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Say!天缶!  作者: 信条
12/53

12缶目「二卵性?」

Q.前回からの服屋さんで、モチーフとなっているお店は何処でしょうか?


正解は後書きで!

 誠磨は店内でミユリともう一人の騒がしい声を聞き付けて、その声の元へと小走りで向かっていったところ、コンビニで会った金髪のピッグテール少女と遭遇した。


「あ、アンタ……」


「君はさっきコンビニにいた……」


「何じゃお前、知り合いか!?」


 ミユリとピッグテール少女は1着のデコレーションTシャツの両端を引っ張り合っていた。そのデコレーションTシャツとは、白い無地Tシャツの真ん中に何とも言えないどこかのご当地キャラのようなものが印字されている。

 デフォルメ調なジト目の人魚の頭に土鍋が付いていて、その鍋の中でマグロの頭が煮込まれている。そのマグロの目にはスプーンがくり貫こうか貫かまいかと血迷ったように突き刺さっていて、人魚の手にはマグロの切られた尻尾の方を持っているという、何を思ってデザインしたのか分からない謎のキャラクターが描かれている。


「(何だよこれ、ミユリはこんなのが欲しくて争ってるのか……? つうか、そう考えると相手側もヤバくないか!? ミユリより一回り年上そうな見た目をしているが……今時の少女のセンスが分からんな。この子らに限った話かもしれんが)」


 そう少し怯みながら状況を頭で確認している間も、粕寺が周囲の客を見ながらおろおろと止めに入っている。


「甘巻君! 見てないで止めて!」


「あ、す、すみません!」


 呼び掛けにより考察から我に返った誠磨は、真っ先にミユリの方へと駆け寄り彼女の両手を持って破れないようにと一先ず少しだけ前へと力を加えた。


「み、ミユリ! 一旦離すんだ! このままじゃ破れるぞ!?」


「嫌じゃ!! これ一個しかなかったんじゃ!!」


「んじゃうちで作ってやるからさ、な? とりあえずこれと同じ絵のやつを調べてみるから、一旦落ち着いて手を離してくれないか?」


「嫌じゃぁああ!!」


「はぁ……仕方ないーーすみません、そちらで一度手を離していただけませんか? 後で同じものをこちらで探すなりしてお渡ししますので」


「はぁ? 何でアタシが離さなきゃいけないのよ、アタシが先に手に取ったのに。 そっちの子がいきなり引っ張ってきたんだからそっちが離しなさいよ!」


「……えっとぉ……そうなのか? ミユリ」


「違う!! 妾が先だったんじゃ!!」


「(……これは同時に手が届いたパターンか? また厄介な状況になったなぁ、よりによってさっきのヤバそうな子が相手とは……)ーーあのぉ……申し訳ございません、こちらの教育が行き届いていなくて……。これ以上他のお客さんにご迷惑かけるわけにもいきませんので、何とかここは一度手を離していただけませんか?」


「そしたらその子が取っていっちゃうじゃない! 子ども躾られないからって他人に譲歩を求めないでよね!」


 数メートル先の陳列棚の裏にいる客達が、あちらからこちらからと誠磨達に聞こえるくらいの陰口を叩き始めて店内の雰囲気は悪化していく。必死に引っ張り合っている二人には届いていないが、それを止めようと呼び掛けている方の二人の胸には直に突き刺さる。


「(ヤバイヤバイ……周りの態度も段々辛辣になってきた、クソッ! こいつ見た目はそれなりの年頃っぽいが、中身は全然大人じゃないな。対応出来ていないこっちも悪いが、ここは一時的にでも場を譲って融通の聞く対応を取ってくれてもいいだろ……)」


 何度か怒りを堪えて相手の出方に期待し問いかけたものの、その全てを跳ね除けて譲ろうとしない相手にはもはや鎮静化の期待は出来ない。しかし、このままミユリに呼び掛けても逆上を煽って状況を悪化させるだけである。


「(このまま最悪の場合、もうすぐ店員さんが来て俺らが出禁になりかねんな……ーーならここは乗っかるか賭けだが、少しだけ二人のベクトルを傾けてみるか)」


 周りから店員を呼ぶ声が徐々に聞こえてきて、誠磨の心拍数がより一層跳ね上がる。ミユリが入店直後まで普通にやり取りしていた粕寺の声にすら、この数分間全く耳を貸さない状況。

 そんな中、いかにして二人の意識を少しだけ違う方向へ誘導し、そして一時的にでも騒ぎを止められるかを考えた結果、誠磨は羞恥を捨てて二人の間に立ち、二人に負けない声量で一声を挙げた。


「……二人ともぉおぉぉおっ!?」


 普段出さない大声を久々に引き出したせいで、語尾が裏返って結局赤っ恥をかいてしまった。だが、そんな恥じらいもいざ知らずミユリとピッグテール少女は無言で誠磨の方へ鋭い視線を向けた。粕寺は誠磨の裏返った大声に怯んで一歩後退する。そして他の客達からの白い目線がミユリ達から誠磨へと一声に移り変わる。


