由は、カロリーが高いからです(
ミユリが自分の元から逃げるように離れ、粕寺の元へと避難した一連の出来事を機に誠磨は自分に何らかの異変が起きていると察した。その為、早々に解決すべくまずは予約無しで診察出来る近所の精神科を訪ねる。
「すみません、最近何か自分の記憶と違う出来事が起きているといいますか……無意識のうちに身に覚えのない出来事を引き起こしちゃうことがあるんですよ」
「なるほど、今一緒に住んでおられる方っていらっしゃいますか?」
「え、えぇ……一人小さな女の子がいます」
「なるほど~、その子はお子さんですか?」
「い、いえ! 最近一緒に住むようになった子で、実子ではないですね」
「ほうほう、なるほどなるほど……」
こういった具合に、まずカウンセラーが直球を軽く流しつつ外回りな受け答えしながらクリップボードの白紙に落書きのようなメモを記していく。
「ーーふむふむ、なるほど。分かりましたありがとうございます、ではこちらのお聞きした情報を医師の方にお伝えしますので、前の方でお待ちください」
「は、はい…… (また待つのかよ……、てかちゃんと話聞いてたのか? 聞き流しているようにしか思えなくて逆にイライラするんだが)」
そうして呆れながらも十数分ほど椅子に座って待機し、順番が回って今度は医師のいる部屋へと案内された。
「はいはいどうも、こちらへお座りください」
「は、はい……」
向かいに座っているのは眼鏡をかけた初老な感じの男性だった。
「今どういった症状が起きているの?」
「えっと~、最近何か記憶違いな出来事に遭遇するといいますか……無意識のうちに何かやっちゃう事が増えてきたみたいなんですよね (……はぁ? いやいや、さっきのカウンセラーとの話はなんだったんだよ、全く話が伝わってないじゃないか!?)」
結局カウンセラーに伝えた用件と同じ事を伝える二度手間で、精神科の医師を訪ねているのにちゃんとした薬を貰えるかどうかの心配で逆に不安の種を拾ってしまった。
「ーーそれで、他に症状はありますか?」
「あとはその……物忘れが起こりやすくなってますね、重要なことから些細なことまで。自分で実感する限りの症状はこの二つだと思います」
「ふ~む、なるほどねぇ……貴方は最近キャパオーバーな事に振り回されていませんか?」
「キャパオーバー……ですか?」
「えぇ、その症状が起こる前後、貴方自身に何か荷が重い責務や課題を背負い始めたりしていませんか?」
「責務、ですか……(時期的に当てはまるのはミユリの件だろうけど、別に嫌々やってる訳じゃないしな……本人は嫌味満載だけど)」
「まぁもしそういったものによるストレスを抱えているなら、その積み重ねによって引き起こされるパニック症状を防ぐ為の“脳の防衛処置”だと思われますねぇ」
「脳の防衛処置……」
「人によって差が出ますが、負荷のかかる記憶が過剰に積み重なった場合に自我を保つために一時的な封印を施すことがあるんです。要はストレスの抱えすぎということですね」
「なるほど……」
「取り敢えずはまぁ落ち着いて、気が楽になって睡眠が取りやすくなる薬を2週間分出しておきますので、朝と夜の二回に分けて飲んでください。では前の方でお待ちください」
「あ、はい、ありがとうございます……」
誠磨はいまいち腑に落ちない心境だが、現状の支障が改善されるならばと一礼して診察室を出てカウンター前の席にて会計待ちで待機した。
「(ストレスかぁ……確かにあの日を境に一日中あの嫌味やら悪態に付き合う日々が訪れたからな。俺の周りは基本皆優しいし良い人ばかりだったから、それで耐性が付いていないんだろうな……)」
患者が少なく誰も気にしていないのにスマホを開いてまとめサイト眺めるフリをして、視界に映る書き込みを認識せず診察結果を思い返す。
「お待たせいたしました、甘巻さ~ん」
「……あ、はい」
会計後に処方せんを訪ねて薬を貰って帰宅し、忘れていた朝食をたまごかけごはんでテキトーに済ませて薬を飲んだ。
「……はぁ、ミユリは今頃ゲームでもしてんのかな……。流石にこっちはゲームする気になれんし出勤までの時間どうするか……ーーあ、そうだ」
誠磨はふと思い出してノートパソコンを立ち上げLINERを起動した。
「スピルさんから送ってもらったURLまだ見てなかったな、閲覧注意と言っていたからミユリに見せないようにと避けていたけど……今なら確認出来るか」
そう恐る恐るリンク先へアクセスし、有名掲示板サイトのZchに繋がった。
「“【朗報】あの気色悪い料理の旅館が閉店し、ワイ完全勝利……!”ーー旅館? ってことは、あのTシャツに描かれていたキャラクターは客寄せマスコットってことか?」
