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Say!天缶!  作者: 信条
18/53

18缶目「らせんかんてん?」

今回から5週に渡り2話投稿していきます。

エブリスタに上がっている分まで追いついたら週1投稿になります



 想定よりかなり短い時間となった散歩を終えて、貸したゲームソフトを返却してもらえるとのことで繋益の部屋へ上がらせてもらった。


「お邪魔します」


「……邪魔するのじゃ」


「あいあい、手洗ってからそこのテーブルに座っててくれ、茶と菓子を用意するから」


「はい、ありがとうございます」


 繋益の後に続いて手洗いを済ませ、リビングのテーブルにミユリと横並びで座った。そしてミユリは周囲の内装をじっくり見回す。


「……物が多いな」


「っはっは、面白いだろう? どこ見てもフィギュアとかポスターとかずらっと飾ってあって情報量が多い」


 繋益の部屋は壁の殆どがゲームソフトやアニメのBlu-ray Boxに付いてくる特典のポスターやタペストリー(画鋲をポスターに直接打ち付けずに済むよう、上下に丸い筒状のプラスチックが付いていて上部の方に引っかけられる紐が付いている物)が綺麗に敷き詰まるよう飾られていて、フィギュアを飾る大きなガラスケースが隅に1台、その横にコミックスやBlu-rayパッケージ、ゲームソフトが陳列された棚が3台置かれている。


彼奴こやつの部屋とは大違いじゃ」


「……」


「まぁまぁ、自己満足で置いてるだけだし誠磨のところの方が程よく置いてあって過ごしやすいんじゃないか?」


「ふむ……確かにここは落ち着かぬな」


「こらミユリ!」


「っはっはっは、ミユリ嬢の言う通り来客はみんな落ち着かない様子だよ。誠磨以外はな」


「ふーん」


「はいはい、お待たせ~。螺旋寒天らせんかんてんのグラッセ添えだ」


「おぉー!!」


 繋益が長方形のプラスチックトレイに乗せて運んできたのは、通常より2周り大きいワイングラス2つ。その中には何層も傾けながら砂糖入りの牛乳とブラックコーヒーを交互に固めて作られた、螺旋状の寒天が器の半分ほど入っている。そしてその上には砂糖付けにしたイチゴやブルーベリーが透明なシロップでコーティングされて添えられている。

 スプーンを中に添えて二人の前に丁寧に置き、ゆっくりと二人の対面側に腰を下ろす。


「おぉ……これは何じゃ!?」


 この芸術さを意識したような造形を前に、ミユリは多いに興味を持ち始めて声に活力が戻った。


「これは寒天と言ってな、水とか牛乳とかに粉を入れて固めたゼリーだ。中々お洒落だろ? ほら食べてみな、旨いぞ」


「はい、いただきます!」


「いただくのじゃ!」


 二人は2~3回ほど口にし、表情が明るくなる。


「これ、おいしいです!」


「うむ!」


「良かった良かった、まぁ材料に特殊なものは使ってないから試作品として味は普通だがな。見た目に全振りだ」


「いやぁこの発想は浮かびませんでした、すごいです!」


「ありがとうよ、この間ミルフィーユを作ってる時に浮かんだんだ。多分ネットで似たものが沢山出回ってるだろうけどな。気になる女子にこれを作って食べさせてみるのも良いんじゃないか? もちろん、このままじゃ味が普通でガッカリされるだろうから自分なりに工夫を加えてな」


