集まった五人(2)
水を打った様にしんとする室内。
皆、この出来すぎた偶然に次の言葉を見つけられないでいた。
『それって…』
俺が口を開きかけたその時
状況を知らないホーマがむくりと起き上がった。
『娘って…ねぇ結婚してるの~!?』
いやよ!信じないわ!とセービーにすがり
泣き喚く。
『…うむ。こいつにはもう一度寝てもらうか…』
ホーマの頭にセービーが右手を置く。
『…ねぇ、ちゃんと生きてる?』
心配そうなサト。
セービーは顔色一つ変えずに応える。
『仮死状態だ。まぁ冬眠だと思えばいい』
それって大丈夫なのか?
その言葉はぐっと飲み込む。
俺の隣には
カチンコチンに凍ったホーマが置いてあった。
◇ ◇ ◇ ◇
『もとよりワシはサト殿に仕えると決めておった。お主らの旅にワシも付き合おう』
静寂を破ったのはボブロだ。
『じゃあ…これからは五人で?』
俺の瞬きが自然と増える。
周りを見回すと、皆頷いてくれた。
――ホーマを除いて。
『…こいつも一緒じゃなきゃダメか?』
セービーが凍ったホーマをコツコツ叩く。
『あ、ホーマは本当に腕のいい鍛冶職人なんです!今、私の新しい矢じりも作ってくれてて。きっと剣も直してくれると――』
サトがチラリとボブロの剣に目をやる。
『フォッフォッ。確かに鍛冶職人は助かるのぅ。だがワシの剣はな、元々片刃なんじゃ』
『カタバ?』
剣の事に詳しくない俺にはピンと来ないのは当然だが、セービーやサトも初めて聞くみたいだ。
『皆が使っとる剣は、どっち側でも切れる両刃の剣じゃ。じゃがワシが父親から受け継いだのは、片側しか刃が付いとらん。もう片方はホレ』
鞘から剣を少し出し、その身を露にする。
確かに片方の刃は薄く、その反対側の身は厚く斬撃には向いていなさそうだ。
でかくて細い包丁みたいだ。
『父親も、そのまた父親からこの剣を受け継ぎ、我が家は代々この剣を振るってきた。なぜこういう形状なのかはハッキリとはしておらん。だが、父親からはこう言われた。【無駄な殺生をしてはいかん】とな』
ボブロは剣を鞘へしまう。
カチリと高い音が響く。
『父親が死んで、ワシはこの街へ来た。己の腕を試したかったからじゃ。…すぐに登用してくれる主が現れた。それが人類政府じゃ』
『人類政府って本当にあるんだ…』
セービーと話した事を思い出す。
『じゃがな、その時人類政府がやろうとしとったのは、ドワーフ狩りじゃ』
『…それは先のドワーフ戦線…ですか?』
セービーが口を開く。
『…そうじゃ。ところでお主らは、ドワーフが何か知っとるか?』
『…いや』
『確か、人の形をしているけれど少し小さめで、人ならざる者とか…?』
ボブロは小さく鼻で笑う。
『皆なぜか、そう思い込まされとったのぅ。確かにドワーフは人より小さい。…だがな、あれは確かに人じゃった』
『え?!』
『あの頃ドワーフの村は、鍛冶の技術力の高さでかなり栄えとった。見たこともない武器を作ったりしとったし、資金力もあった。それを疎ましく思い、その資産に目を付けたのが人類政府じゃ』
『…そんな』
開いた口が塞がらない。
『ドワーフの体がワシらより明らかに小さい事を利用して、ドワーフを人と認めん変な噂を流し始めたのだ』
『…しかし失礼ながら、なぜドワーフと人が同じだと?』
『た、確かに』
ボブロはふぅと小さく溜め息を漏らした。
『人類政府に登用され、ワシは研究所の護衛として配置された。そこで研究者の連中と仲良くなったんじゃ。ある時、研究所にドワーフの遺体が持ち込まれた。隅々まで調べて出た結論が《人》じゃった。人と体の構造も脳の重さも何もかも同じじゃった。違うのは体の大きさぐらいじゃ。あの時の研究所の中はもう、大騒ぎじゃったのぅ』
ボブロの話は、俺達の知らない歴史だった。
何故ボブロがこの街へ戻って来たのか。
スラムに暮らしているのか。
それはすべて、先のドワーフ戦線と人類政府に関係していた。




