17缶目「三半規管?」
FPSとか綺麗なグラフィックのゲームを長くやるとだいたい酔ってしまう……、けどAnthem楽しい(
翌朝、昨日と同様またミユリがビニールに包まれたティッシュ箱3段を片手に掲げ、思い切り何度も頭部に叩きつけて強引に起こそうとする。
「おい! 起きんかこの戯けが!!」
「……っ……って! 痛っ! ちょストップストップ! ってあイテッ!?」
誠磨は両手を顔の前にガードを構えつつ、上体を起こそうとした途端に腰痛と背骨辺りに破裂音のような短い痛みが走る。
「いっつつ……」
「それは妾のせいではないぞ」
「そうだな、しかし布団2つ置くスペース無いからどの道買い足せんしどうしたもんか……ーーとりあえず今何時……お、5時か。いい具合の時間帯だな」
「フンッ、妾に感謝するんじゃな。どうせ昼過ぎまで寝ていたじゃろうに」
「いや流石に夜更かしせずに昼過ぎまで寝んのは無理だな……、顔は洗ったか?」
「んなものとうに済ましておるわ、はよ妾の飯用意せんか!」
「はいはい……、もう少し可愛く言ってくれないものか。そのうち俺の胃に穴が開いちまうぞ?」
誠磨はストレッチしながら立ち上がり、台所へ行って朝食を作り始める。
「穴が開くとどうなるんじゃ?」
「まぁそうだな……激痛で声も出せないくらいになって入院? 最悪の場合死ぬかもしれないらしいぞ」
「……ふーん」
ミユリの返答に若干テンポが遅れている気がして、ミユリの方を向くと彼女は少しうつ向いていて自身の胃の辺りに手を置いていた。
「まぁ変に性格を強要とかしないけどさ、そのままじゃ俺だけじゃなく関わる人全員がミユリに大して嫌な思いを抱いちまうんじゃないかな」
「……」
「それが本来の性格なのか分からないし、その性格が記憶を刺激するヒントになるかもしれないから難しいよなーーっと、できたぞ」
誠磨は焼きウインナーと半熟の目玉焼きを乗せた白いプレート、そして白菜の浅漬けが入った小さい陶器と木製お椀に入った白米を一人で順番に持ってきた。
「いただきまーす」
「……いただきます」
「まぁそんな気を落とすなって、そのヒントを探しに行くためにこの後行くんだろ?」
「うるさい、別に気など落としておらぬ」
「悪い悪い、んで一応昨日のあの後全然喋らなかった時から色々考えてたんだけどな、やっぱ人通りの少ない早朝に公園とか、その辺をぶらぶらと散歩しているのが一番落ち着いて考えやすいと思うんだよな~」
「それで空っぽの状態から、少しは記憶が呼び覚ませるのか?」
「それは分からん、ただ朝の方が割かし頭の回転が良いと思うし、外で何かに触れて刺激を覚えれば何か掴めるんじゃないかなと」
「ふむ、お前にしては気の利く提案じゃな」
「なら等価交換として気の利く返答をしてもらいたかったな」
「フンッ、うるさい! セクハラ野郎に気なぞ利かせるか戯けッ!」
「セクハラて……まだ言っているのか」
「お前は分かっておらんな? セクハラの傷が一生残るもんがろうが!」
「う、うぅん……(この子記憶無いっつう割には結構色々と喋ってるんだよな、特に罵声の時はやたらと何か引き出しがあるように抗弁を垂らしてくる。それに怒鳴ってくる度に何か頭のどこかがもやもやするんだが……う~ん)」
「聞いておるのか!?」
「あ、あぁ聞いてる聞いてる! 一応昨日から色々と気を付けているつもりだし、ミユリに対してそういう扱いはしてないだろ?」
「……」
罵声を浴びせる合間に欠かさずフォークでの食を進めていたミユリは、考え事ばかりでペースの鈍い誠磨より早く食事を済ませた。
「遅いぞお前、はよ食して支度せぬか!」
「分かった分かった、あとごちそうさまは?」
「……ごっさまー!」
「あい、お粗末様っと。そこに着替え置いてあるから、歯磨いて着替えといてくれ。洗面所でな」
