第二話 理想的大学生像
さて今日はサークル未所属なる私が、大学で有名なイベントサークル「ブルーパーティー」に所属するか否かを決断せねばならない時だった。
すなわち、新入生歓迎会出席の受付期限が今日までであった。
この、イベントサークル定番の謎のネーミングセンスも他の有名サークルらに勝るとも劣らず、噂通り期待出来そうである。
イベントサークルというのは、特定の活動内容を決めずに随時やりたいことを決めて行うサークルである。
それは例えばボウリングだったりサッカーだったり野球だったりする訳だが、比較的特に何の名目もなく飲み会を開催することが多いとされている。
なぜ私がイベントサークルに所属しようとしているのか。
「大学生らしさ」の定義についてはまさしく十人十色、大学生当事者のみならず大学生を語る者それぞれに言い分があろうことは想像に難くない。
その中で、あくまで私個人の理想の大学生像を構成している要素のひとつがイベントサークルへの所属なのである。
しかも掛け持ちだ。
随分軽薄短小な理想ではないかという声が聞こえそうだが自覚はしている。
それゆえに私は人見知りであることを押してまでサークルに所属してみようと思い立ったのである。
しかし私はまだ、口にするのも憚れるので友人たちの前で語ったことはないが、もうひとつ理想像を持っている。
むしろ実はこちらが本命であるといってもよいくらいであるのだが、これを目指すどころか、言葉で表現するのも難しい。
というか正直説明するのが恥ずかしい。
持ち合わせる言葉で無理に説明するとしたら――それはミステリアスでありながら可愛げがあり、孤高でありながら親しみやすく、高貴な雰囲気をまといつつそれでいて高飛車ではなく……といった具合に、麗人とは矛盾を抱えてこそであるとはなかなか正鵠を射ている。
この理想像を想起する度に「行動を起こさない者ほど無謀な欲望の数ばかりが多い」という、どこかで聞いたのだか、自己批判を繰り返す内生まれたのだか分からない名言が容赦なく脇腹ばかりを刺すのでとても片腹痛い。
ところで「片腹痛い」とは本来「傍ら痛い」であり、傍から見ていて痛々しいというのが元々の解釈であったが、いつしか片腹が痛いほど笑えるという解釈で「片腹痛い」となったのが一説らしい。
この場合は私が己の妄言に一人で自嘲しているという場面なので、なるほど当意即妙である。
麗人になるための道のりは一体如何なる努力をすればよいのか皆目見当がつかない。
まだ僅かな望みがある方をと、手始めにイベントサークルの新入生歓迎会を検討したまでは良かった。
が、行くか行くまいかをかれこれ丸一週間悩んだ上、未だに決められていないのは、私が二回生であるという厳然たる事実ゆえに他ならない。
新一回生が集まり二回生以上はそれを歓迎するという主旨である新入生歓迎会。
それにサークルの先輩でもなんでもない新顔の二回生が、入会希望者としてのこのこと推参してもよいものかといった話である。
しかし私はついに決断した。ここで迷った挙げ句やめてしまう脆弱なる精神こそが今の私を構成してきたのだと。
ここは決めねばならぬ。逃げてはならぬ場面である。
友人、知人共に一人もおらず完全に独りであるが、ぼっちであるが、そういう状況に単身乗り込み気付けばサークルの中心的人物として盛り上げに貢献する者もいるのだ。
貢献したところで何になるのかは分からないのだが、今は兎にも角にもそれらを見習わなねばならない。
私は私の気が変わらぬ内にメールで出席希望と送信した。
中心的人物になるとまでは言わずとも、サークルに馴染み、飲み会の誘いを毎回受け取ることのできる程度の関係性を確立するくらいはやってのけねばどちらにせよ私に明るい未来はない。と思う。
本日最後の講義が終わり、大学正門近くにて配られていたビラで、明日の集合場所を確認する。通学路からは若干外れるため、電車代がかかる。
往復で五百円弱といったところか。
うわどうしようかな、やめておこうかな、うむやめておこう、と早くも折れそうになる自身の心に半ば呆れつつ、とりあえず今日のところは早く下宿先に帰ろうと講義室を出たところで、後ろからやや大きな声で私を呼び止める者がいた。
「あの、三夜沢さん? だよね?」