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闘いの街バスラ

アヴェルを経って五日。

周りを壁に囲まれた、巨大な街が出てきた。


闘いの街【バスラ】


村生まれの俺にとって、初めて見る巨大な街。

壁の外にまで、喧騒が漏れてくる。


門の前で立ち尽くし、動けない俺の肩に、セービーがそっと手を置く。


『…一歩近付いたな』


何日か前に俺の顔をボコボにしたとは思えないくらい、女神の微笑みをくれる。

 

この人に逆らっちゃダメだ。


うん。本能はいつも正しい。

大事な事を気付かせてくれた旅だ。


『…はいっ。行きましょう!』


壁の中は、外とは比べ物にならないくらい、五月蝿かった。

タッシュの村が四つか五つは入るんじゃないかというくらい広い街には、色々な武器をぶら下げ歩く人々。そこかしこで、武術や剣さばき、弓を披露している。それを大勢の人が囲み、指を色々な形に折り曲げ、それを掲げながら声を張る。それを見て、披露している人が手を挙げた人の中から一人を選び、笑顔で握手をする。そうすると、周りを囲んでいた人達は、口々に恨み言を言いながら離れていく。


『…何してるんだろう?』

『恐らく、自分を買ってくれる者を探しているんだろう』

『え?!人を買うの?!』

『そうだ。ああして強い者を買って、護衛とか自分の街や村を守ってもらったりするんじゃないのか?用心棒ってやつだろう』

『へぇぇぇ』

『私達みたいな者には解らないセカイだな』

『…確かに』


自分達の村は自分達で守る。それ以前に争いがない俺にとっては、用心棒だとか護衛だとか人を買うとか、ちっとも解らないセカイだ。


『腕に自信があるやつは、この街で更に腕を磨き、人類政府の軍に取り立ててもらうのが一番の夢だと聞いたことがある』

『…詳しいんだね』

『暇な時は占いで色々な街を覗いたからな』

『人類政府って…本当にあるのかな』

『さぁな。アヴェルは今までどの戦にも参加してないからな。見た事もないな』

『でもこれだけの人がいるって事は、本当にあるって事だよね…』


話しながら歩いていると、街の中なのに、巨大な壁が出てきた。


『うわっ、なにこれ?!』

『闘技場…か』

『闘技場?!なんですかそれ!』

『わぁお!綺麗なお姉さん!』


突然、陽気な男が声を掛けてきた。


『なになに~?闘技場に入りたいの~?』

『…いや』

『俺に任せとけって~!』


陽気な男がグイグイと俺達の背中を押し


『ごゆっくり~♪』


人、ヒト、ひと。

いつの間にか、ぎゅうぎゅう詰めの観覧席へと連れて来られていた。陽気な男はそのまま何処かへ行ってしまった。


闘技場では、十人の戦士が武器を構えている。わぁっと一際大きな歓声が上がり、二匹の痩せ細ったグーズーが放たれた。

本来なら、雨季の今は大人しいグーズーだが、この二匹は気性が荒い。


『…わざと空腹にしてるのか?』


乾季のグーズーが気性が荒いのは、餌が少ないからとも言われている。 

それを裏付けるかのように、痩せ細ったグーズーは、黄色い目を血走らせ、戦士目掛けて突進していく。

しかし、戦士達も慣れた感じでひょいとグーズーの突進をかわす。二人の戦士が、一匹ずつグーズーの気を引くように前に立つ。グーズーはまた戦士に向かって突進していく。そして、手から出た爪をがむしゃらに降り下ろす。戦士はたった一歩でその爪を避け、持っていた縄をグーズーの首に掛ける。そこに別の戦士がやって来て、持っていた剣でグーズーの牙を叩き斬る。

わぁぁぁぁっと歓声で闘技場が揺れる。

バク転をしながら更に別の戦士がやって来て、さっと取り出した小振りの剣で、グーズーの爪を切り落とす。最後に来た戦士は、木を剪定する大きなハサミを持ち、グーズーの周りを踊るように回っていく。そして、ぐるっと一周して、グーズーの顔の前でハサミをパチンと合わせると、グーズーの茶色の毛がパサッと切り取られ、丸裸になってしまった。最後に、首に掛けられた縄をぐっと引くと、グーズーの巨体がバタンと倒れた。

