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Say!天缶!  作者: 信条
21/53

21缶目「Lili Princess of Night:後編?」

5週連続2話投稿、2話目になります。

 ゲームを初めて数時間、現実では昼前に差し掛かるところである。


『「はぐはぐっ……がつがつ……!」』


 真っ白な少女は真っ白なドレスを身に纏いながら巨大な長方形のテーブルの端っこで一人、ひたすら昨日の昼頃から日を跨いで一日中、出された食事を貪り続けている。次々と料理を運んでいるメイド達と、傍に座る国王は悲しみに暮れている。

 黒い少女は貪る少女の横に立ち、渡された黒い綺麗な生地の服を纏っている。右腕には包帯が巻かれていて、赤黒い血が滲んでいる状態だ。


『「もうお腹膨れているじゃろう……? いい加減食事を終えてーー」』


『「邪魔しないで!! まだ足りない……足りないの……」』


『「……おいお主」』


『「はい、国王様」』


『「……我が娘は、普段はとても少食で、自分より国民に食料が行き渡るよう願うとても優しい子なんだ。それが今は……」』


『「……国王様、あの赤いエネルギー体はアタシの腕を貫通して姫様に直撃しました。この腕もずっと何かに飢えているように、血が滲んで出血が治まりません。重度は違えど同じ症状を抱えているかと思われます」』


『「……」』


『「輸血液と包帯を大量にいただけませんか? アタシが姫様を変貌させた原因を突き止めて、解消法を探しにいきます」』


『「……分かった」』


 それから黒い少女は物資を貰い、住民にエネルギー体の目撃情報を聞き込みをしながら街中を駆け回る。すると突如、街中にも関わらず赤黒い異形なオーラ状の何かが数体空間を裂いて地に足ついた。


『「こいつら……、街の外にいた化け物と似ている……!?」』


 住民達は悲鳴を上げて散り散りに逃げ惑い、大勢で賑わっていた周囲から人が消え静まり返った。


『「この街の外には境界のような何かが張られていて、さっきまで出てくる気配は無かったのに……!」』


 黒い少女が抜刀を構えてそのまま戦闘が開始された。だが刀身が胴体を突き抜けても切り裂いても、そのオーラ自体はその被弾部分から割けるなり貫通した穴が空いたりするのだがすぐ元通りとなってしまう。


「何じゃこれは! 全然きかぬぞ!?」


「まぁまぁ、そういうもんだ」


「うぬぬ……」


「(にしても、もう11時だしだいたい5時間くらいか……結構やってるがミユリはまだ平気そうだな。しかし今のところはゲームの方も全く百合要素が無い感じで、このまま辿り着くまでやるつもりなんだろうか? そうするとどのくらいかかるやら……)」


「二人とも大丈夫か~?」


「問題ない、じゃがこやつらが全然倒せん!」


「大丈夫です、あとどのくらいかかりますか? 俺、何故かやっている筈なのにあまり覚えていなくて……」


「確かもうすぐだったと思うぞ」


「そうですか、分かりました」


「二週目は確かもう少し先の方までのがスキップ出来たはずだ。そういう問題ではないとは思うが……すまない」


「いやいいですよ俺は、既プレイで実況動画を見てるような感覚ですしお気になさらず」


 二人が後ろで話している間の数十秒、モニターでは黒い少女が攻撃の効かない敵を数体追いかけ街中を駆け回っては刀を振るう。


『「くっ……どこを狙っても手応えがまるで無い……! やはり実態が無いせいかダメージを与えている感じがしない。けどこのまま野放しにすることも出来ない、どうしたものか……」』


 すると数体のうち一体が黒い少女の右腕に目掛け、螺旋状に変形しながら飛び込んできた。それに対し刀の攻撃ボタンを連打するが、判定が無いのでそのまま接近を許してしまい左上の赤いゲージが凄まじい勢いで縮んでゆき0となった。


「ぬわぁー! 理不尽じゃぁあああ!!」


「えぇ……こういう感じでしたっけ?」


「はははっ、そうだな」


 その後すぐに暗転し、黒い少女をアップにムービーが入る。


『「がぁ……ッあああああっ!!」』


 螺旋状に接近してきた敵がそのまま細い右腕を数ヵ所から突き破り、強引に体内へと侵入した。太いボルトを強引にねじ込まれて骨ごと中身をスムージーにされるような、耐えがたい激痛が前腕を通って胴体へと渡ってくる。黒い少女は右腕を抱えながら地を転げ回り、叫び散らしながら悶え苦しむ。そして通過した箇所から順番に感覚が切り捨てられていくように、右腕が指先から部位ごとに段階を踏んで動きが無くなってゆく。