「工夫ですか、う~ん……」


「お? ツッコまないってことは気になる女子がいるのか!?」


「むぐっ!?」


「えっ? あっ! いや……」


「……」


「ほら、隣の女の子がお前をじーっと見ているぞ」


「み、見ておらぬわ!! あとこれ苦いところがあるぞ! 欠陥か!?」


「おいミユリ! 欠陥じゃないし失礼だぞ!?」


「むっ……苦いのに欠陥じゃないのか?」


「落ち着け誠磨、まぁ興奮させたの俺だけどもーーこの黒い方のはな、コーヒーと言って大人向けの苦~い飲み物なんだ」


「大人向けじゃと?」


「そうそう、慣れてる大人はこれを苦いけど旨いと感じるものなんだ」


「なら妾は大人でないと申すか?」


「いや、大人でも苦いの苦手な人は沢山しるし普通だ。安心していい、君は大人のお嬢さんだ」


「ふむ……お主いいやつじゃな、彼奴よりは気の利く奴じゃ」


「ミユリ!! 俺のことはともかく繋益さんにそんな言い方をするんじゃない!」


「まぁまぁ、それも個性の一つだろう。それにあまり怒ると反発して、むしろ聞かなくなるぞ? 一昨日のLINERでもそう言っただろう」


「す、すみません……」


「良いから、ほら二人でゆっくり食べな」


「はい……」


「フンッ」


 繋益は二人の空気を変えようと、二人の前で容器を持ったような手の形にして作り方を二人にジェスチャーして見せた。


「あぁそうそう、それの作り方なんだがな。こうやって、1層毎に器を傾けて固めてを繰り返して作ったんだ」


「ほう~」


「なるほど、やっぱそういう感じなんですね~」


「あぁ、1層1層を薄めにして10層だからそんなに時間掛かってないが、結構手間が掛かるから作る時は2~4層くらいでいいぞ」


「なるほど~」


「彼奴に作れるとは思えんがのぅ、すぐ怒るし不器用そうじゃから」


「いや確かに器用な方ではないが、怒ってるのはミユリのあまりに酷い悪態に対してだからな!?」


「フンッ、たかが怒った程度で妾が態度を改めるわけなかろうがセクハラ男めが」


「ん? セクハラ? おぉっと誠磨~、やっぱ出しちまったか~! まぁこれほどの美少女と一緒に過ごす上で無欲を貫くのは辛いよなぁ~無理もない!」


 繋益は声に高揚感が駄々漏れで少し左右の口角が吊り上がり、背筋を伸ばして腕を組んだ状態になり何度も頷く。


「何でそんな嬉しそうなんですか!! 違いますから! 何もしてませんから!!」


「いや昨日お前、妾が布団で寝ている横でこっち向いてーー」


「ふむふむ……」


「いや俺の布団だから!! 何度も言うがむしろ潜り込んだのお前の方で、こっちは寝起きでいきなり壁に打ち付けられたんだからな!? 俺は被害者だからな!?  というか納得しないでくださいよ繋益さん!!」


「うむ、攻めはミユリ嬢の方か~なるほどなぁ」


「だから違いますって!! 誤解を生む言い方はよしてください!」


「“せめ”とは何じゃ?」


「うん? あぁそれはなぁーー」


「ストップ! ストーーップ!! ミユリに悪影響を及ぼす発言はお控えください!」


「はいはい、すまんすまん」


「何じゃお前、気になるじゃろうが邪魔するでないわ!」


「いや後悔するだろうから止めてんだよ! ここで俺のガードレールを突っ切って、脱線しても俺は知らんからな!」


「まぁここは誠磨の方を素直に聞くといい、お嬢さんには綺麗なままでいてもらいたいからな俺も」


「いや今更露骨に自分の株を上げるような発言ししても……」


「綺麗……ふむ、良かろう。お主の意見を聞き入れてやろう」


「いやチョロいなおい! 上がっちゃったよ!! 何で俺の株ばっか下がるんだよ……」


「まぁまぁ、ほら食って元気出しな」


「はい……」


 二人のテンションの差に繋益が笑いながら眺め、ゆっくりと螺旋寒天が完食されていった。


「ごちそうさまでした!」


「ごちそうじゃった」


「うい、お粗末さん。良い光景が見られて俺も満足だ」


「ま、まぁ繋益さんがそう仰るなら……」


「さて、そろそろ貸してもらったゲームを返すとしよう」


「あ、はい。すみませんお願いします」


 繋益は立ち上がって容器をキッチンへ運び、シンクの中へ入れて水に浸した。そしてゲームのパッケージが並べられた棚へと向かい、そこから1つ手に取って座っていた場所に戻り、誠磨の前に“LiLi Princess of Night”と書かれたパッケージを丁重に置いた。


「うし、んじゃありがとさん。良い作品だったよ、メインとサブアカウントの両方で周回してコンプリートさせてもらった」


「ありがとうございます、ってマジですか!? スゴいすね……、お気に召していただいてこっちも嬉しいです。凡そ1年振りで貸したことも忘れていたので、内容思い出す為にも俺も一からプレイしようかなと思います。多分1周やって満足してやめてたと思いますし」


「そうか~、俺は自分の趣味にピッタリ当てはまって熱中していたが、好みが分かれる内容だからなぁ~。……あっ」


「ん? どうされました?」


「いやこれ、内容全く覚えてないのか?」


「えぇまぁ、シナリオはそこまでハッキリ覚えてないですね……。3Dアクションで面白かった覚えはありますが」


「……ミユリ嬢にはゲームさせているのか?」


「えぇ、DJ Mixって音ゲーだけ遊ばせてますね。一番簡単な難易度でまずコントローラーに慣れてもらおうかなと、俺が見ながら教えてるところです」


「ふむ、素晴らしい心掛けだな」


「ありがとうございます」


「ならくれぐれも! ミユリ嬢にこのゲームをさせている間は、極力注意して目を離すんじゃないぞ……? モニターとかゲーム機を壊されたくなかったらな」


「妾はそんな野蛮ではないぞ!」


「あぁすまんすまん、お嬢さんをそんな風に言ってるわけじゃない」


「ふむ……」


「(何で繋益さんの時はそんなすぐ大人しく引っ込むんだよ……)ーーえっと、これそんなにストレス溜まるゲームでしたっけ?」


「いや、俺は全然苦に感じなかったし良い難易度だったと思う。だが俺が言いたいのはそこじゃない、パッケージの裏面を見てみろ」


「裏面ですか?」


 誠磨は言われた通りパッケージを手に取り、裏面を確認する。するとその真ん中辺りに書かれた刺々しい字体のキャッチコピーに視線を向けた瞬間、誠磨の表情が凍りついた。ミユリは気になる様子でパッケージを覗き込むが、漢字が読めないので疑問符を浮かべたまま引っ込んだ。繋益は必死に左手で自分口を抑え、うつ向いて笑いを堪えている。

 そのキャッチコピーとは……


     “底無し欲で飢える姫を満たす為、彼女は魔物を喰らい糧となる”



 そう、このゲームは所謂いわゆるハクスラ3Dアクション百合・・ゲームである。



つづく

今回の螺旋寒天は、クッ〇パッドにあった二層の杏仁豆腐を見て思いつきました。

実際にここまで細かい層を作ったことはありませんが、試したい方は是非挑戦してみてください


では、次話は同時に上がっているのでお時間ある時にご覧ください

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