近づく危機(3)
『あ、起きてましたか。これはこれは失礼いたしました~』
『お前…確か』
見覚えのある顔。
微かに聞き覚えのある声。
『あら、もしかして覚えてくれちゃってます?綺麗なお姉さん?』
『…!闘技場の!』
昨日、バスラに着いてすぐ。
闘技場の中へと強引に連れていった陽気な男。
そいつが目の前にいた。
『お前か…で、何の用だ?』
『お~怖い怖い!綺麗なお姉さんはコレだから嫌いだな~。用があるのは俺じゃないんだよね。とりあえずさ、こんな場所にお姉さん置いといたら、俺が殺されちゃうからさ。こっちこっち』
陽気な男が、扉の外へと手招きする。
立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
かなり魔力が足りなくなっているみたいだ。
『なに~?腰でも抜かしちゃった?も~困るなぁ』
陽気な男は、渋々といった感じで、セービーをひょいと抱き上げた。
『この荷物も?』
セービーの目の動きを見ると、返事も聞かずに箱も持ち上げる。
『女の人って、本当荷物多いよね~』
陽気な男は、苦い思い出でもあるのか
はぁ~と大きなため息を残し、小部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
連れて来られたのは、さっきとはうってかわって、綺麗に掃除された広くて明るい部屋だった。
ベッドの上に、少々手荒く下ろされる。
『荷物ここに置いときますね~』
ベッドの脇のローテーブルに
投げるように箱を置くと
陽気な男は後ろ手に手を振りながら部屋を出ていってしまった。
魔力を補給しなければ…
力の弱まりをひしひしと感じ、焦燥感が募る。
なぜ連れて来られたかは解らないが、状況はまず間違いなく悪い。
立つことさえままならなくては、戦うどころか逃げる事も出来ない。
誰が、何の為に自分を?
悪意にさらされた事のないセービーにとって、この恐怖は相当なものだった。
とにかく箱を…
焦りから余計に上手く動かない手足を、必死にばたつかせながらベッド脇へと向かう。
あと5センチ…
4センチ…
3センチ…
伸ばした手が箱に触れそうになる。
トントン
絶望は
突然ドアをノックしてやって来るのだと知った。
セービーは咄嗟に手を引っ込める。
『失礼しますよ』
思っていたよりも、少し高い声。
ゆっくりとドアが開かれた。




