28缶目「インプレッション?」
先日、新しい年号「令和」が発表されましたね。
平成が終わるのは少し寂しいですが、今後もどういった物事の進化や経過が訪れるか楽しみです。
(特にゲームの進化がどうなっていくのか……)
ミユリの甲高くまるで別人のような絶叫が止み、その反動で吸い込んだ空気に噎せながら身を震わせているところ。突如右の前腕を掴んだ誠磨の手から力が抜けた。
「……ミユリ? 何でそんな泣いて……ーーってうぁ!?」
ミユリは勢いよく手を振り払い、全力でその場から逃走し玄関から外へ飛び出した。
「み、ミユリ!? え、いやいや何処行く気だよ……こんな朝からもうっ」
誠磨はため息をつきながら、急いで追いかけて玄関へ向かった。
「ーーいだっ!」
「おっとと、ミユリちゃんどうしたの? 何かスゴい甲高い声が聞こえたから飛び起きちゃったわよ」
「……」
外からはミユリのぶつかった時の声と、その相手らしき粕寺の声がうっすらと聞こえてきた。それによりまたミユリを食い止めてもらったと思い、驚かせないようにと勢いつけずにドアを開けた。
「み、ミユリ? 大丈夫か?」
「っ!?」
ミユリは飛び上がるように両肩を震わせ、一瞬にして黄色と茶色マーブルな寝巻き姿の粕寺の背中にしがみついた。
「あ、あらら……?」
「えぇ……?」
「……」
しがみつく腕の力が次第に強まり、背後につられて少しよろけながら粕寺は誠磨に問いを投げ掛けた。
「あの~、甘巻君……? 無いとは思うんだけど一応聞くね、……この子に何かやっちゃった?」
「え? いえ何も……いつものように態度を注意したくらいで、そんな怯えるような事した覚えは……」
「そ、そうよね……。さっき窓からスゴい声が聞こえてきたから、思わず飛び出して来たんだけど……えっと、朝6時か~」
右手に握ったスマホから時刻を確認し、やれやれと小さいため息をついた。
「すみません、就寝中に起こしてしまって……」
「いや私の事はいいんだけど、あの声ってミユリちゃんよね? どういうことか説明してもらーーう”っ!」
「ッ!?」
困惑しながらゆっくり誠磨が近づくと、それに合わせて粕寺達も後ろに下がった。
「あと悪いんだけど……今はあんまこっち……来ないで、ほしいな……。甘巻君がこっち来る度に、ミユリちゃんがキツく絞めながら後ろ引っ張って苦しくなるから……(あと大きな刀も、んッ……! 挟まるように押し付けられてるから……気を抜いたら声が出……んぅっ!)」
「えっと……すみません」
歩み寄ろうとした誠磨は申し訳なさそうに数歩交替して立ち止まる。
「ごめんね、事情はやっぱり後で聞くわーーで、ミユリちゃんはう、うちに来たいの?」
ミユリは顔を埋めながら頷く。
「そっか……甘巻君、じゃあ暫く私の方でこの子預かるから。また連絡するよ」
「……分かりました、本当にすみません」
「まぁ甘巻君に限ってはそんなことするはず無いと思うし、ミユリちゃんからも事情を聞いておくから。じゃ、じゃあまたね!」
「は、はい……」
腰巾着のように抱きつくミユリの背中を粕寺は優しく撫で、少し慌て気味に歩幅を合わせつつ自室へと迎え入れた。そのドアが閉まる直前、僅かな間ミユリが誠磨の顔をキツく睨み付けた。
「……!?」
それはいつも向けられている罵声や舐めた態度の時とは違う、明確な敵意として向けられた視線だと誠磨は捉えた。
「ミユリ……」
そう呟いた時には既にドアは閉まっていて、呼び掛けの声は何処にも届かず虚ろに消える。
「……、病院行こう」
誠磨はスマホを取り出し、近辺の精神科に検索をかけながら自室へ戻っていった。
ーーー
ーー
ー
『ーーのライフサイクルから一時的に離脱……、第1被検素体のバイタルに磁場の影響無し。××01の電気信号に高熱反応有り……低下、糖類摂取により思考回路の冷却完了……』
「おいおい糖分に弱すぎるだろ……、いやこの場合は“甘い”と言った方が適切か? まぁいい、思いの外対象の移転が早かったが、これはこれでまた別の検証が捗りそうだ」
薄暗い空間に男が一人、機器類の稼働音に囲まれながら無数のモニターを前にして揚々と呟く。
「まぁさっきの反応からして事は順調に進んでいるようだし、多少の遅延は問題ないだろ……っと」