「うむ、覗くでないぞ? 覗いたらーー」
「覗かねぇって! いいから先に済ませてくれ、俺も急ぐから!」
そうして二人は支度を済ませ、手ぶらで近所の公園へと向かった。
「ーー6時前、多少は暑いがまぁ昨日の昼過ぎよりは平気だろ?」
外は少し明るみを帯びていて、街灯が無くとも容易に辺りを見回せる。そして田舎寄りの町並みなので人の通りも少なく、ミユリを見つめる人の数が減って歩きやすい状況にある。
「まぁのう、で、公園で何するんじゃ?」
「あぁ、それなりに大きい公園だから軽く外周しながら虫とか鳥を間近で眺めるとか、遊具で遊ぶとかかな」
「ふーん」
数分ほど軽く会話を挟んでいるうちに、中央に大きな池が溜まっていて外周に散歩コースや遊具広場が設置されたそれなりに大きい規模の公園へ到着した。
「ほう……」
「大きいだろう? 田舎寄りの町だからこの時間はここもそんなに人がいないし、これなら人目を気にせずゆっくりと羽を伸ばせるだろう?ーーあ、本当に背中から出すなよっ!?」
「あぁ? 出るわけないじゃろうが、何を言うておるんじゃお前は」
「いやまぁ……うん (やっぱ羽生えてた事も覚えてないか~……)」
「まだ寝ぼけておるなら、首がネジ切れるくらいの強烈ビンタを喰らわせてやってもよいが?」
「すみません、勘弁してください死んでしまいます」
誠磨はミユリに向かって両手を合わせ、情けない声で詫びを告げながら上体を前に傾ける。
「いや、流石にそこまで怯える必要無いじゃろうが……妾をなんじゃと思っとるんじゃ!?」
「あ、あぁ悪い……」
彼女にそことなく自覚を持たせようと何度かこうして誠磨なりにアピールをしているのだが、そのアピールが下手な冗談としか思えないせいでやはり伝わらない。ミユリが現在の口調になってからはたまに馬鹿力は発揮するのだが、普段人と対面する時にはそれが発揮しないので自分のものだと認識しづらい。
口頭だけじゃ伝わらず、ましてや口下手な誠磨では余計に疑念が強まるだけなので下手に自分の受けたことを話すわけにはいかない。
こうなれば自分の手で改めて認識してもらうしかない、そう思って誠磨はそれに見合う遊具を探すべく辺りを見回す。
「(器具を壊さず、そして危害を与えずに何か証明できるものは……)」
「おーい、これどうやって使うんじゃ~?」
気づけばミユリの声は目の前ではなく、数メートル先から聞こえてきた。声のする方へ視線を向けると、そこで設置されている下にバネの付いた馬のような乗り物にミユリは股がっていた。
「っていつの間に!? はぁ……ったく、その手を離すなよ~? そのまま前後に大きく揺れてみな~」
手を前にしてミユリに遊び方を口頭で伝えながら、ミユリの方へと向かっていった。
「こうか~? う、うぉおうぉっ!?」
「揺れてる間は手を離すなよ? 落ちたら怪我するからな」
「うぉおぉぉおっ!? あ、あっ、……ハッ!?」
誠磨の言葉があまり耳に届かぬ様子で揺れる遊具に夢中になり、暫く前後に揺さぶっていると突如ミユリの表情に僅かな変化が見られた。
「うん!? 何か分かったか!? (おいおいマジかよ、そんな漫画みたいなショック療法で……)」
「うぉえぇぇ……気持ち悪い……」
「えぇっ!?」
揺れる遊具はミユリの反動の供給が止まり、すぐに静止状態へ戻った。そして頭を抑えながら滑り落ちるように傾き、誠磨は慌ててミユリを抱き抱える。
「大丈夫か!?」
「酔ったぁ~気持ち悪いぃ~……」
「えぇ……、ちょっと三半規管弱すぎないか?」
「うるさい黙れっ!……うぇぇ……」
「はいはい悪かった、んじゃあそこのベンチで一旦休もう。持ち上げるぞ?」
「早ようせぬか……あとセクハラしたらーー」
「しないしない、ほら俺の首に両腕を回して、そうそう。んじゃ持ち上げるぞ」
