13缶目「異国からの来訪?」
最近セブンで出たファンタのヨーグルバナナ味がとても美味しくて、執筆のお供にしてます
「……ご、ごめんなさい!!」
ミユリの機嫌を直そうと、休憩がてら入った喫茶店にて注文を待っていた。その最に先ほど服屋で遭遇したピッグテール少女に酷似したポニーテール少女が、彼らの前に駆け寄って店内に響くほどの大声で突如謝罪を告げたのであった。
「え、……あ、え?」
「あ、あら? ど、どうしたの急に?」
「……何じゃお前今更」
「そ、その……うちの姉が……えっと……」
「姉? ということは……妹さん!!?」
誠磨が驚愕のあまりに勢いで大声を発してしまい、ホールスタッフが来てしまった。
「あ、あの~、大変恐縮ではございますがーー」
「あ、すみません! 気を付けます!ーーえっと、じゃあこっちに座ってもらえます? 俺の隣で申し訳ないですけど」
「い、いえ! し、失礼致します!」
ポニーテール少女は誠磨の隣の席に静かに座り、萎縮した様子でうつむく。
「えっと……つかぬことをお伺い致しますが、さっき“うちの姉が”と言ってましたのは……」
「……はい、申し遅れました私、先ほどの赤リボンを身に付けた女性の妹、スピルと申します」
「あ、これはご丁寧にどうも……俺は甘巻誠磨です。そして向かい側に座っているのは粕寺さんと、ミユリです」
誠磨は向かい側の二人を順に手で差し示し、粕寺は軽く会釈を、ミユリは一瞬ポニーテール少女の顔を伺ってから目を逸らした。
「よろしくお願いします……」
「こちらこそ。あと先ほどはごめんなさい、あまりに似ていたので思わず悪態をついてしまって……」
「い、いえ大丈夫です! 髪型以外殆ど似ているみたいなので、よく見間違われるんです。それにこちらが訪ねた側なので、髪型変えた後に追い掛けられたと思われても不思議じゃありませんし……」
「そ、そうなのね……。とりあえず、先ほどの非礼を詫びて何か奢りたいので頼んでいただけますか?」
「い、いえそんな大丈夫ですから!」
「わざわざ暑い中謝りに来てくれたことですし、それも兼ねて遠慮なさらずに」
「でしたら俺が勘定持ちますよ、さっきの支払いのお礼として全員分ーー」
「甘巻君、今後の生活ことを考えるとあまり出費しない方がいいわよ。ここも私が持つから、ちゃんと財布の紐を閉めておきなさい。分かった?」
「は、はい……すみません。ではトッピングとか色々頼んでしまったのでせめて割り勘でお願いします!」
見栄を張って奢りに前進した以上、それを付き添いの女性、それも歳上の人に奢ってもらう流れに持っていかれるのはこれまた男としての恥の一環になってしまう。只でさえ先ほどポニーテール少女に大声で謝罪を向けられたせいで、近くの席に座る客達から時折見られる状況に至ったというのに、服屋を出て数分後にまた赤っ恥をかかされるのは御免だ。そう思いを抱いて誠磨はカッコ悪くも、浅い傷と割り記って必死に食いつく。
「……分かった、じゃあこの子の分と一緒に割り勘ね」
「はい、ありがとうございます」
奢りから割り勘になったことに礼を言うのもおかしな話だが、誠磨の心境に粕寺も凡その察しがついてツッコミを入れるのを止めた。
「さて、スピルさんは何か頼みたいもの決まったかしら?」
「えっと……、ではコーヒーのブラックでお願いします」
「はーい、他には? デザートとかも一緒に頼んでいいわよ、私たちも頼んでるし」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「そう、じゃあボタン押すわね」
ピンポーン♪
「はーい、ただいまお伺いしまーす」
その後、スタッフが注文を取りに来て誠磨が注文を述べてゆき、メモ取ったスタッフが一礼してキッチンへと戻っていった。
「(にしてもミユリ、全くと言っていいほど口を開かなくなったな……。まぁさっきまでの律儀なやり取りはミユリにとってはつまらない会話だっただろうけど、今朝までの何かしら欲を訴えるような発言をしないってのはやはり違和感があるな)」
