集まった五人
斬られると思って目を瞑っていた俺は
状況が一向に判らず困惑していた。
からんと甲高い音が響いた次の瞬間、辺りはざわつき、斬られるはずの俺の腕も無事だった。
でも、ボブロは俺を解放してくれない。
目を開けると、こちらへ歩いてくる人影が2つ。男だろうか?一人は弓を持っていて、もう一人はガチムチだ。
突然、ガチムチ男が走り出す。
ボブロの足に力が入るのが分かる。
男は
俺達の横を当たり前のように通り過ぎると、観衆に紛れていたセービーに近付く。
『やっぱり~♪記念物級の美人だわ~♪』
『な?!』
『は?』
『え?』
眉根を寄せて完全にひいてるセービー。
状況が理解出来ないボブロと俺。
ゆっくりともう一人の男が近付いてきた。
『…貴女か。ワシの剣を落としたのは』
『はい。水を差してすみません。連れが五月蝿く騒ぐものでー』
言い終わらないうちに、ボブロは俺から離れ、弓使いの前に跪く。
『ワシの主よ』
『は?』
『…えぇぇぇ?!』
『あ、あの、そういうつもりじゃ!』
弓使いが慌てて顔をあげるように促す。
『…ワシはこの街で、本当に強い者にあった事がありません。どいつもこいつも、殺せばいいと野蛮な技ばかりを磨いております。しかし、貴女の弓は、私も剣も傷付けなかった』
『いや、貴方なら弓が飛んでくれば少し仰け反るかなと思って…』
『いえ。貴女はワシの指を狙った。指を掠めれば、剣を落とすと踏んでいたんでしょう』
『いやいやそこまでは…偶然だと…』
地面にへたりこんで様子を見ていたが、置いてけぼり感がスゴい…
そこへ、セービーとガチムチ男がやって来た。
『…これは一体…』
弓使いとセービーの視線が絡み合う。
『あ、あなた!』
『ぬ、お主は…』
『首長様がどうしてここに?!』
『方向音痴の旅人じゃないか!』
『あらな~に?顔見知り?』
ビミョーな空気が俺達を包んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
結局、テーブルの弁償も含めて金の粒を一つ取られてしまった。
『はぁ…母ちゃんごめん』
俺達五人はゆっくり話をする為に、スラムにあるボブロの家へと戻ってきた。
スラムの中にあって、案外と広いのは、ボブロがここの主として君臨しているかららしい。
とは言ってもやはり、五人も居ればぎゅうぎゅうだった。
俺は斬られた右手ーセービーが後で回復してやると言って包帯を巻いてくれたーを擦りながら話を切り出した。
『で、あの、あなた達は?』
『あ、あたしはホーマね。凄腕の鍛冶職人よ♪綺麗な女の人がだ~い好きなのっ!』
ホーマはセービーの腕にぎゅうっと絡み付く。
迷惑そうな顔を隠そうともしないセービー。
そんなホーマを横目で見て溜め息を漏らす弓使い。
『あ、私はサトです。ムゼという村の出身です』
『サト殿か』
あれ?
俺の胸に湧いた小さな疑問が、計らずも口から漏れてしまった。
『…女…の子?』
小さな声だったが、サトは聞き逃さなかった。
ジロッと横目で俺を見ると
『女で悪かったわね』
『なんじゃ。兄ちゃんは男だと思っとったんか。まだまだ甘いのぅ』
『え?!女の子だって判ってたの~?』
ホーマが、あり得ないとでも言わんばかりに目を見開いている。
『ふぉっふぉっ。ワシくらいの女好きになれば、一目よ。お主もまだまだじゃの』
『師匠~!師匠と呼ばせて~!』
ホーマが尊敬の眼差しでボブロを見つめる。
もはや何の話かわからない。
セービーが一つ咳払いをした。
『…こほん。私はセービーと申す。アヴェルより参った』
『アヴェル?!うっそ~』
『なんとな。あの伝説の?!本当に存在するとは…』
ホーマとボブロは一様に驚く。アヴェルなんておとぎ話だと皆思ってるんだ。
…でも一人だけ、様子が違う。
『その、サトさんはセービーと知り合い?』
『うむ。ジャンが来る前にアヴェルへ来た旅人の話をしただろ?』
『はい』
『あの旅人がサトだ』
『…えっ?!てっきり男かと!じゃあ俺の村に来たのも?』
『いろんな村に立ち寄ったから…』
サトは気まずそうに頭をかく。