誠磨はミユリの膝裏と背中に腕を通して抱き抱え、すぐ近くの人のいないベンチに運んで座らせる。
「ゆっくりと景色を見ながら落ち着いて~、はい深呼吸~吸って~?」
「すぅ~……」
「吐いて~」
「はぁ~……」
「どうだ、少しは楽になったか?」
「多少はの~……」
「そっか~、まぁこのまま暫くゆっくり座ってようかーーにしても、まさかミユリにこんな弱点があったとはなぁ……」
「……弱点じゃと?」
「あぁいや、別に悪い意味で言ったんじゃない、特徴だよ特徴。これは缶詰の中に居た影響なのか、それとも元からそういう体質なのか……何にせよ一応はヒントみたいなのが1つ得られたな」
「……あまり有益とは思えんが」
「有益か無益かは一先ず置いておこう、今は少しでも情報を引き出すことが大事だしな。かと言ってこんな身体張るようなことは、自分からしなくていいからな? 俺もさせるつもりないし」
「フンッ……死ななければ安いものじゃ……うっ」
「だ~か~ら、そうならなくて良いように別の方法を探して、一緒に見つけていこうって言ってるんだよ」
「……うむ」
「よし、じゃあ休憩して治まったら池の周りを一周して帰るか」
「……もう帰る」
「……はぁ!? いやいやまだここに来てから何も、というか入り口近くで酔って休憩してるだけなんだが……」
「……帰る」
「はぁ……分かったよ、帰って横になるのな。んじゃ行けそうになったら俺に言ってくれ」
「うむ……」
「(早朝に来たってのに何とも短い散歩だな~、まぁ仕方ないか)」
二人はそれぞれ別の意味合いでため息をつく。ミユリは前に少し屈みながら辺りの樹木や池を眺め、誠磨は背もたれの上に片腕を乗せて時々ミユリの顔色を伺う。
するとそこへ藍色の作務衣を着た体格の良い男が、入り口から歩いてくるのが見えた。
「あ、繋益さん!」
「おぉ誠磨か、珍しいな~こんな朝早くから」
繋益は誠磨達の座るベンチに近づいて、数歩手前で立ち止まり両腕の袖に手を通す。
「おはようさん」
「おはようございます。ほらミユリ、うちの家の大家さん、あのマンションの持ち主で管理人さんだ」
「管理人……?」
「おはよう、嬢ちゃん。気分悪そうだが大丈夫かな?」
繋益は数歩近づいて、ミユリの前でゆっくりとしゃがみ込む。するとミユリは誠磨の服の裾を引っ張って、少し隠れるような仕草をする。
「……」
「ほらミユリ、怖くないぞ。この人は俺の友人で、いつも俺がお世話になってる人だ」
「……」
「っははは、まぁ俺は昔っから子どもに嫌われるタイプだからなぁ……。無理もない」
「……妾は子どもなどではない」
「ん? あぁすまない、綺麗な“お嬢さん”だーー誠磨、さっきこの子のことをミユリと呼んでいたな、この子の本名が分かったのか?」
「あぁいえ、その……どうしても思い出せないみたいなので、一旦俺が名付けました」
「ほう~、なるほどなぁ。良いネーミングセンスだ」
「ありがとうございます」
「ではミユリ嬢と呼ばせてもらおう」
「あ、はい、改めてよろしくお願いします (ミユリ“嬢”か……確かに子ども扱いが嫌とは言っていたけど、“ちゃん”付けを避けたにしてもそれはそれでランクアップしすぎなような……)」
「さて、んじゃ俺の番だな。俺の名前は繋益昇砥、そこのお兄さんの友達だ。繋益さんと呼んでくれていいぞ」
「……」
「す、すみません! さっきそこの遊具で遊んでて、酔って気分が悪くなってるんです……」
「っはっはっは、そうか~大変だなぁ。あれ結構脳を揺すられてキツいもんなぁ~、俺もガキの頃よくフラフラになってたわ。おじさんと一緒だな~ミユリ嬢~」
「……う、うるさい!」
「あらま、一応フレンドリーに接してるつもりなんだがなぁ~、初対面で嫌がられてしまったようだ」
