セービーの元へ
ゾディアの屋敷へ近付くにつれ、野次馬がどんどん増えてきた。
ゾディアの屋敷の上には
そこだけ不自然に真っ黒な雲が漂い
何の事情を知らなくても、それは特異な状況だとわかった。
『…何があったんだ?』
思わず声が漏れる。
ボブロが、スラムの仲間を見つけ声を掛ける。
『…どうしたんじゃ?』
『いや、詳しい事はわからねぇが、屋敷の中に嵐が入ったとかなんとか』
『屋敷の中に?!』
『とにかく屋敷の中は滅茶苦茶らしいぞ。中にいた護衛は、みーんな出てきた』
ほれ、と男が指差した先には
屋敷を見上げ、おろおろと落ち着かない男がいた。
『…あいつがゾディアじゃ』
『あいつが!?』
『あのヤローー!』
爆弾を持って走り出そうとするホーマを、なんとか押さえる。
『…ちょっと近くまで行ってみます』
サトが、ひょいひょいと人混みを掻き分けゾディアへと近付く。
すぐに戻ると
『どうやら、中に誰か残ってるみたいです。シフォとかなんとか言ってました』
『シフォ?そんな手下、おったかのぅ』
『セービーの名前は?』
サトが首を横に振る。
『裏口とかないのかな?』
『…確かあるわい。付いてこい』
ボブロの後に続き、俺達は裏口へと回った。
◇ ◇ ◇ ◇
表の喧騒とは裏腹に
裏口付近は驚くほど静かだった。
『野次馬もいないですね』
『まぁこっちの方には何もないしのぅ』
裏口の先は、木が生い茂り、まるで森のようになっていた。
扉は固く閉ざされ、誰の出入りも無さそうだった。
『あたしがいくわ!』
『ちょ…!』
止める間もなく、ホーマが足早に裏口へと近付く。
そして扉に手をかけ、ゆっくりと押し開ける。
途端、扉の隙間からすさまじい風と共に
真っ黒な渦が飛び出してきた。
『逃げろ!』
咄嗟に叫んでいた。
ホーマは、瞬間的に後ろへ飛び退いた。
渦は、その禍々しい触手を伸ばすように
扉からうろうろと這い出ている。
『な、なによコレ?!』
その黒さ。
見覚えがあった。
あれは確か…
そう。
アヴェルのセービーの部屋。
『とりあえず戻って!』
サトの声に、ホーマは弾かれるように駆け出した。
『あれはなんじゃ?』
『なんか、とにかくヤバイって感じだったわ!』
ホーマの額の脂汗が、危険を物語る。
『…あれは多分、セービーの仕業かと』
『え?!』
『なんじゃと?!』
『嘘よ!セービー様があんな恐ろしいモノ出すわけないわ!』
『セービーが魔力を吸収する時に使う方法に似てます。あんなに邪悪な感じではなかったけど』
周りを見回すと、森から一匹の蛇が這い出ていた。
『ごめん』と謝り、俺は蛇を掴み、扉へ近付いた。
そして、はみ出した渦めがけて、蛇を放った。
渦は、まるで見えているかのように、蛇にしっかり巻き付いた。
途端に、蛇は跡形もなく消えてしまった。
『…え?消えた』
『う、そ…』
『どうなっとるんじゃ…』
『多分、吸収されたみたいです』
でもこれで、この渦はセービーが出している魔力だというのがわかった。
でも、わかった所で
この屋敷中が魔力で満たされている今
入る術がない。
セービー自らが出てきてくれればいいが、こんな強い魔力では、迂闊に近寄る事すら出来ない。
『この渦は、間違いなくセービーの魔力ですね…。でも近付く方法が…』
その時気付いた。
ズボンのポケットが温かいことに。
不思議に思い、ポケットに手を突っ込む。
『…これ』
そこには、ぼうっと薄く輝き、熱を帯びた【言葉】の板があった。