「(いやいやグロいってか生々しいすぎるだろ……、ちょっとこれ違う方向で怪しくなってきたぞ……。もうこの辺でやめえさせた方がーー)」


「……」


 ミユリは冷や汗を垂らすような表情の曇りを表すが、それでも目を離さずしっかりと画面を見続ける。


『「あ”あ”あ”っ……あ……ァ……」』


 目のハイライトが消え、その場で導線が切れたように唐突に悲鳴と動作が止み、ふらついた状態で刀を左手に握って杖代わりに地面へ突き刺しゆっくりと起き上がった。そして左上の体力バーの白枠が赤色に変化し、ギザギザに歪んで真っ黒なゲージが蓄積された。

 そして雑巾絞りのような細く捻られた右腕を垂らしたまま、再び戦闘が始まるが攻撃が効かない様子で、残りの敵がそのまま一方向へと風に吹かれるように移動した。黒い少女はそれを刀を振り回しながら追いかける。


「あの……繋益さん、ちょっとヘビーすぎません? 初めてのアクションゲーとして遊ぶには重すぎるような……しかもこれまだ導入でしょう?」


「あぁまぁ……確かに思ったよりキツそうだが、やってる側としては夢中になるから心配ないだろう」


「……」


 そうしてオーラ状の敵達を追いかけていくと、街の端にある墓所に到着した。領域に足を踏み入れた途端、周囲に濃霧が発生し追いかけていた敵の姿を見失った。


『「……は……か……?」』


 本能のままに動いていた黒い少女は標的を見失い、その場で意識が朦朧とした状態で立ち尽くす。すると一人の老婆なのか老翁ろうやなのか分からない声が辺りに反響する。

 そして声が比較的近くなったり遠ざかったりを繰り返し、近くなった方角から殺気の感じて刀を振るう。しかしそれは空に斬撃を描くに留まり、濃霧を祓えなかった。


『「醜く鈍った刃に闇を裂く資格は無い」』


『「っ!?」』


 近い声のする方へと刀を振るうと、振り終わりに左手首を握られて肘を逆間接に折り曲げられた。黒い少女は刀を地に落としてしまい、再び悲鳴を上げるが両足で何とか転倒を防ぎ踏ん張る。だが知らぬ間に刀が足元から姿を消していた。


『「闇に塗られし戦の象徴……、同胞に染まりし生ける証……。それは欲を叶える糧と成りうるーー」』


 反響する声が止み、それと同時に呼吸を阻害する鈍い痛みが意識へと伝ってきた。その痛みの方へ視線を向けると、胸に自分の刀が突き刺さっていた。

 黒い少女は原因を視認した途端、意識の炎が濃霧と共に風に吹き消されその場で倒れた。


「「「……」」」


 誠磨はもう何も言うまいといった具合に、言葉を挟まず静かにミユリを見守る。場面が切り替わり、気がつくと黒い少女は血に染まった白いベッドの上で横になっていた。すると横に立っていたメイドが慌てて部屋を出て国王を呼びに行った。


『「お前、何をしておったのだ!?」』


『「え……?」』


 部屋に入るなり国王は黒い少女に対して怒鳴り始めた。


『「あれだけ意気込んだ様子で物資を用意させて向かっていったと思いきや、墓所の前で自殺めいた損傷をしおって……恥を知れ!!」』


『「自殺……、あ」』


 黒い少女は自分の胸元を触ると、傷らしき凹凸は無くなっていた。右腕も出立前の包帯が巻かれた状態にまで回復している。


『「だが胸に刀が突き刺さった状態だというのに、普通に寝息を立てておったとは……何者だお前は」』


『「寝ていた……? アタシ寝ていたんですか?ーーあ、いやそれよりお姫様は!?」』


『「今も食事を続けておる、お前が呑気に寝ている間もずっとな。メイド達が羽交い締めにしようにも信じられんほどの腕力で振り払い、騎士達が止めようと割り込めば歯が折れんばかりに鎧に噛みついて恐ろしい形相で睨み付ける。まるでその……愛しい実の娘にこんなこと言いたくはないが……まるで飢えた獣のようなーー」』


 それを聞いた黒い少女は勢いよくベッドから飛び起きて、立て掛けられていた自分の刀を腰に据えて部屋を出る。そして白い少女のいるエントランス目指して、知らぬ内部構造の中を針にかかった魚のように本能のまま走り込んだ。すると国王がすぐに駆けつける程度の距離なので思いの外すぐに到達し、大きい咀嚼音が漂うエントランスへ足を踏み入れた。


