22缶目「顔写真?」
5週連続2話投稿、3週目です
涙伝う卒業の季節ですね、私も花粉症に涙しながらタイピングしております。
台所からはキャベツに人参、玉ねぎに八宝菜といった野菜を刻む音がテンポ良く聞こえてくる。そんな中、誠磨は手伝いにいくよりも先に案じて止まないミユリの心境について、繋益に聞こえない程度の声で話しかける。
「えっと……取り敢えずどうだった? 手前に色々とあったから、というかあり過ぎて分かりにくかったかもしれないけど、女の子同士でのその……キ、キスに……ついて」
二十代半ばで未だ未経験だという、悪い方の童心が剥き出してしまったことで気色悪さが自分の意思より前へと踏み入ってしまった。ミユリは横目に距離を置くかの如く誠磨に冷たい視線を浴びせ、誠磨は己の恥部とも言える感情の1つを露呈した自分の口に左拳の側面を軽く当てて遅かれながら栓をする。そして小さく咳払いをし、印象の訂正を試みた。
「……すまん、さっきのは忘れてくれ。さっきまでの疲れでどもってしまっただけだ」
「……」
「に、にしてもミユリは全然平気そうだな! 早朝から昼頃だからだいたい6時間……休憩無しにブッ続けでプレイしていたってのに」
「……フンッ、先の問いで急に気分が悪のうたわ」
「悪かったって……蒸し返すのはやめてくれ。それでどうだったんだ? 女子目線でのさっきのシーンについて思ったことは」
「……何故、わざわざ女子目線と付け加えたのじゃ」
「いや別に他意は無い、ただそっち目線での感想が聞きたいだけだ」
「……」
「まぁ無理に言わなくてもいい、俺は記憶を思い出す弊害にならないかとか色々心配して聞いてるだけだ」
ミユリは暫く黙ったまま、手元で握っているUSBメモリを見つめる。
「……あの場面については、特に色恋沙汰においての感情は沸いてこぬ。ただ驚いたというだけじゃ」
「そうか、ならうちで続きをやっても良さそうだな」
「他の答えだとさせんつもりじゃったのか?」
「いやまぁ、あのシーンだけで百合ゲーと称すにはまだ早すぎるというか……正直言って今の段階だと殆どグロゲーじゃん?」
「ゆりゲー……グロゲー?」
「あぁ悪い、1つ目に言った百合ゲーってのは要は女の子同士の恋愛ゲーム。2つ目はさっきやってた痛々しい場面が多いようなゲームってところかな?」
「ふ~ん」
ミユリは特に興味無さげな返事をし、台所に立つ繋益の方へと視線を向ける。二人が喋っている間に台所では既に下ごしらえを終えて、フライパンで具材を火にかけを炒め始めていた。そこから焼ける鶏肉の匂いが野菜と合わさり立ち込めてくる。
「ーーってやば! 作ってもらっておきながら座りっぱなしじゃないか俺……、ちょっと手伝いに行ってくるから。大人しく待っていてくれよ」
「呑気な奴じゃのぅ~」
「……」
誠磨は気まずそうな顔をして立ち上がり、申し訳なさそうに繋益の元へ近寄る。
「すみません、作っていただいてるのに座りっぱなしで……」
「ん? あぁなんだそんなことか、スゴい顔色なもんだからてっきり具合悪いのかと思ったぞ」
「あ、いえ、まぁ……」
「外で見かけた時もそうだが、色々疲れているような感じに見えてな。ゆっくりしてもらおうと思って声かけてなかったんだが、生真面目で最近やたら空回りなお前には逆効果だったようだ」
「あ、いえすみません! せっかくお気遣いいただいてるのに……」
「っはっは、これ言おうか迷ってたんだが……一昨日まで見ない間に随分と変わっちまったなよな誠磨。寧ろ逆戻りと言うべきか」
「……」
「やたらかしこまった懐かしい感じな、まぁ暫くは直接会ってないし……半年くらいか? んで、その理由もアレだから仕方ない部分もあるが……」
「すみません、一昨日から色々と絶え間なく起こりすぎていて混乱しているだけです。暫くはこのような感じですがいずれは」