『この子ね、破滅的な方向音痴よ~』
ホーマが呆れた様子で吐き捨てる。
『あたしはさ、鍛冶の街ハヌワからこの子と旅してるんだけどね。本ッ当に隙あらば迷うのよねぇ…』
『ホーマだって女の子見付けたら勝手にどっか行っちゃうでしょ!』
『あんたはなーんにも無くてもどっか行っちゃうでしょ!』
大変な旅だったんだろうなぁというのは、二人の顔を見れば想像に難くない。
『それで、サト達は何してたんですか?』
『あ、それね!あたしがさ、歩いてる時にセービー様を見掛けたのよ~♪あんまりキレイだから追い掛けようってサトに言ってね♪』
『闘技場にいたら、急に女神がいたとか絶世の美女とか何とか言い出して。ホーマに引き摺られるように付いて行ったらー』
『あんた達が決闘してたって訳♪』
『どうして助けてくれたんですか?!』
『あらぁ~あんたの為じゃないわよ?男なんて死のうが生きようが、あたしの人生にこれーーーっぽっちも関係ないんだけど』
そう言って出したホーマの二本の指には、隙間なんて無かった。
『セービー様が死にそうな顔してあんたの事見てたからさ。あ~助けたいんだなと思ってね。それでこの子に助けてあげてって頼んだって訳♪』
『そうじゃったのか』
『闘いに水を差すのは気が引けたんですが、圧倒的な実力差も感じたので…』
サトが言い終わらないうちに
ボブロは大きく頷いた。
『さすが、ワシの主じゃ。どこぞの無謀な兄ちゃんと違って、一瞬でそこまで気付くとは』
『いや、一瞬では…』
『という事で、兄ちゃん。悪いがワシはこのサト殿に仕える。お主には悪いが諦めてくれ』
『え!ちょっと!』
『つ、仕える?!いやいやいいです!仕えてもらわなくて』
『なんじゃ。ワシみたいな老いぼれは嫌ですか?』
『老いぼれとかじゃなくて!弟子とかそう言うのは要らないんです』
『サト殿がなんと言おうと、ワシはもう決めたんじゃ。諦めてくれ』
『な、なんて頑固なのぉ』
や~ね~と言いながらセービーにすり寄るホーマ。
その顔を遠慮なくグイグイ押し返す。
『ボブロ。サトに仕えるのは構わん。しかし、私達も易々とは引き下がれんのだ。もう一度チャンスが欲しい』
『いや~…しかし兄ちゃんはもう、戦いたくなかろう?のぅ?』
『…私と戦おう』
『な、お前さんと?』
『そうだ。私と』
『あの~』
サトが申し訳なさそうに話に割り込む。
『どうしてセービー様はこちらへ?』
『セービーでいい』
『じゃあ。セービーはアヴェルの首長でしょう?どうしたんですか?』
『うむ。首長は娘に譲った』
『む、娘ーーー!』
バタンと泡を吹いて倒れるホーマ。
でも、誰も気にしない。
『私は予知夢を見たのだ。それは、ジャンがアヴェルへやって来るというものだった。それは初めて見た予知夢だった。ジャンは古い言葉を探していたのだが、私では役に立てなかった。それで、共に旅をして占いや魔法でジャンを助けようと思ったのだ』
『そうなんです。俺は、親父から古い言葉を受け継いだんです。でも何でか、その言葉の意味は誰も解らなかったんです。言葉だけ残って意味は廃れるなんて、何だか理由がありそうで。それで、古い言葉を探す旅に出たんです』
『で、どうしてバスラへ?』
『セービーの占いで、バスラにいる黒い剣を使う者に話を聞くといいと出て。それで来ました』
『そう言えば、サトはどうしてここへ?』
『あ、言ってなかったですかね?私はこの水晶の光に従って旅をしてるんです』
サトは、おもむろに胸の辺りに手を突っ込み、ペンダントらしき物を取り出した。
それは、淡い光を放つ水晶だった。
『この水晶の光に従って旅をして、ハヌワへ行きました。そこでホーマと出会って。次は光がこのバスラを指したのでここへ』
『…どうした?大丈夫かボブロ』
話を聞いていたボブロが
あからさまに動揺している。
『…こ、こんな事が…』
『ボブロさん?』
ボブロは一度目を閉じ、呼吸を整えると、ゆっくり口を開いた。
『…この剣はな、ワシの家に伝わる家宝じゃ。この剣を継ぐ時に、ワシは言葉も継いだんじゃ…』
一つ大きく深呼吸をする。
『水晶の指す先に言葉あり』