『「姫様……っ!?」』


 白い少女は涙と汗を皿に垂らしながら両手で料理を頬張っている。テーブルには無数の空いた皿が積まれていて、辺りには疲労しきったメイド達が床に倒れている。

 恐る恐る近づいてゆくも、こちらの存在に気づいていない。そして白い少女の真横に立ってみると、まるで妊婦のように腹部が膨れ上がっていて今にも破裂しそうな勢いだった。


『「痛い……痛いよぉ……でもお腹すいたよぉ……」』


『「姫様……、どうしたらいい……怪我を負わされて気失って戻ってきただけで、結局アタシ何もーー」』


『“何をぼさっと突っ立っておるんじゃ戯け、本能のまま動けばよかろうが!”』


『「ッ!?」』


 苦悩する黒い少女の腰から、突如大人を帯びた女声が罵倒してきた。


「こ……」


「こいつかぁーー!!?」

「彼奴かぁーー!!?」


「んおっ!?」


 誠磨とミユリは同時に勢い余って叫んでしまい、そのシンクロ具合に繋益は怯んだ。


「(そうか……多分、あの時からミユリが喋ったのはひょっとして天使の力か何かで俺の脳から情報を抜き出したからなのか!? でもそれならミユリがこのゲームの内容を知らないのは不自然だ……と思う。こんな後で出てくるしかも人外の口調をトレースって……元ネタらしきモノは分かったが結局それ以外に分からない事が増えちまったな)」


『「本能? というかアタシの刀が喋った!?」』


『んむぐっ?』


 白い少女がようやく気がついて黒い少女の方へ顔を向ける。


『「ほら、ぐずぐずしておるが故にお前を見始めたぞ? はよ対策打たねばお前もあの腹ん中に納められるぞ?」』


『「じゃあどうしろっていうの!? 教えてよ! アタシ何も知らないんだって!!」』


『「じゃから本能のまま動けと言うておるじゃろう」』


『「だから本能って何!? 具体的に何したらいいのか教えてよ!!」』


『「……あなたも、おいしそうね……」』


 白い少女はヨダレを垂らしながら立とうとするが、腹の重みで椅子から離れられない。その様子を見ているうちに、黒い少女は内側からドアを叩くように鼓動が広がる。

 そして黒い少女は無意識に両腕を前に出して白い少女の肩を力一杯握りしめる。


『「い、いだっ……い……、何するのあなーーっ!?」』


 黒い少女は自分でも分からないうちに、白い少女の色んな味が付着した口に自身の口が覆い被さった。


『「んっ……んんっ……!」』


「「っ!?」」


 白い少女が離れようとするも黒い少女が後頭部に手を回してしっかりと固定する。そして白い少女の数回に渡る喉越しを聞いた途端、黒い少女は我に返り自分の口を後ろに引いて離れた。

 空いたままの白い少女の口からは真っ黒で禍々しい、まるで魔物そのもののようなエネルギー体がヨダレのように僅かに漏れ出ていた。白い少女は満足気な表情をして気を失い、黒い少女はそのまま抱き支えた。


『「姫様……」』


『“この日を境に、二人は互いの底知れぬ欲望を満たすため、互いに生ける糧として求め会う呪いの日々が始まった”』


 語り部のナレーションの後に暗転してセーブ画面に移行した。


「はいここでやめ~、続きは帰ってからだな」


「えぇ~! まだ続きやれるぞ妾は!!」


「いいや、もう昼だろうしここらで切り上げだ。誠磨、このUSBにセーブデータ移して渡すから、今度会った時に返してくれな」


「はい、ありがとうございます。にしても思ったより大丈夫でしたね……百合要素に関しては」


「だろう?」


「それまでの流れが長かったのもありますが、グロ要素や暴食シーンとかの衝撃が強くてやましい感情なんて一切沸いてこないといいますか……」


「まぁな~……」


「その“ゆり”というのは、女同士で接吻することなのか?」


「まぁそうだな~、それも一部ってところだな」


「ふーん」


「誠磨はそのシーンを見せたら混乱するんじゃないかって、記憶を思い出すのに良からぬ影響を与えないかって心配していたんだよな。な、誠磨?」


「は、はい……俺もやった筈なのに何故か全然覚えてなくて、色々と不安で止めに入ったのですが……こうして見るとそれよりもグロ要素の方が心配でしたね」


「確かになぁ~。んじゃミユリ嬢、コントローラーを貸してくれ。誠磨んとこで続きやれるようデータ移すから」


「うむ……」


「ういーーで、昼はどうするよ? 予定無いならここで食ってってもいいぞ、俺が作ってやるから」


「ほう、お主も飯を作れるのか?」


「あぁ、菓子ほどではないがそれなりに作れるぞ」


「ほぅ~」


「ありがとうございます、ではお言葉に甘えさせていただきます (正直今は帰ってすぐ昼作る気力が無いから、すごく助かる……。繋益さんはそれを察して……?)」


「うし、んじゃ精のつくもの作ってやるか!」


 その後、セーブデータを移し終えた繋益は肩を回しながら台所に移動して、冷蔵庫の中を確認し調理を始めた。




つづく

今回この前後編で書いた内容はミユリへの影響を考えてのものですが、いつかゲーム世界ではなくもう1つの物語として描いてゆきたいなと思います。


ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!

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