集まった五人(3)
その頃すでに、ドワーフ狩りは始まっていて、研究所の所長はこの結果を伝えに政府へと赴いた。
しかし、所長が戻ってくる事はなかった。
ほどなくしてワシは、研究所護衛の任を解かれ、ドワーフ狩りの支援部隊へ配属された。
支援部隊へ合流する前日、研究所へ挨拶へ行くと
そこには
何にもなかった。
本当に何も。
不自然な空き地があるだけだった。
ワシの脳裏を過ったのは、いつも親しくしてくれた所長や、真面目だけどどこか抜けた研究員や、イタズラばっかりしてた研究員…
そいつらの笑顔だった。
ワシはその足で、バスラへ戻った。
そして、隠れるようにこのスラムで暮らし始めた。
人類政府へただならぬ物を感じ、恐れたからじゃ。
『…もう21年も前の話じゃ』
ボブロの長い溜め息が
重い歴史に拍車をかけていた。
◇ ◇ ◇
忘れていたカチンコチンのホーマを溶いて、これからどうするかを話し合った。
そして、ホーマの要望により、このバスラで新しい矢じりの完成と、鍛冶道具の調達をする為、しばらく滞在する事が決まった。
俺とホーマはスラムに、サトとセービーは宿泊施設へ泊まる事にした。
『あたしだって女(好き)よ!』
ごねるホーマを
『いやガチムチだから!』
必死でなだめた。
ここでの滞在中、どうせ暇だからと
ボブロが俺に、剣士との戦い方を教えてくれる事にもなった。
『まずお前さんに大事なのは、優しすぎる考えを捨てる事じゃ』
『優しすぎますか…?』
『あぁもう存分にのぅ。相手が子どもだろうと、ヨボヨボだろうと、お主に剣を抜いたり弓を向けてきた時点で、それはもはや倒すべき敵じゃ』
『え?!さすがに子どもとか老人だと…』
『それが甘いんじゃ。それが隙じゃ。戦場では、隙を作った方が負ける。これは基本じゃ』
『…はい』
『そもそもお主の使う体術が、防御の側面が強いからのぅ。すっかり廃れてしまった技じゃ。まだ残っとった事に驚きじゃ』
『…そうなんですか?』
『あぁ…もうおとぎ話レベルじゃ。それだけお主の村は平和じゃったということじゃ』
村にいる時には感じなかった平和。
でも、この旅の最中、何度となく痛感した平和。
『まずは体術とやらをしっかりワシに見せい。それからじゃ』
『見せるって…?』
『ワシに技をかければええじゃろ?出来んか?今度こそ腕を切ってやるか?』
ボブロが剣に手をかける。
『…出来、ます…』
『そうじゃそうじゃ。まずは心からじゃ』
ボブロは胸をトントンと叩いてみせた。
◇ ◇ ◇
『ところでサト。あのホーマという奴はなぜ一緒に旅をしておる?』
『え?あぁ…何でかは解らないんですけど、水晶がホーマを指してて』
『…あんな奴を?』
あからさまに嫌な顔を見せるセービー。
ここはバスラでは一番安い宿。そこを更にボブロに口を利いてもらい、合わせてセービーがオーナーと一日一回お茶をするという約束で、ほとんどタダ同然で部屋を貸してくれた。
『急な話だったんですけど、ホーマは自分の工房も名誉も仕事も人に譲って、私に付いてきてくれたんですよね~。ああ見えて、結構優しい所あるんですよ?』
『…そうか』
セービーは納得してない顔をしていたが
無理矢理『あいつは良い奴だ』と小声で自分に言い聞かせていた。
『それにしても、セービーにお子さんがいるなんて知りませんでした』
『うむ。旅に出るから産んだのだ』
『え?急に?!またまた~』
サトは冗談だと思い、笑いながらセービーをポンポン叩く。にわかには信じられない話。しかし、セービーの表情は真剣。そしてその崩れない顔を見て、サトは本当だと気付く。
『え?…ほ、本当に?』
『私達は代々、魔力を使って自分から分身を創るんだ。それが娘だ』
『…へ、へぇ~』
『ジャンは見てたぞ。聞いてみるといい。気絶したらしいが』
『そうなんだ…やっぱり魔法ってスゴいんですね』
『そういえば、お前の村には魔法の壺があるとか言ってなかったか?』
『そうなんです!その壺に入れてる石が増えるんです。いつかセービーにも見て欲しいです』
『…うむ。今度ぜひ行こう。この旅が終わったら』
フフっと二人は微笑み合う。
『私の村はみんな、魔法を信じてますから。セービーに会えると喜びます』
トントンと軽いノック音が響き
『セービーさん、お茶の用意が出来たから来ておくれ』
オーナーの声が扉の向こうからやってくる。
『…すぐ行きましょう』
セービーはふぅと軽くため息を吐く。
『私と茶を飲んで何が楽しいのか…?よくわからんが』
渋々部屋を出ていった。
その後ろ姿を眩しそうに見つめるサト。
『…まずは女に見られないとな』




