セービーの元へ(3)
広い屋敷の中は、驚くほど静かだった。
表で吹き荒れていた風も、屋敷の中に入ると全く吹いていない。
俺は、魔力がより濃く渦巻いている方へと
足を進めた。
『セービー?いる?』
階段を降りて地下へ。
一つの開いた扉から、異様なまでに魔力が噴き出していた。
『セービー?!』
返事はない。
小さな板一枚で
あの部屋の中へ入っていけるのか?
幾分不安になったが
キセキの力を信じ歩を進める。
さすがに魔力が濃くなったせいか、俺一人分のスペースを確保するので精一杯な状況になっていた。
『セービー?!聞こえる?ジャンだ』
『……?』
うめき声のような
本当に小さな声が漏れ聞こえた。
『セービー?!』
扉へ駆け寄り、部屋の中を見渡す。
暗闇の中に、赤い光が二つ見えた。
板をかざすと、まるで何かの反応のように
眩い光が部屋を包む。
赤い光だと思った物は
セービーの瞳だった。
綺麗な茶色い瞳だったはずが、今は赤く怪しく光っている。
銀色の髪は、まるで意思を持ったかのように広がり漂っている。
次の瞬間
『…ジャン?』
思いの外、優しい声色。
俺は自分がほっとするのがわかった。
『迎えに来たよ』
ゆっくりとセービーに近付く。
かざした板がセービーに触れる。
板とセービーが共鳴するように、まぶしい光に包まれた。
『…良かった…』
途端に、屋敷中に広がった魔力が、一気に収束し
全てがセービーの中へと吸い込まれていく。
ふっと、セービーが膝から崩れ落ちた。
『どわっ…』
俺は慌ててセービーを抱き止めた。
見た目以上に軽いセービーを抱え、一目散に裏口に向かって駆け出した。
◇ ◇ ◇ ◇
ジャンが屋敷へ入ってどのくらい経っただろう。
『…ジャン大丈夫かな…』
『おそらく。信じるほかありませんな』
『あたしが行けば良かったわ!』
突然、屋敷の上に陣取っていた黒い雲が、嘘のようにサーッと晴れてしまった。
吹いていた風も夢のように消えた。
『…なにこれ?』
『あ!』
ホーマが裏口を指差す。
そこには、ぐったりとしたセービーを抱えたジャンが立っていた。
『セービー様ぁぁぁぁ』
ホーマが我先に走り寄る。
『気を失ってます。急いで宿へ行きましょう!』
『ちょっと待って!』
私は羽織っていたフード付きの上着を脱ぐと
それでセービーを包んだ。
『なるべく人目に付かない道とかある?』
『お任せください。…ジャン、ワシに付いてこい。ホーマ、その爆弾の威力は?』
『え?この家くらいは崩れるかな~?』
『さっき、そんなに威力はないって言ってなかったっけ?』
『街は消し飛ばないんだから、そんなに威力はないでしょ~?』
『お主の基準がよく解らん。まぁ丁度ええわ。この家、壊しとけ』
『任せといて~♪』
ホーマはポケットからマッチを取り出すと、しゅっと火を着けた。
『走って~♪』
手際よく爆弾に火を着けると、屋敷へ向かって放り投げた。
俺達が走り去った後ろで、大きな爆発音と共に、屋敷が崩れ去ったのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
セービーが目覚めたのは
次の日だった。
俺達はその間、念の為にサトが持っていた袋に魔物を集めておいた。
『…ジャン?』
『セービー!わかります?!』
視線をさ迷わせ、ようやくサトを見つける。
『…サト、か?』
『そうです!良かった~』
『…ジャンに、会った気がしたが』
『ジャンが助けてくれたんです』
『…そうか…』
『水、飲みます?』
『…いや…。…もらおうかな』
セービーの体をゆっくりと起こす。
水差しからカップへ並々と水を注ぐと、セービーの手へ握らせる。
セービーがゆっくりと口へ含んだのを見ると
安心したように吐息を漏らす。
『外にみんないるんです。心配して。ちょっと呼んできますね』
サトは急いで部屋を出た。
セービーは、サトの背中を見送ると、ふと視線を落とし、揺れる水面をじっと見つめていた。