「まぁすぐに無理に戻そうとしなくていいさ、落ち着いて心にゆとりが出来た時にでもな。俺はあの時から変わらずその手助けをしているつもりだ」
「あの時……」
思いに更けようとした途端、それを遮るかのようにリビングから罵声が飛んでくる。
「のぅ~! 飯はまだかー!? そやつが足引っ張ってるんじゃなかろうな~!?」
「ってミユリ! 人様の家で急かすんじゃない!」
「っはっはっは、すまんな嬢ちゃん、誠磨から君が大飯食らいだと聞いているから多めに作っているんだ。もうすぐ出来るからな~」
「んなっ!? ぐぬぬ……相変わらずデリカシーの無い奴め!」
「いやお前だろ!? 言わなかったら少ないだの文句言うだろうと思って、先手を打ったまでだ!」
「何を言うかこの戯け!」
「まぁまぁ落ち着きな、ほら出来たから誠磨は米をよそって運んでくれ」
「あ、はい、了解しました!」
「……フンッ」
そうしてテーブルに手前から誠磨、繋益、ミユリの順で時計回りに食卓を囲んだ。テーブルにはメインの“鶏もも肉の甘辛野菜炒め”が白い陶器皿、その横に添え物として“蓮根とゴボウの梅和え”が小さい器で各々の前に白米と並ぶ。
「「「いただきます」」」
「ほぉ、挨拶出来るんだな。偉いぞ」
「お主、妾をバカにしておるのか?」
「いやいやすまん、違うんだ。記憶を失った者って症状がそれぞれ異なって出るものだから、どのくらいこうして話すことができるのかと思ってな。言い方悪くてすまなかったな、さぁ食いな」
ミユリは促されるままフォークを逆手で不格好に持ちながら食事を口に運び、繋益はその様子を静かに伺いながら食事を口にする。誠磨はその行為が先ほど述べられた通り、彼女の有するものとそうでないものを計っているのだと察する。当のミユリはそれに気づくことなく夢中に食事を貪っていく。
「がつがつがつ……ッ!」
「フフッ、旨いか?」
「がつがつがつ……、がつがつ……ッ!」
「うん?」
「すみません……おいしいものを食べている時、こっちの話を聞かないんですよ。なので食事を終えるまでこの子と話すことはできません」
「ふむ、なるほどな」
そう言っている間にミユリは自分の食器を全て空け終えてしまった。
「ふぅ~……余は満足じゃ。彼奴のより心地よく喉を通せるものであったわ」
「……」
誠磨はその誰への恩義も無い不躾な一言により、一気に怒りが込み上げて箸が止まる。
「おいおいミユリ嬢、あまり誠磨をコケにするんじゃないぞ? まだ二日だが一番世話になってる人だろう、あんまり言うようなら俺も仏の顔が少し剥がれちまうぞ?」
「……」
ミユリは繋益の言葉から何らかの恐怖を感じたのか、何も言い返さず黙ってテーブルを見つめた。
「やれやれ、誠磨も黙ってないでしっかり言わないと、この子の為にならんぞ? まぁそこまでしてやる義務があるかどうかはお前が決めることだが……」
「はい……」
「とりあえず、話を変えようか。このままでは昼飯が進まん」
「そうですね」
「……なら妾から1つ、お主に問わせてくれ」
「うん? あぁ、いいぞ」
「お主は記憶を治す方法を知らぬか? 彼奴では宛にならず一向に進まんのじゃが」
「悪かったな、記憶喪失を助ける程のマルチタスクを持っていなくて」
「まぁまぁ、俺も色んな媒体を通していくつかのケースを見知った程度だから、誠磨と同じで宛にならんよ。そもそも対応できる人の方が希だしな」
「何じゃ……、ならどうやって記憶を探り出せば良いのじゃ!?」
「そうだなぁ……まぁ治るかどうかの確証は置いといて、有名どころで言えばショック療法とかな」
「しょっく……りょうほう……?」
頭に疑問符を浮かべるミユリに誠磨はゆっくりと丁寧に説明する。
