表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

魔法の地アヴェル

家を飛び出して、そろそろ一月が経つ。


一月の約束だったのに、俺はまだ、アヴェルを見つける事も出来ていなかった。村を出てひたすら北東。ひいじいちゃんの方位磁石だけを頼りに進んできた。


もう少し。あと少し。


根拠のない自信が、俺を突き動かしていた。一際大きな葉を切り落とすと、突然目の前が拓けた。


綺麗に整備された草原。その中には木道が走っている。

そしてその上で、少年少女が深々と頭を下げていた。


『アヴェルへようこそ』


少女が言った。


『へ?』

『お待ちしておりました、ジャン・イーグ様』

『えぇぇえぇぇぇ?!』


少年が何故か俺の名前を呼んだ。

この初めて味わう種類の恐怖感。

腰が抜けそうだ。


『こ、こここここここ』

『ここはアヴェルでございますの』


少女がにこりと微笑む。


『ジャン様お待ちしておりました。我らが主の所へご案内致します』


少年は、さも当然といった風に、手で木道を指す。


『どうぞこちらへ』


俺は成す術もなく、ただ二人の後を付いていくより他なかった。


アヴェルは、美しく、そして小さな村だった。


家が十軒ほどあり、その全てが木道で繋がっていた。

村の中心には、金を贅沢に使った神殿が建っていた。目も眩むとは、まさしくこういう物を指すんだろう。土足で入るのが躊躇われる程の美しさだ。


『こちらで履き物をお脱ぎください』

『あ、脱ぐんだ。ですよね~』

 

俺はいそいそと履き物を脱いだ。長旅で、ボロボロのズタズタになっていた。

改めて見ると、ギリギリ履き物の体を保っているが、穴から水も虫も入りたい放題だ。

俺は指示された棚に履き物を置くと、不審者よろしくキョロキョロと辺りを見回しながら歩いた。


見たこともない銅像が飾られ、見たこともない花が活けられていた。紅く塗られた廊下が厳かさを増していた。


『あ、すみません。キョロキョロしちゃって』

『いえ。珍しいでしょう?』


少年が優しく答えてくれた。


『先日来た旅人の方は、入り口で気絶されましたから。ジャン様はまだ気丈な方ですよ』

『はは…そうですか』


それにしても、礼儀正しい。この村の教育レベルの高さに感心する。


『ところで、ジャン様はお若く見えますけど、おいくつですの?』


少女が可愛い笑顔で尋ねてきた。無邪気だな。


『20歳です』

『まぁお若いですの!』

『いやいや、二人から見たら僕なんておじさんでしょ?』

『十分お若いですの!』

『私は105歳ですから』

『へ?』

『私は108歳ですの♪うふふ』


目の前が真っ暗になる。なんて面白くない冗談を言うんだ。大人をからかうにもほどがある。


『あら、倒れてしまいましたの』

『全く。マハラがからかうのがいけないんだぞ』


遠くで二人の声が聞こえた。


はっと目を覚ますと、だだっ広い部屋の真ん中、羽根が敷き詰められたフトンの上だった。


『気がつかれましたか?』


顔を覗かせたのは、冗談キツい少年だ。


『良かったですの!今お水を持って参りますの』


悪ノリ少女がパタパタと部屋を出ていく。


『おれ――』


言い終わらないうちに、冗談キツい少年が、部屋の奥を指差した。


『あちらにいらっしゃるのが、我らが主、セービー様でございます』


セービーと呼ばれた女性は、ゆっくりと立ち上がると、こちらへ歩いてきた。パタパタと悪ノリ少女が水を持って戻ってきた。


『あ、ありがとう…ございます』


俺は水を一気に飲み干した。


セービーは美しい女性だった。

あまりの美しさに目が離せなかった。


顔の大きさなんて母ちゃんの半分くらいで、目なんて母ちゃんの倍は大きくて、鼻筋がスッと通っていて唇はぷるっと赤かった。シルバーのまっすぐな長い髪が、歩く度に揺れていた。


ん、待てよ…なんだかこの感じ。初めて出会うのに、どこかで一度会ったような…


そうだ!親父が言っていた、夢に出てきた女の人に、特徴がそっくりだ!


『え?!あの夢に出た女の人?!』


驚く俺に、セービーはゆっくりと近付いてくる。そして、右手を軽くあげた。それを見て、少年少女が頭を下げて後ろへ下がった。 


赤く美しい唇が、ゆっくりと動いた。


『黙れ小僧。貴様の夢になど頼まれても行くか』


俺はまた気が遠くなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
読んで頂きありがとうございます。
↑クリックして頂けると嬉しいです。作品作りのモチベーションになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