アクセス先は約2年前のスレッドであり、スクロールして眺めていくと大半がその旅館に対しての批判やネタで煽るレスポンスばかりで全体的に悪評が目立っていた。そして、スレ主が閲覧注意というコメント付きで初見向けにいくつもリンクを貼っていたので、それを上から順に確認していく。
「ヴぅっ……!?」
1つ目の画像を開いた途端、恐ろしい形相でこちらを睨んでいるような視線を目にして余りの恐怖で反射的にタブを閉じてしまった。
「……な、何だコレ……」
だがミユリに繋がる情報を掴めるかもしれないと、引くわけにもいかず気を取り直して再度同じ画像を開いた。今度は捜査のような感覚で目を凝らし、吐き気から意識を反らしつつ凝視する。
「これは……出されたままの状態なのか?」
画像に写っている写真は、シックな木製テーブルを背景に斜め上から鍋料理を撮影したものだった。中には白菜や白滝といった野菜らしき面影や豚肉の形状を認識出来るが、それら全てが赤黒い液体に浸かりきっていて色で判別が出来ない。そして、何よりこの鍋料理の見映えの悪さを主張していた極めつけのアクセントが中央に等間隔で置かれていた。
「目玉……だよな? まさか本物じゃないよな!?」
こちらを睨むような視線の正体は、中央からこちらに目線を向けられた謎の目玉2つであった。
「これは閲覧注意というより、閲覧禁止にすべきだろう……というか作るなよこんなもん! 罰当たりにも程があるだろ!!」
まるで獣が食い散らかした残骸の一部を土鍋で煮込んでいるような、どの層を目当てに編み出したのか分からないデザインで嫌悪感を通り越して怒りを覚えた。だが、吐き気を抑えるのも限界があるので情報収集を優先として冷静に次々とテンポ良く画像を開いていった。
「これは鍋スープというより、チーズフォンデュ……?」
2つ目の画像には勇気を振り絞ったのか取り皿に移した一食分の写真、3つ目にはレンゲや箸で具材を持ち上げて粘液のようにべったりと張り付いている生々しさ、そして4つ目に掌サイズで白い何かを包んだ網袋が鍋の中に浮かんでおり、5つ目にそれを取り出して紐解いた中身が写っているのを確認した途端に誠磨は言葉を失った。
「……」
その中身とは、無数の何らかの動物の牙であった。そして誠磨は限界に到達しトイレに駆け込み嗚咽を吐いた。
暫くして戻ってきた後に、画像を閉じて写真を上げていたスレ主の書き込みを引き続き確認していく。
“これがうちの目玉であるオススメ料理ですって蓋を開けられた時は、趣味の悪い冗談だとだけ思って何とか堪えた。だがこの得たいの知れない無数の牙が出てきた時には流石にブチ切れたわ”
スレ主がこの鍋を頼んだのには理由があり、メニューに写真が無く名前も何がどう調理されたものなのかという単語が一切無くどれも判断出来ないものだったのでオススメを聞いて注文したらしい。それらを含めて問い詰めたが、旅館の方針ですとの一点張りで無意味だった為ネットで拡散し悪評を広めた。その結果が閉店した今になるらしい。
「なるほどな……、つかよくそんなんで経営できていたな、いつからやっていたのかは知らないがーーそれよりTシャツのあのイラストと今のところ全く関係無いことしか書かれていないんだが、スピルさんはどういう意図でこんな昔の胸くそ悪いスレのリンクを貼ってきたんだ?」
そうしてだらだら蛇足的にレスポンスが続いているのを辿ってゆき、無駄骨かと何度も諦めかけていた先にようやく新しい情報が見つかった。
“そういや今はもう閉鎖されているが、一応公式サイトがあったんだよ。そこに載っていたセンスの無いキャラクターがどういう意図で描かれていたのか気になって、デザイナーの名前をTwicherで検索してみたんだよ。そのデザイナーは無事転職できたらしい”
埋まりかけていたスレッドの末端にて、Tシャツに描かれていたのと同じ画像がスレ主のレスポンスと共に上がっていて、スレ主の書き込みはそれが最後だった。
「いや肝心なそのデザイナーの名前は何なんだよ……そこ分からなかったら検索しようが無いだろ! というかスピルさんはあのイラストから検索して、この最後のレスに辿り着いてから俺に送ってきたのか? あの短時間で?」
旅館の名前も料理名も、例のイラストや肝心なデザイナーの名前すら結局掴めなかった以上、自力で検索しようにもその探るワードが皆無ではやる前から無理だと分かってしまう。
「はぁ……こんだけ酷いもん見て結局収穫無しかよ。取り敢えずこのまま切り上げるのも後味悪いし、何より今日の仕事に響きそうだから送り主のスピルさんに一度聞いてみるか」
誠磨はスマホのLINERからスピルに電話を掛け、十数回コールが鳴っても出ないので自分で一旦通話を切った。すると、その直後にスピルの方から掛かってきたので電話に出た。