「頭をどこかで打ったり、転んだり、尖ったものが刺さったり、あと匂いを嗅ぐとかで起こる物理的な方法と、何かを見たり聞いたりして起こる精神的な方法の二種類があるんだ」
「ふーん」
「ミユリはさっき遊具に酔ってクラクラしていたけど、あの揺れた後の感覚も方法ではないけどきっかけにはなりそうだったな。かといって何度もそれ目的にさせたくはないが」
「妾とて二度とあんなもの乗るか! それと食ったあとに思い出させるでないわ戯け!!」
「わ、悪い悪い……」
「なるほど、今朝は記憶を戻すきっかけを探りに公園へ行ってたんだな」
「はい、結果は全く……といいますか、探す前にミユリが勝手にあのグラグラ揺れる遊具に乗っちゃって、あっという間にダウンしちゃったんで探せませんでしたが」
「ッハハハ、やんちゃだな~ミユリ嬢は」
「うるさい!!」
「はっはっは、さてミユリ嬢……と誠磨にもかな、今度は俺からも1つ質問させてくれるかな」
「んむ?」
「はい、何でしょう?」
繋益は意識の片隅で逐一思っていたこと、そして誠磨も時折り気にしていたであろう疑問を二人に投げ掛けた。
「ミユリ嬢は何故、誠磨を“彼奴”とか“お前”としか言わないんだ?」
「んむ? 妾は彼奴の名前など知らんぞ?」
「「…………エ?」」
二人はあまりの拍子抜けに言葉を失い、少しの間空間ごと思考に静寂が訪れた。
「別に他人の名など興味が無いからのう」
「いやいや……誠磨は一時的とはいえ名付け親なんだから、その時点で他人ではないだろう。忘れたならもう一度ーー」
「いや、そもそも名乗られた覚えが無い」
「……何?」
「は? いやいや、……え?」
「……お前、“名乗らなかったこと”を忘れおったのか?」
「え? ハッ、いやいや名乗っただろう……興味無いなら忘れたのはそっちじゃないのか? 俺は最初に甘巻誠磨だとーーッ!?」
言い終える直前、誠磨は呼吸器に栓をされたかのような息苦しさを感じて顔色が青白く染まりはじめた。
「(そういえば、俺がミユリに自己紹介したのはこの子が今のように喋る前だった……この子が覚えていないわけだ。ミユリ自身が何の不信感も無く“お前”とだけ言ってくるから、てっきり本人の性格によるものだと思っていたが……これは俺の落ち度だな)」
「どうした誠磨、また顔色悪くなっているぞ」
「妾に図星つかれて冷や汗か?」
「……確かに俺は、今のミユリに自己紹介をしてませんでした」
「本当にしていないのか……」
「ほれ見たことか!」
「それもあるんですが、更に言うと俺の記憶欠如の頻度が酷くて……その恐怖に少し気分悪くなってしまって」
「ふむ……まぁ俺と粕寺がお前の部屋に行った時から何処か覚束ない感じだし、単に忙しさで色々丁寧に記憶する余裕が無かったんじゃないのか?」
「……そうなのでしょうか?」
「お前のポンコツ脳みそではその程度ということじゃろうな」
「いちいち煽りを挟み込んでくるなよ!」
「まぁまぁ、とりあえずこの子の記憶を探すより先に、必要最低限の新しい情報を記憶してもらわないとな」
「はい……」
その後、二人は貸していたゲームとセーブデータの入ったUSBメモリを持って帰宅し、誠磨は帰るなりテーブルのノートパソコンを開いてとある作業に取りかかった。
「何をしておる?」
「ミユリに俺含む4人の顔と名前を覚えてもらう表を作っているんだ、さっき言われたろう? 必要最低限の新しい情報が必要だって」
「妾は別にーー」
「興味無いで割りきれる問題じゃないんだよ、少なくとも世話になるこの4人の顔くらいは覚えてもらわないと」
「……」
「(とりあえず3人に顔写真を頼んでみて、ダメなら俺がイラストで描くが……できればイラストは勘弁したいな)」
誠磨はWordにまず其々の名前とフリガナを記し、LINERにて3人に顔写真を送ってもらうよう頼んでみた。
