26缶目「思い当たる一閃?」
5週連続2話投稿、5週目です。
誠磨が扉を開けると軽快な洒落たドアベルが鳴り、雛月を先に中へ入れてから入店すると若い落ち着いた女性バーテンダーの声に招かれる。
「いらっしゃいませ」
店内にはスーツ姿の男性客が3人いて、カウンターの両端や個人テーブルといった各々離れた場所で静かに一人酒をたしなんでいる。誠磨達はカウンターへと真っ直ぐ近寄り、女性バーテンダーに静かなトーンで声を掛けた。
「こんばんは~、久しぶり。今日は茜ちゃんなんだね」
「こんばんは~」
「はい、お久しぶりです。今日はどうされますか?」
「いつものをお願い、甘ちゃんもいつもので良い?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました、では順番にお出ししますので暫しお待ちください」
「は~い、じゃあここに座ろうか甘ちゃん」
「はい」
二人はカウンターの真ん中の席に並んで座り、注文したお酒を静かに待つ。だがその待ち時間もほんの僅かで、“いつもの”という注文で添えられたのは誠磨にカシスソーダ、雛月にウーロンハイという“そのまま頼めよ”と言わんばかりの比較的簡易なお酒であった。
「お待たせいたしました、こちらカシスオレンジとウーロンハイになります」
「ありがと~」
「どうもです」
「んじゃまずは乾杯しようか、甘ちゃん」
「はい」
二人はグラスを持ち上げて縁をそっと衝突させて、小さく軽快な音を鳴らす。そして一口分を喉に流し込み、ゆっくりとテーブルに戻す。
「(さて、ここからどう切り出し、どう切り抜けようか……。俺が把握しきれていない分、ミユリの存在を無闇に明かすわけにはいかないが、それ以外に嘘を付かずどう説明したらいい……?)」
「今日はお二人でご相談ですか?」
誠磨が黙々と出だしに躊躇っていると、バーテンダーの茜がグラスを拭きながらそれを担った。
「うん、ちょっとね。今日は私が色々とやらかしちゃってさ」
「あらら」
「いやでも、どれも些細なミスですしお客さんに迷惑がかかったわけでも……」
「今まで出来ていたことが急に出来なくなって、それが今後も起こりうるかもしれないからこうして二人で来てるの。原因は分かっているからそれについて詳しく聞かせて」
「は、はい、すみません……(やっぱ容易に済ませられないか、まだ説明が固まってないし下手なこと行って収拾付かなくなるのは避けたいし……、どうすれば……ーーっ!? そうか!!)」
言葉選びに煮詰まっていると、突如誠磨の脳裏に鋭い刺激が一閃と駆け巡り、一人の人物を思い浮かべた。
「えっと、まず茜さんにも軽く今回の事情を説明をしますと、俺が今日出勤した際に雛月さん曰く俺の服から妙な甘い匂いがしたらしいんですよ」
「あぁ、なるほど。それで雛月さんは甘巻さんに彼女が出来たんじゃないかと疑ってーー」
「ち、ちち違うし!! そんなんじゃないし!!」
雛月は羞恥で跳ね上がろうとする声のボリュームを、必死に抑えるよう自分の胸元に両手を添えて何とか堪える。
「すみません、声を挙げるようなことを言ってしまって」
「だ、大丈夫……」
「一旦落ち着いて違う話にしましょうか、えっと~……そう土日の営業で俺の代わりに新人を何人か入れたそうですが大丈夫でしたか?」
「う~ん、サボった罰としても色々と少し厳しめに言っちゃったから、やめちゃう子が出てくるかもしれない……はぁ」
「そ、そうですか……大丈夫ですよ、そうなる前に俺の方からその子らの相談に乗りますから、それで繋ぎ止めるよう試みてみます」
「ありがとう甘ちゃん、私あの子らからはもう鬼教官とか呟かれちゃって壁ができちゃったみたいだからさ~」
「お、鬼教官……(一応何年か一緒に働いているが、俺のいる前では絶対にその鬼を出さないせいか未だに想像出来ない。この小動物を思わせる容姿と口調、そして声質がどのように変貌するのか正直気になってはいるんだが……)」
「それで甘ちゃん、そっちは土日どうだったの? 少しは休めた?」
「え? あ、えっと……その、さっき見せた缶詰について色々と調べて回ってたのであまり……」
「そう……、何度も言ってるけど無理してシフト代わりに入らなくていいからね? 出来る時でいいから、あと缶詰については私もちょっと探ってみるよ。何か分かったら教えるね」