「……は、張り合う前に、何でこのTシャツが欲しいと思ったか……その、聞かせてくれないか? (もう嫌、帰りたい……。気失いそう、いやむしろ失いたい)」


「はぁ? 何でアンタなんかにいちいち言わなきゃいけないのよ、それより早くその子の手を離させなさーー」


「ま、まぁまぁ! 貴女の熱意が伝われば、もう俺がそちらの分のお代出しますので、一旦落ち着いて静かな声でアピールしてください! お願いします!」


 誠磨は頭を下げ、支払いを約束する金釣り作戦に転じた。出禁にされるよりはマシだと思い一着分、あるいは会計全額請求されそうだが高い店ではないからと自分に言い聞かせる。


「アピール? はぁ? ……つうか、たかが一着で釣れると思ってんの? アンタ舐めてんの?」


 彼女から浴びせられる疑問符の棘が誠磨の心臓に深く突き刺さり、そのままの姿勢でマネキンのように固まる。作戦は結局相手の問いに答える前進も、この場から会計もせず一目散に逃げる後退も許されぬ状況へと悪化して自分の首を閉める形となった。


「あの~、私達だけが悪くてこの状況になったわけではないですし、お互いに手を離さないからこうなったんですよね? うちの子はまだそこまで寛容を養える年頃ではないですし、一回り大きいあなたが少しの間だけでも許容していたらここまで周りに迷惑をかけることもなかったと思いますよ」


「はぁ? 何急に淡々と喋りだしてんの? ウザいんだけど。 彼氏が思考停止した途端に乗り出す女とかないわ~……」


「いや彼氏じゃなくてーーいやもうそれは置いといて、はぁ……ゴメンねミユリちゃん」


 そうミユリに呟いた途端、粕寺はミユリの外側の手首に軽く手刀を入れた。その衝撃でそこまで力を込められてなくとも、不意を突かれたことにより握っていた手が離れてしまった。


「いった……何するんじゃバカ者!!」


「もう行きましょ」


 そう一言だけ冷めた声色でミユリに告げる。そして誠磨の肩を叩いて意識を呼び戻し、誠磨がミユリを引っ張りながら粕寺と一緒に周りの客へ謝罪しながらその場を離れて会計に向かった。


「嫌じゃああああ!!」


「すみません、ご迷惑おかけして本当にすみませんでした……」


「大変ご迷惑おかけいたしました、本当にすみません……」


 そして他の客達の何人かはその場に残ったピッグテール少女の方へと視線を向けた。


「……何よ、何か文句あんの!?ーーフンッ!」


 ピッグテール少女は客達の視線から逸れるように別のコーナーへと移っていった。そして3人は会計に到着し、粕寺がレジにカゴを置いて誠磨が財布を取り出す。女性店員が先程までの騒ぎが無かった事のように笑顔で一礼する。


「ありがとうございます、お会計失礼致します」


「いいわよ甘巻君出さなくて、ここは私が出すから」


「え、いやでも……」


「いいから、甘巻君は他の時に、ね」


「分かりました……お願いしますーー店員さんすみません、先程まで大変長らくご迷惑おかけしてしまって」


「い、いえ……対応に向かえなかった私達の責任でもありますので、どうかお気になさらずに……」


「すみません……」


 そうした湿ったトーンでの会話をする頃には、ミユリも騒ぐのをやめて一切口を開かなくなった。


「(何なんだよこれ、買い物初っぱなからこんなのってないだろ……)」


 店内の騒動から支払いまで、何もかも自分の対応が後手に回り赤っ恥をかくことばかりだ。それ以上に、周りの嫌な視線を浴びながら猛暑の中を一緒に歩いてきたミユリにとっては、ストレス負荷の延長でしかなく声を上げる気も失せるほど不満が溜まってきている。


「ありがとうございました~、またのご来店お待ちしております!」


 服屋を背に、振り替えることなく再び猛暑の中を歩き始める。


「……」


 ミユリは店内との温度差による暑さが増したような感覚を訴えること無く、無言で粕寺の隣を歩く。


「ごめんねミユリちゃん、あの子から離れるにはもうあぁするしかなくて……」


「……」


「あのTシャツに描かれていたキャラクターが気になっていたの?」


「……」


 そういった具合に、粕寺がひたすら返ってこないボールを投げ続ける状況が続く。


「(気まずいな……、不甲斐ないばかりにあの場を止めてやれなかった俺のせいだ。粕寺さんが強引に場を引かせたこともあって、店入る前のようなやり取りが出来なくなっている。思えば粕寺さんばかりに負担かけてばかりだ……、せめてこの場空気を何とかしないと)ーーえっと……、一応この後に日用品もある程度揃えておこうと思っていまして」