男は正面のモニターを見つめながら背ろの壁際にあるゴミ箱に向けて、ジュースの空き缶を片手で放り投げる。そしてその空き缶がゴミ箱の縁に当たり、ホールインせず床に転がる。
「……」
一方、ミユリを連れて部屋に戻った粕寺は一旦ミユリをリビングに座らせ、台所に移動して少し咳払いした後にスマホのLINERからまず勤め先の友人に電話を掛けた。
「あ、もしもし……? ごめん、ちょっと夏風邪で体調崩しちゃって……うん、薬はさっき飲んだんだけど……うん、ごめんね。シフト何処か代わってくれる? ……ほんと? ありがとう、じゃあその日に私入らせてもらうね。ありがとうーーふぅ……じゃあ次はっと」
その後、勤め先の店長に連絡しシフト交代の事情を伝え、通話を切ってスマホのカレンダーにメモする。そして冷蔵庫から1リットル紙パックのカフェオレを取り出し、グラス2つと一緒に持ってリビングへと戻った。
「……」
「大丈夫? 向こうで何があったか、今話せる?」
そう問い掛けながらグラスにカフェオレを注ぎ、テーブルの前で小刻みに震えながら体育座りしているミユリの前に置く。
「……」
ミユリは無言でグラスを持ち、粕寺の声を無視しながらカフェオレを少しずつ口に流し込む。
「甘巻君と喧嘩しちゃった?」
「……」
「さっきの感じだと甘巻君が何かやった感じに見えたんだけど、私の知っている甘巻君は暴力振るタイプじゃないし、ましてやお、女の子に手を出すなんて……何があったか教えてくれない?」
ミユリはやがて無言のままカフェオレを飲み干し、グラスをテーブルに置いて小さく口を開いた。
「……お主は妾とあやつ、どちらの言葉を信ずるのじゃ?」
「え?」
「それ程あやつと慕っておるなら……会ったばかりでましてや記憶を失った妾の言葉になど信用を置けなかろう」
強がるように所々に抑揚をつけるも、身の震えが治まらぬ故に声まで震えを帯びて小物っぽい口調として伝わってしまった。だがその口調に構わず強気な発言で粕寺は言葉を返す。
「そんなわけないでしょ」
「……」
「確かに甘巻君とは信頼の置ける関係だけど、今こうしてあなたが避難してきているのに信じないわけないよ」
「……」
「だから教えて、何があったのか」
ミユリは一呼吸置いて、溜め息混じりに言葉を紡いだ。
「……あやつは、妾に暴力を振るいおった」
「ッ!?」
ミユリの言葉によって思い描いていた人物像を打ち砕かれ、信じると決めた以上否定することが出来ず返す言葉に詰まる。
「フッ……フフッ……信じられぬといった様子じゃな? あやつはな、妾の腕をこう掴んで壁まで詰め寄って、へし折れるくらいに強く握りおったんじゃ」
それを聞いて粕寺はミユリの前腕に視線をやり、1つ脳裏に疑問を浮かべた後に問う。
「あの……ミユリちゃん、1つ聞いていい?」
「何じゃ」
「へし折れるくらい強く握られたって言ってたけど、それなら握られた所にアザでも出来てないとおかしくない?」
「……何じゃ、疑っておるのか? (確かに、何故じゃ……何故なにも痕が残っておらぬ!?)」
「うぅん、疑ってるわけじゃないよ。ただ甘巻君ってそんなに握力無かったと思うし……そのミユリちゃんの言うことを信じた上で、引っ掛かる点がいくつかあるってことよ」
「証拠を出せと?」
「いや、証明ならもう出来ているから大丈夫よ (私のところに来た様子を見ればねぇ……)」
「(……何故妾はあんな使えん雑魚如きに身を震わせていたんじゃ? 思い返せばここに来た時には既に痛みも消えておったし、あの時妾は一体何を見てーー)」
「ご飯はもう食べたの?」
「……んぁ? いや、まだじゃが……何じゃ唐突に」
「じゃあご飯にしようか、食べないと頭回らないし! 作るから待っててね~」
そう言って粕寺はスッと立ち上がり台所へ向かった。
「何じゃあやつ、起伏の激しい奴じゃ」
半ば強引に話を打ちきられ、くすぶった思いを発散しきれなかったミユリは悶々と先程の出来事を思い返しつつ朝食を待つことにした。
つづく
唐突に出てきた謎の人影、いつ登場させるか悩みましたが想定以上に話数に対しての進行が停滞気味に思えて……予定より早めに挟み込みました。
どう影響するのかはまだ秘密です。ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!