「もしもし」
『あ、も、もしもし!? すみません、先ほどはちょっとバタバタしていて出られなくて……』
「いえいえ、すみませんお忙しい中電話してしまって。ちょっとお聞きしたいことがありまして」
『は、はい! 何でしょうか!?』
「いえあの、変な質問では無いので落ち着いていただいて大丈夫です」
『す、すみません……』
「いえいえ。えっと、この間送っていただいたURLのリンク先を今さっき確認しました」
『あ、はい……』
「(ちょっと声のトーンが落ちたな、これは思い出させない内に単刀直入でいこう)ーーこれの最後の方の書き込みで、あのTシャツのデザイナーが転職したと書かれていたのですが、そのデザイナーの名前が書かれて居なかったので手詰まりでして……何か他に知っていることが有りましたら教えていただけないかと」
『あっ……すみません! 今確認したら確かに肝心のお名前が載っていなかったですね……、早く情報を渡したくて見落としてました。すみません!!』
「い、いえ別に謝らなくてもーー」
『ちょっとお時間いただけますか!? すぐに探し出して掛け直しますので!!』
「いやあの、今知っていることがあれば教えてほしいだけでーーっと、切れちったよ……。検索できそうなワードが聞きたかっただけなんだが、まぁスピルさんの方が得意そうだしいいか」
水を入れたコップを片手にノートパソコンで別タブを開いて、自分なりに検索を掛けてみたがやはり情報は何一つ得られなかった。だが、その直後にスピルから電話が掛かってきた。
『もしもし!?』
「あ、もしもし」
『お待たせしてすみません! 見つけましたので報告の電話に上がりました!』
「マジですか!? ありがとうございます! 早いですね……探偵さんか何かですか?」
『い、いえ、そういうのではありません。ネットで探すのが得意なだけで……、それでデザイナーさんのお名前は“尾辺涼子”さんで転職先は夢の幸水族館です』
「なるほど……って、この短時間でそこまで調べがついたんですか!? 本当に探偵なんじゃ……」
『いえ、偶々すぐ見つかってそこから繋がっていって……』
「ありがとうございます! なるほど水族館ですか~」
誠磨はそれを聞いてとある考えが過り、ふと思い立ったことを述べた。
「あの、今週の木曜日、明後日が俺休みなので宜しければその水族館へ一緒に行きませんか?」
『…………ふぇ?』
すると少しの間、電話の向こうから声がしなくなり誠磨は内心不安を抱く。
「あ、あのすみません急にこんなこと言ってしまって……、今のは忘れてください。情報ありがとうござーー」
『!? ま、待ってください!! えっと、……それはつまり……』
「いやその、この間から色々と調べていただいてお世話になっているので、その尾辺さんって人に話を聞きに行く際にお礼として、せっかくなので一緒に行けたらなと思いまして。料金は当然俺が持ちますから」
『え、えっと……その……えっと……』
電話の向こうからはそればかりで、困惑の余りに答えられる状態ではなさそうである。
「急にこんなこと言われても困りますよね……すみません、また別の形でお礼をさせていただきますね。ではーー」
『っ……! ま、……待ってください! 行きます! 行かせてください!!』
「おっとビックリした……、本当ですか! ありがとうございます、では日程はそうですね……当日の午前11時、待ち合わせはどうしましょうか? スピルさん家から近い場所で、待ち合わせられそうな所ってあります?」
『え、えっと……絵本駅が分かりやすいと思います』
「了解しました、では明後日の11時にそちらへ向かいますので宜しくお願いします」
『こ、こちらこそ! よ、宜しくお願いしまっしぅーーあっ!』
「ははは、ではまた。情報提供ありがとうございました」
そして誠磨は通話を切り、一息ついた。
「ふぅ~……、つうかこれ今思えば……デートの誘いだよな?」
その後出勤までの間、恥ずかしさの余りに浮き足立って落ち着かない状態が続いた。
つづく
今回でエブリスタの方に上げてる最新話と並びました。ですが、しばらくはこっちにだけ上げていきます。
4月中旬に入ったというのに、季節が替わり損ねたのかと思うくらい冷え込む日が続きますね。うちの近所は特に夜中がホント寒いです……(友達の地域ではまだ雪が降る日もあるらしいです)
季節が先送りでズレていってるのか、はたまた四季が欠けていくのか……どちらにせよ心配ですね。
(もう30話が間近なのに未だに初夏スタートから一週間経ってないという、この物語の時間経過も心配です)