「い、いえ! 俺にはいつもこんな感じというか、もっとキツい仕打ちをーーイデッ!?」
ミユリは誠磨の足先を力込めて踏みつけた。
「いっつつ~……」
「……あぁ確かにそうみたいだな、すまん誠磨」
「い、いえ大丈夫です! むしろ俺の方からミユリの非礼の数々を詫びたいところで……」
「いやそんなのはいいんだよ、気にするな。あぁそうそう、お嬢ちゃんが暫くお前の部屋に住むことになっただろう? だから出費が大変そうだと思って、お前んところの家賃を1万円下げといたから」
「……えっ!!? マジですか!?」
「あぁ、一人分食費とか色々増えて大変だろう? 長い付き合いだしこのくらいは免除してやるさ、俺も鬼じゃないからな」
「……あ、ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
誠磨は即座に立ち上がり、キレのある一礼を何度も繋益に向けた。周りで散歩している年配の数人が誠磨達の方へ視線を向ける。
「いいっていいって、ほら周りの人が見てるだろ?」
「あ、す、すみません……」
「但し、嬢ちゃんのいる間だけな? ミユリ嬢がいなくなったら、家賃は元通りだ」
「はい! すみません本当ご支援いただいて……」
「まぁまぁ、俺が勝手にやったことだしそこまで気にしなくていい。あともうひとつ」
「はい、なんでしょうか?」
「お前に貸してもらったあのゲーム、俺好み過ぎてあの後いつでも返せるように自分用のを買ったんだ」
「ま、マジですか!?」
「あぁ、Miturinで割高だったが初回限定版のBoxを買った。悔いはない。だから時間あったら返したいんだが」
「はい、ではミユリも帰りたがってるので、せっかくですし寄らせてもらっていいですか?」
「あぁもちろん、旨い菓子作ってあるから食べに来な。ミユリ嬢は大丈夫かな?」
「……うむ」
「そうか、甘い物食ったらすぐ気分が良くなる。立てるかな?」
繋益は立ち上がって自分の膝と腰を軽く叩いてから、ミユリに中腰で手を差しのべる。しかしその手をミユリが軽く跳ね退ける。
「よい、自分で立てる」
「そうかそうか、無理するなよ?」
「……フンッ」
体調が回復したミユリは一人で立ち上がり、二人の間を通って歩いていってしまう。
「本当にすみません……俺に対してもいつもあんな感じで、注意しても全く聞かなくて……」
「まぁ年頃の女の子というのは、男の子より複雑で難しいところがあるからなぁ~。俺は別にカッとはならないから心配するな、いちいち気にしてたら身がもたないだろ?」
「ホッッントすみません……、おーいミユリぃー! 勝手に先行くんじゃない、危ないだろー!?」
誠磨がミユリに駆け足で追いかけ、横に並んで身ぶり手振りで注意している様子を繋益は少し眺める。
「やれやれ、誠磨も大変だなぁ~。まぁこういうことは、大人の先輩がしっかりサポートしてやらないとなーーおーい、待ってくれ~。おじさんの歩行速度に合わせてくれ若者達よ~」
「いや繋益さんまだ俺と同じ二十代でしょう!? というか周りのご年配方がこっち見てますから、そういうのやめてください!」
「っはっはっは、すまんすまん! で、さっきのゲームの話なんだが~」
「あぁ、はい! いやぁまさかご自分用の初回限定Boxを買うまで気に入っていただけるとは……勧めた側として感涙極まりますよ!」
こうして散歩の殆どが休憩に終わり、ミユリの安静と繋益の用事で早々に自宅のマンションへと帰宅するのであった。
つづく
幼少期、馬みたいな乗り物にバネがついた遊具で遊んだことがあります。あの頃は頭グラグラしても楽しかったけど、今やったら酔ってフラフラになりそう……。(流石に年齢的にもしませんが)
ではまた次回、来週の金曜日をお楽しみに!




