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捨て犬

作者:ぎょにく
 雨の日に外に放り出された気分だった。僕はふらふらとよろめく足を懸命に動かして、なんとかドアにもたれかかった。ドアノブに手をかけると、金属の冷たさが手のひらを通して心の臓まで伝わってくるようだ。
 僕は何度もドアに頭を打ち付けた。痛い。痛い!血が流れる。嗚呼、僕は生きている。そう、生きているのだ、悲しいことに。
 ドアノブを回すと、僕はまるでくたくたになったぬいぐるみのように、外に投げ出された。しとしとと雨が降っている。雨が自傷の痛みを蘇らせる。痛い。痛い。痛い。
 楽になりたかった。苦しみから解放されたかった。こんなことはとんでもなくつまらないことなのだろうが、僕は苦痛を感じていた。
 誰もが苦痛を感じて生きているのだと思っていた。その考えが甚だしく周りとずれていると気づくのに、そう時間はかからなかった。
 皆生きることに関して楽観的であるように感ぜられた。どうやら馬鹿みたいな妄想を膨らませて気取っているのは、僕くらいであるらしい。僕はたまに似たような人を見かけては、積極的に近づこうと試みた。そうしてことごとく失敗した。僕は自分自身を嫌悪した。人が怖くなった。
 雨でずぶ濡れの僕は、変に猫背のまま、ふらふら、ふらふらと、家の近くを彷徨った。
 頭痛と吐き気が何時も僕を痛め付ける。寝ようと思えば寝つけず、眠ったと思ったら早くに目覚めてしまう。或いは過剰に眠ってしまう。眠るにもそれなりの労力を要するのだ。解放してくれるのは抗鬱剤か精神安定剤くらいである。
 眠れば疲れるのならば、そうだ、眠らなければよいと、僕は何度考えたことか。だが人間、欲求からは逃れられぬ。眠りこけ、目覚めては衝動に駆られ、何時なんどきも僕の心から気味の悪い腹立たしさが消えない。
 僕はやり場のない怒りの矛先を、半ば無理矢理に物に向けた。まずは鉛筆、次に時計、その次はテレビ、といったように、ただひたすら、破壊衝動に身を委ねたこともある。気づけばもう壊せるものは自分くらいしか残っていないのだ。
 ふと、目の前を車が横切った。刹那、僕の頭をよぎったのは車にはねられる僕の姿である。そうだ、そうすれば楽になれたかもしれない、そう考えると同時に、急に虚しさが込み上げ、僕は道端で突っ伏して泣いた。通りすがりの親子が、冷たい一瞥をくれた。情けない。こんな奴など早く消えてしまえば良いのだ。
 言うまでもないが、僕は日陰者だ。いや、最早空気とでも称した方が適切かもしれない。僕がいなくなったところで、悲しむ人がいるだろうか?僕がいなくなって、喜ぶ人がいるのだろうか? 僕はそのどちらをも否定する。僕などいなくなったところで、誰も喜びも悲しみもしない、他人にとって僕などその程度の存在なのだ。せいぜい、あ、あいついなくなったんだ、くらいが関の山であろう。これもまた妄想か?
 急に息が苦しくなって、僕は咄嗟に自身の生を感じ始めた。そうだ、生き辛いと考えるといつもこうなる。痛みが生の感覚を蘇らせる。僕とて、この世に一切の望みを持っていないわけではないのだ。夢ではない。夢は叶わぬもの。とうの昔に自ら捨て去ったものだ。僕に生まれ持っての才覚があれば、それは案外叶っていたのかもしれないが。
 今考えると、僕は努力が好きだ。僕には才能らしき才能がない。人に言われるのは、お前は努力する才能がある、それだけだ。努力を以てすれば、ある程度の才能の差は覆せる。才能に溺れ、いい気になっている愚者を、見下してくる馬鹿共を叩きのめせる。つまらない自己満足ではあるが、僕はそれに快感を覚えていた。
 努力は無限の可能性を生む、といった類いの、馬鹿げたことを口にする人間がいる。知らないだろう。考えたことはないのか?お前らは、もともとそれなりの才能があるんじゃないのか(そういう僕も、案外そうだったりするのかもしれない)。
 きっと努力は有限なのだ。これが言い訳なのか、真実なのか、僕には未だ見当がつかない。だが少なくとも、僕はその努力にさえ疲れたということだけは間違いがない。
 再び頭痛を覚えた。そろそろ帰って坑鬱剤でも飲もう。僕は立ち止まり、辺りを見回した。すっかり日は落ち、真っ暗である。三日月が僕を見下ろしている。
 轟音と共に、世界が光で満ちていく。僕は、なんだか掴み所のない、不安になるような、それでいてどこかほっとしたような、そんな浮遊感に包まれた。
テスト勉強なんてしたくないサ(`Д´≡`Д´)

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