「ありがとうございます、雛月さん」
「うん、じゃあ落ち着いたし話を戻すよ。その私の調子が狂っちゃった甘い匂いは結局なんだったの?」
再度同じ問いが巡ってきた時には彼の内にある程度の説明が固まっており、カシスソーダを飲み切る勢いで流し込んだ後にゆっくりと口を開けた。
「えっと……多分ですけど、まず土日の間に一人女の子の友達が出来たんですよ」
「ぐふっ!? 何それ、聞き捨てならないわね……」
雛月は含みかけたウーロンハイを少し吹き溢す。
「ライバルたる刺客現る、ですね」
「いや、ですねじゃないですよ……。もしかしたら、その女の子と一緒にいる時に少し香りが移ったんじゃないかなって。まぁ俺にはその甘い匂いってのが分からないんですけど」
言い終わる頃には雛月は溢したウーロンハイを吹きながら、心ここにあらずといった具合に目のハイライトが失われたいた。
「ひ、雛月さん……?」
「私が懸念と体調の心配であげた土日休みの間に甘ちゃんは新しい女の子とあちこち遊び倒して香りが移るくらいに密着して短期間に親密な関係を築いーー」
「いやちょっ、待ってください違いますから、こっち戻ってきて下さい雛月さーん!?」
その後、数分軽く揺すって耳元より少し離れた位置から小さく呼び掛けてようやく雛月の意識が戻ってきた。
「ふぇっ、私……あれ?」
「大丈夫です雛月さん、俺そんな奴じゃないですから。情報探しに回ってる最中に会った子で、その後も協力してもらったりはしましたが殆ど顔合わせてませんから」
「そ、そっか……ごめん」
「もうそろそろ帰りましょうか、一杯ずつですし俺が出しておきますから雛月さんは先に外の風に当たってください」
誠磨は立ち上がって勘定の紙を手に取った。
「いやでも私奢るって言ったし……」
「大丈夫ですから、帰る前に少し酔い覚ましといてください」
「いやまだ一杯しか飲んでないし私酔ってなーー」
「すぐ行きますから、続きは後で話しましょう」
「う、うん……分かった」
雛月は渋々と店を出て入り口の横に立って待機した。
「ふぅ……、すみませんね今回一杯ずつで」
「いえいえ、楽しいお話が聞けて満足です。また続きを聞かせていただけますか?」
「え、えぇまぁ……今度来た時にでも。ではまた来ます」
「はい、ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」
誠磨は勘定を済ませて一礼した後に店の扉を開けて出ていった。そしてバーテンダーの茜がその勘定を仕舞おうとした時、下に添えられた一枚の紙切れに気づき手に取る。
「う~ん?」
“The Dream&Happiness! CA-Company!! という表記について見覚えがあったら今度教えてください”
そうして店を出た二人は、ここから歩いて20分ほどの場所にある雛月の住む実家へと足を運ぶ。
「ーーというわけで、別にやましいことをしていたわけではなく本気であの缶詰の正体を突き詰めようと動いていたわけでして」
「なるほどね、分かったわ。ごめんね変な気使わせちゃって、出してくれた分はまた今度返すから」
「いえ大丈夫ですよ、一杯ずつですし気にしないでください」
「いやそういうわけには……」
「はい合戦になる前に着きましたよ、明日……というか今日に響かないようゆっくり休んでください」
「はーい、今日はありがとうね。じゃあまた!」
「はい、お疲れさまでした」
雛月が家の門を通って帰宅するのを見送り、誠磨は来た道に振り替えって早歩きで自宅へと向かった。
「(何とかこっちは治めたけど、あっちは無事に過ごせているだろうか……。粕寺さんから連絡が来てないということは大丈夫なんだろうけど、付きっきりってわけではないしやはり心配だ……早く戻らないと!!)」
ーーー
ーー
ー
「す~……、すぅ~……」
一方ミユリはぷにぃ型の大きいクッションを抱いて横になり、誠磨の布団の上で小さな寝息を立てていた。
つづく
私にとってのお酒は、軽いもので稀に呑む機会が数回あった程度に縁遠い代物です。なので今回の飲酒描写は薄かったかもしれませんね……すみません。
登場人物の全員(20歳越え)が軽いお酒しか呑まないってのもおかしな話なので、いつか強いのを飲んでみるかもしれません。
では次話も同時に上がってますので、よろしければどうぞ