『構わんが、悪用はするなよ?』
『しません! ミユリに覚えてもらう表を作るだけなので大丈夫です!!』
『いいけど、前に一緒に撮ったような気がするけど写真残っていないの?』
『携帯が水没してライブラリが一部破損してしまって……、ミユリに今更ながら俺含む4人の名前を覚えてもらう為の表を作ってまして』
『そう、分かったわ。今撮るから待っててね』
『ありがとうございます』
「(本当はあのメッセージをきっかけに拒絶反応が起きて、狂ったようにライブラリから痕跡を消していたんだけどな)」
『写真……ですか? すみません、ちょっと恥ずかしくて自撮りは出来そうにないです……』
『そうですか……、しかしそこをなんとか! ミユリにスピルさんのことも覚えてもらいたくて、俺含む4人の顔と名前が一致するようにちょっとした表を作っているんです』
『そうだったのですね。では少々お待ちを、姉に見つからない状態でなるべくブサイクに写らないよう撮ってみます。やったことなくて不馴れなので時間かかってしまうと思いますが……』
『ありがとうございます、よろしくお願いします』
そうして繋益からは頼んでから僅か数十秒、先程顔合わせした時と何ら変わらぬ状態でデスクトップパソコンを背景に自撮り写真を送ってもらえた。その後、粕寺からは凡そ30分後に薄化粧したであろう顔写真が届いた。ここまでは順調だったのだが、残りの一人であるスピルからは一向にメッセージの通知が来ない。
「(時間かかると言っていたし、このくらいは普通にかかるんだろうな)」
しかし、その後も夕方を迎えるも音沙汰は無く、ついには居酒屋パートである誠磨の就寝時間4時に差し掛かっても、ついには就寝を挟んで昼前に起きてからも連絡は来なかった。
「無理なら断ってくれても良かったんだが……」
そう呟いた矢先、LINERに2度通知が入った。画面を開くとスピルからの通知が2件で、洗面台に映る自分の不安そうな表情を撮影した画像と謝罪メッセージが送られていた。
『本当にすみません!! どうしてもまともな良いと思える写真が撮れなくて……こんなにも遅くなってしまいました……ごめんなさい!』
『いえいえ、時間かかると仰ってましたし大丈夫ですよ。ご協力ありがとうございます』
誠磨はパソコン側がらLINERにログインして、画像を保存し例の表に張り付けた。
「よし! 何とか出勤前には間に合ったか~、……ミユリ~」
「何じゃ、今ゲームで忙しいんじゃが」
「お前そればっかだな……、その曲終わったら一旦手を止めてこっち来てくれ」
「しょうのない奴じゃ」
「誰がだ、ったく……この表を見てくれ、ミユリに俺らの顔と名前が覚えられるよう工夫して作ったんだ」
「うっ……」
ミユリが目にしたWordの表は、4人が横並びで顔写真から順にフリガナと名前と年齢が記されている。スピルの年齢の部分には“?”と記してある。しかしそれだけに留まらず、何を思ったのかそこら中にクレヨンで描いたような太陽や動物の絵が貼り付けられており、名前も明朝体やゴシック体ではなく妙に丸みを帯びているせいか大人から見れば正直読みにくい字体であり……
「どうだ? 必要な情報だけだと味気なくて取り組まないんじゃないかと思ってな、色々と加えてみたんだ」
「……お前、誰向けに作ったんじゃ?」
「ん? いや今さっき言っただろう、ミユリが俺らの顔とーー」
「そうではない、これどう見ても幼児向けじゃろうが!!」
「えぇ!?」
誠磨は根本的に資料を作るセンスが備わっていなかった。
つづく
期待を込めて購入したゲームが散々な出来で、もはや出来とさえ言えるのか怪しい代物でした。
なので、執筆の時間が予定より少し多めに取れる……かな?
では次回も同時に上がっておりますので、良ろしければご覧下さい