「あぁそうね、食器とかお風呂用のタオルとか一通り揃えておきたいわね。ならまず、ミユリちゃんを少し休ませてあげた方がいいんじゃない? さっきのこともあるし」


「そうですね、暑い中ずっとついてきてもらってますしーーミユリ、あそこの喫茶店で冷たいもの食べようか」


 誠磨が中腰でミユリの方へ屈んで、すぐ近くにある喫茶店の方に指を差してミユリの目線をそこに向ける。


「……」


「ま、まぁとりあえず行こう!」


 誠磨より比較的気の置きやすいタイプとして接していた反動か、手首への手刀が例え軽いものでも依り代の無いミユリの心には深く突き刺さってしまっている。その杭を抜かなければならないと粕寺と誠磨は各々であれこれ考えつつ喫茶店に入る。


「いらっしゃいませ~、お客様3名様でよろしいでしょうか?」


「はい」


「お煙草は吸われますか?」


「いいえ」


「かしこまりました、では禁煙席へご案内いたしますのでこちらへお越しください」


「お願いします」


 そうして3人は女性ホールスタッフの案内により窓際のテーブル席に着いた。粕寺とミユリが隣で、ミユリの対面席に誠磨が座る。


「ご注文の方はお決まりでしょうか?」


「いえ、これから決めます」


「かしこまりました、ではお決まりになりましたらそちらのボタンを押してください」


「はい、わかりました」


 ホールスタッフはミユリの方ほチラチラと少し驚いたような目付きで見つつ、一礼して去っていった。


「さて、何にします? 俺は決めてあります」


「そうね~、何にしようかしら。甘巻君は何にしたの?」


「俺は、宇治金時アイスにトッピングで、メープルソルトとモコソフトとジャラアイスですね」


「へぇ~、ジャラアイスっていうのはなに?」


「直径1ミリの四角い大粒氷おおつぶごおりですね、おいしいですよ」


「そうなんだ~、じゃあ私も同じの頼もうかな。ミユリちゃんは何にする?」


「……」


 ミユリは粕寺とは逆の方へ顔を背ける。


「あぁこのアイスは結構量が多いので、俺の分を分けますよ。では押しますね」


「はーい」


 テーブルに備え付けのインターホンを押し、店員への呼び鈴を鳴らした。奥の方から先ほどのホールスタッフの声が聞こえてきた。そのホールスタッフがこちらへ向かってくるのが見えたと同時に、騒々しく店の扉が開けられた。


「あ、す、すみません!!」


 慌てたその声は、まだ変声期を1度も迎えていない少年のような、男女の区別がつかない感じの声であった。


「いらっしゃいませー、お一人様でよろしかったでしょうか?」


「あ、は、はい!」


「かしこまりました、少々お待ちくださいーーお客様ご案内お願いしまーす!」


「はーい!」


「では申し訳ございませんが、他のスタッフが来るまで少々お待ちください」


「え、あ、えっと……その、ま、待ち合わせしておりまして!」


「あ、そうでしたか。失礼いたしました、ではごゆっくりどうぞ~ーーすみませーん。ご案内OKでーす!」


「はーい!」


 誠磨達の席は入り口に近い場所に位置していたので、その一部始終がしっかりと聞こえていた。そして、その来客らしき足音が早々とした足取りで近づいてくる。


「ーーあ、あの!!」


 ミユリの様子を伺っている間に、気づけばその足音が誠磨達の席の前でピタリと止まっていた。


「は、はい」


 3人はその声の主の尊顔を伺おうと目線を合わせた。すると、その声の主の容姿尊顔に既視感が過った。


「えっ!?」


「あら!?」


「お、お前は……!?」


 その姿は先ほどまでいがみ合っていたピッグテール少女のポニーテールverと言える容姿であった。


「ど、どうされました?」


「まだ何か用かしら? ここまで着いてくるなんて、少々粘着過ぎると思うけど?」


 二人の反応に対し、ポニーテール少女は両手を腹部辺りに組んで身震いした様子で口をつぐんでいる。そして、先ほどまでの怒りを勃発されるような勢いで上半身が前方に傾いた。


「……ご、ごめんなさいっ!!」


「「「っ!?」」」


 そのポニーテール少女は、店内全体に聞こえる程のボリュームで彼らに向けて謝罪を告げた。




つづく

A.しま〇ら


です。私は幼い頃に数回連れて行ってもらったことがあります。

前回書く時にその僅かに覚えている記憶と、少しだけ調べた情報を元に描いてみました。


デパート内の店舗を物色する方向も考えてはいましたが、生活環境の急変による負担を減らすため、最初は節約を兼ねた応急処置としてこういう選択に至りました。


では次回、来週の金曜日更新をお楽しみに!



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