この一連の流れを、二組が全く同時に行った。その完成された動きは、もはや芸術の域だ。割れんばかりの拍手が闘技場を包む。

リーダーとおぼしき男性が大声で『ビー軍団をよろしくお願いしま~す』と呼び掛けていた。


『…とりあえず、出るか』

『そうだね…ん?』


視線を感じた気がして辺りを見回す。しかし、みんな口々に叫んだり拳を突き上げたりしながらも、視線は闘技場へと注がれている。


『なんだろ?』

『どうした?』

『あ、なんでも。行きましょう!』


この時俺は気付かなかった。

人混みをかき分ける俺達を見ている視線がある事に。



闘技場を抜け出すのに、半時ほど掛かってしまった。

とりあえず俺達は、【黒い剣を使う男】がいないか、手当たり次第、聞き込みをする事にした。



『黒い剣?剣はシルバーに決まってんだろ?』


『俺は結構な数の剣士を見てるが、黒い剣を使う奴は見た事ねぇな』


『剣が茶色に錆びついちまった奴ならいるぜ!がははは』


『そんな事より拙者の手裏剣使いを見てみぬか?』


『いやぁ~綺麗な姉ちゃんだね!ちょっと茶でも飲まねぇか?!』


『そんな男より俺と一緒に旅しねぇか?』


『十年待ってくれたら、僕もきっとお姉さんに見合うイケメンになるよ?だから待ってて?』


『冥土の土産にしたいから、ちーっと一緒に酒飲んでくれんかのぅ…』


とにかく、セービーがいると聞き込みにならない。次から次へと声を掛けられる。

歯は生え変わったのか?と言いたくなる子どもから、マジで冥土の土産になりかねない爺ちゃんまで、次々とやってくる。セービーは表情一つ変えず『すまんな』とだけ応える。子どもにすら。(子どもにくらいニコッてしよっか?)

俺には解る。セービーは間違いなく『面倒臭いな』と思っている。


『な、なかなか見つからないもんだね』

『うむ。早く見つけないと精神が持たん』


そう言うセービーの声は、そこはかとなく冷たい。ゴォォォォォって音が聞こえそうなくらい。心が吹雪いてる~!


『今度はあっちの露店のおばちゃんとかに聞いてみましょうか!?』

『うむ。それはいいな』


露店の並ぶ区画を目指して歩く。後ろを『ちょっと!あんたは本ッッッ当に方向音痴なんだから!一人でどっかに行かないでくれる?!』『あなたこそ女の子見掛けたら勝手について行くのやめてよね!すぐいなくなるんだからっ。もう油断も隙もあったモンじゃない!』女の子二人組?が喧嘩をしながら通りすぎていく。


果物売りをしている恰幅のいい女主人に尋ねると


『あー、あんたそれ、ボブロの事じゃないの?でも、剣は引きずってるだけだけどね!アハハハ』


女主人が『ボブロはスラムにいるよ』と教えてくれた言葉を頼りに、どんどん街の外れへと入っていく。暗く混沌とした場所。


『スラムって、何ですか?』

『街の中にある、貧しい者が住む場所だな』

『…そんな場所に、言葉の意味を知ってる人がいるんですかね…?』

『しかし、手掛かりもあまりない。行ってみるしかないだろ』

『…ですね』


半信半疑でスラム街を歩く。皆ボロボロの服を着て、鋭い目付きで俺達を見てくる。

なんだか歓迎されてないことだけは、痛いくらい感じる。


『ジャン。あそこ』


セービーのスラッと伸びた指の先。白髪混じりでボサボサの髪にボロボロの服、腰には不釣り合いな黒光りする大きな剣を下げた、初老の男がいた。

思わず唾を飲み込む。

にわかには信じられない。

でも確かに、黒い剣を持っている。俺は勇気を出して、男性に声を掛けた。


『あの~すみません。ボブロさん?』

『あ?』


警戒心を隠そうともせず、全力で不躾な視線を俺へと浴びせてくる。


『あ、初めまして。俺、タッシュという村から来ました。ジャンと言います』

『…タッシュ?…ジャン?知らねぇな』

『あの、それでですね。実は、古い言葉を知ってる人を探してまして。で、こちらの方の占いで、バスラにいる黒い剣を使う者に話を聞くといいと出まして』

『…へぇ』


ボブロは、上から下まで舐めるようにセービーを見る。


『もしかして、古い言葉を知ってたりとか…しません?』

『古い言葉ねぇ…』


ボブロはニヤニヤした顔でセービーを見ながら


『あー、腹が減ったな』

『え?』

『よ、兄ちゃんよ。おめぇさんはまだ若いから、人へお願い事をする時の“礼儀”っちゅーもんをわかっとらん!』

『はぁ…』

『エエか?儂らみたいなモンはな、いつでも腹空かしとるんじゃ。手ぶらで来たらいかん』

『そ、そうなんですか?』

『ジャン。真に受けるな』

『いやいやしかしな。そこの綺麗な姉ちゃんと、たらふく飯でも食べられれば何か思い出すかも~、しれん!』

『ほんとですか?!』

『見ての通り、儂ゃもう年じゃ。思い出すにも時間とエネルギーが要るんじゃ』

『なんでも!ご馳走します!何が食べたいですか?!』

『ジャン!お前、金持ってないだろう?』


セービーを振り返り、小声で話す。


『母ちゃんから、金の粒を少しもらったんです!大丈夫です!』

『しかしだな』

『手掛かり、無くなっちゃうかもしれないじゃないですか。大丈夫です!』


俺は言葉の意味を知る為に旅に出たんだ。引くわけにはいかない。


『よし、じゃあ行こうかの』

『…な!』


ボブロは、俺達の話を待ちきれないとでも言いたげに、セービーの手を取りずんずん歩き始めた。


『ちょっと!待ってくださ~い』


慌てて二人の後を追いかけた。

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