「ミユリちゃん、そろそろ元気出してもらえない? 叩いたのは本当にごめん……だからーー」
「その事は別にどうだってよい、それよりお主らが呑気に話しておる間も妾は、自分の記憶を必死に考えて探しておるのじゃ。邪魔するでないわ」
「ご、ごめん……」
「おいミユリ、そんな言い方はないだろ」
「フンッ、役立たずが口を聞くでないわ」
その言葉を聞いた途端、綱渡りのように堪えていた負の感情が大きく揺さぶられた。前方も下も見えない中で延々と渡り歩いてきた緊迫感が、背後から不意に突き飛ばされて落ちていくような感覚が前進を駆け巡る。そして、一瞬だけ意識が真っ白に塗りつぶされたあと、気づけば自分の表の態度が一変していた。
「……はぁ?」
「……」
「あ、甘巻君、抑えて! こらミユリちゃん、そんなこと言っちゃダメでーー」
粕寺の言葉を遮るように、そして周囲に気を引かれないように控えめの力で拳を縦にしてテーブルを叩いた。
「あのな、お前その腐った態度もいい加減にしろよ。俺らがどれだけお前のその悪態を見過ごしてやってると思ってんだ? 何様だお前?」
「フンッ、別に頼んでなどおらんわ」
「はぁ……お前バカか? 悪態つく奴がわざわざ自分の態度を見過ごすよう頼む訳ねぇだろが。こっちはな、記憶が抜けて大変な目にあっている心境を少しでも察するように、なるべく嫌な思いをしないようにと声をかけてんだよ」
「甘巻君、もうやめて落ち着いて……」
「そ、そうです一旦落ち着いてーー」
「多少は小バカにされてもいいよ? そういうやり取りも冗談の一環として普通にあるものだがらな。だがさっきあんだけ恥かいてでもお前を庇ってやろうと必死に対応してたのに、役立たず呼ばわりは我慢ならねぇよなぁ?」
「フンッ、結果してから言えば別に間違っておらんじゃろう。ちゃんと役に立っておれば彼奴が妾に手をかけることも無かったじゃろうし、あの場でお前が言っていたことの1つでも実行されたか? 呼ばれた経緯を己で察しろ能無しが!」
「お前っ……!!」
逆上を煽るような発言の数々で完全に血が上った誠磨は、もはや周りを気にして音を立てないような自制が出来なくなり、その場から立ち上がろうとする。
「や、やめてください!」
その瞬間、隣で座っていたスピルが必死に両手で誠磨の右腕を掴んで食い止めた。
「ごめんなさい……うちの姉が、私が悪いんです……ごめんなさい……ごめんなさい」
スピルが瞳に水面を浮かべ、光に反射する瞬間を見てしまった誠磨は血の気が急速に引いていって平常を取り戻した。
「……すみません」
そう静かに告げ誠磨はゆっくりと椅子に座る。そして粕寺がミユリの両肩に手を置き、向こう側の席も落ち着くムードへ移ろうとしていた。
「すみません、不快な思いをさせてしまって……。こちらにも色々と事情がありまして」
「い、いえその……」
「お待たせいたしました~、こちら宇治金時アイスの、トッピング~メープルソルトジャラアイスでございま~す!」
「はーい、こちらとそちらにお願いしま~す」
「かしこまりました~ーーではごゆっくりどうぞ~」
粕寺の指す方に店員がそれぞれ注文された物を置いて、一礼して去っていった。
「では食べながら話を戻しましょうか」
「こ、これ多くない……?」
粕寺が若干引いているそのアイスとは、下からまずほろ甘く細かいカット分けされたジャラアイス、その上に深緑と茶色のマーブルな宇治金時アイスの山、そしてその上からメープルソルトという塩っ気が少し加わったぺープルシロップがふんだんにかけられていて、仕上げにスノーシュガーと砕けたチョコバタークッキーが上から散りばめられ、それが何人前だと言わんばかりの量でそびえ立っているまさに山である。
「いや意外とイケますよ、それにミユリはこう見えて大食いなので一緒に食べると丁度いいかもしれません」
「そ、そう、それなら良かったわ」
「ではこちらもーーあ、いや何でもありません」
「?」
