近づく危機(4)
『はじめまして』
茶色い髪は、少し毛先が巻いていて、耳の下ぐらいの長さ。
口の上には茶色い髭。
肌は白く、目はつり上がっている。
確かに“初めまして”の顔だ。
『…何用だ。用があるなら声を掛けてくれれば、話くらいは聞いたぞ』
『これはこれは。綺麗なお顔立ちには似つかわしくない喋り方ですねぇ』
男はゆっくりとセービーに近付く。
『お名前を伺っても?』
『まずはそちらが名乗るのがスジだろう』
『あぁ、それもそうですねぇ。失礼致しました。私は、ゾディアと申します。バスラではちょっと名の知れた者です』
『…そうか。来たばかりでな。貴様のことなど全く知らないが、許してくれ』
『オホホホホ。これから覚えて頂ければ』
口に手の甲を当てて笑う。
ホーマとは種類が違う。
丁寧な口調の中に薄気味悪さを感じていた。
『それで、お名前は?』
『名乗るほどの者ではない』
『オホホホホ。そうきましたか』
ゾディアは、大股でセービーへと近付く。
カツカツと、靴底が鳴る。
おもむろに、セービーの顎を掴むとぐいっと顔を持ち上げる。
『まぁ、私が名前を付けてあげましょう。これからあなたは、私に飼われるのですから』
『…家畜ではないんだがな』
『オホホホホ。家畜よりは優雅な生活をお約束しますよ?』
ゾディアはすっと顎から手を引き、また大股でドアへと戻っていく。
『今日からあなたは、シフォにしましょう』
ゾディアが指を鳴らすと、足音が近付いてくる。
『私が戻るまでシフォを見張ってなさい』
『…はいはい。かしこまりました』
ゾディアと入れ替わりに部屋へ入ってきたのは
あの陽気な男だった。
◇ ◇ ◇ ◇
耳に突っ込んだ小指をぐりぐりと動かしては、取り出してふぅと吹く。
陽気な男は、暇そうにしながらも部屋から一歩も出ない。
かれこれ一時は椅子に腰かけて、ずっと耳掃除をしている。
セービーはさすがに息が上がるのを隠しきれなくなっていた。
『なぁ。もしかして、腹減ってる?それとも具合悪いの?』
『…なんでもない』
『だって、苦しそうじゃない?』
陽気な男がベッドへ近付く。
セービーは座ったまま倒れこむように、ベッドに伏せていた。
『ちょっとちょっと~。死ぬのは困るよ?薬とかあるの?』
『薬…は…、ある…』
『なになに?この箱の中~?』
『…あぁ』
『ちょっと開けるよ?』
『まっ!…待ってくれ。女は荷物を漁られるのを…嫌うだろ?自分で…』
少し手を伸ばし、すがるような目のセービー。
『…それもそうだな』
陽気な男が、箱をセービーへと渡す。
『…水を…水をくれないか?』
『はぁ。本当に面倒臭いな~』
陽気な男は、頭を掻きながら重い足取りで部屋を出た。
この部屋を魔力で満たすほど、もう自分の中に魔力が残っていない。
だが少しでも魔力を補給しなければ立つことさえ出来ない。
すでに座ってる事も危うい。
どうする?
どうすれば?
セービーの頭の中に、昔読んだ魔術書が次から次へと浮かぶ。
かなり古い魔術書のページを頭の中でめくる。
確か、緊急性の高い時に使える魔力の補給方法が書いてあったはず…
何かしらのリスクがあったような気もするが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
必死にページをめくっていると
ピタリと、あるページで止まった。
『あった…』
セービーは最後の力を振り絞り、箱を持ち上げた。