「(危ねぇ……何サラッと誘おうしてんだ俺は!? 初見の女の子といきなりアイスつつくとか、そんな陽気は持ち合わせてないし腹壊してたっつってただろ!! やっぱ昨日から俺、何か変だな……)ーーコホンッ、えぇとスピルさんは先ほどお姉さんの近くにはいらっしゃらなかったように見えましたが、どちらにいらっしゃったのでしょうか?」
「はい、私その……」
言い始めたと同時に周囲の様子を目で伺い、より潜めたトーンにまで声量を落として続けた。
「その時私は、不甲斐なくもお腹を下しておりまして……お手洗いに行っておりました」
「な、なるほど、それで戻ってきて事情を把握した直後に、俺たちを追ってここまで来ていただいたということですね。ではお姉さんの方は?」
「多分、今頃は会計を済ませて別のお店に移動したと思います」
「そうですか……」
別の店舗に引き続き買い物へ向かったということは、このあと日用品を買いに向かおうと3人で移動した際にまた遭遇する可能性がある。流石にコンビニから続いて3件目にまで同じ店舗に同じタイミングで、それも赤の他人と出くわすなど早々無いことかもしれない。だが、こうして妹の方がわざわざこちらに向かってくる程の、少なくとも今日という日にはそういった因果が働いているかもしれないと誠磨は考える。
「粕寺さん、今日このあとの買い出しは一旦中止して、明日にしませんか? 俺の休日は明日まであるので」
「別に日程まで避けなくても大丈夫だと思うわよ? さっきのことがあった直後なら、寧ろお互いに目があっても自然と遠ざかると思うわ。それに妹さんの前でそんな避ける話はやめましょ、私たちにも非があるんだから」
「はい、す、すみません……」
「んじゃ、長々と湿っぽい話はもうやめましょ」
「そうですね」
「ミユリちゃんも、一旦気持ちをリセットしてこれ一緒に食べよ? ほら、あーん」
「……自分で食うわ」
「そっか、んじゃ一緒につつきましょ」
「……うむ」
ようやくこの場の輪に再び加入したミユリは、そびえ立つ山を吸い込むように崩してはどんどん口の中へと運んでいく。
「ねぇ貴女、もし良かったら私とLINER交換しない? これも縁と思ってせっかくだから色々お話してみたいわ」
「あ、は、はい是非! お願いします!」
「ありがと、甘巻君とも交換してみたら? 色々あって今は少しテンパったりしてるけど、元は気優しくて良い人なのよ」
「あ、はは……まぁ優しいかはともかく、普段は本当に普通の人なのでよろしければ、はい」
多少キョドりながら、泣かせてしまった罪悪感でスピルの方に顔を向けられず淡々と目の前のアイスを口に運ぶ。
「ありがとうございます、私この地に来たばかりで友達とかいなくて……」
「そうなんだ、じゃあ私たちがこの地での最初の友達ね。よろしくねスピルちゃん」
「はい、よろしくお願いします!」
「スピルちゃんって名前からして海外から来た子?」
「えっと~、まぁそんな感じです」
「ハーフとか?」
「えっと~、そうですね。そんな感じです」
二人はスピルの受け答えにぎこちなさが混ざっているように聞こえて、その手の話はあまりしない方が良さそうだと判断する。
「のぅ~、そろそろ追加頼んでもよいか~? 全然足らんのじゃが~」
「昼食わなかったからだろう、仕方ない。まだこっち半分あるからこれ食いな、その代わり夕飯はしっかり食うんだぞ?」
「うむ、よかろう」
「さてスピルちゃん、このあとお姉さんと合流するの?」
「えっと~、今はまだ苛立ってそうですし、私が皆さんのところ謝罪しに行くと言ったっきり既読スルーされてますので、合流はしないですね多分」
「じゃあこのあと一緒に買い物に行かない? そこでお姉さんと会ったらその子とも一緒に回りましょ、スピルちゃんがいるなら大丈夫だと思うし」
「は、はい! 是非ご一緒させてください! 姉さんの方は今度こそ私が何とかしますので」
そうして各々が器を空にした後、スピルが同行のもとミユリの日用品を揃えに雑貨屋へと向かった。
つづく
ジャラアイスについては前に何処かで何かと一緒に食べたような、曖昧な食感を頼りにオリジナルでイメージした空想物です。
金髪ポニテ眼鏡って素晴らしいですよね
次回また来週の金曜日に更新します、では