受け継がれる【言葉】
手に持った大振りのナイフで、思う存分伸びきった草を切り分け、道を造る。
秘境の地、アヴェル。
もはや伝説とまで言われる、その存在すら未確認の地。そこには、未だに魔法が残り、魔法を使って人々が暮らしているという。
馬鹿馬鹿しい
小さい頃の俺は、アヴェルの話をおとぎ話として聞いて喜んだ。なんて夢のある話だろうと。
しかし、年を重ねるにつれ、魔法を信じるなどなんて愚かだと、時間の無駄だと感じていた。
そんな事より、井戸をもっと効率よく早く掘れないかとか、作物を安定して育てられないかとか、そういう事に興味が湧いた。
そんな俺が、伝説をただ無心に信じてアヴェルを目指している。たまにそんな自分が可笑しくなる。何故ここまでこの【言葉】に執着するのか…。
『…疲れたな』
そばにあった茶色い岩に腰かける。そして、腰につけていた水筒を取ると、貪るように水を喉へと流し込む。
ふいに、フワッと浮き上がる感覚に襲われる。
『…?!』
慌てて下を見ると、岩だと思っていたものがムクッと動きだし、恨めしそうな顔で俺を見ていた。
グーズーだ。
四足歩行で大型の肉食獣。
黄色の目と、口から飛び出した牙が特徴だ。しかし、凶暴なのは乾季の間だけで、雨季は1日のほとんどを眠りに使っている。
きっとここで眠っていたんだろう。
『ご、ごめん!』
俺は慌ててグーズーから飛び下りる。グーズーは相変わらず、俺をじっとりと見ている。
『ごめんごめん。岩かと思って…。その、すみませんでした』
深々と頭を下げると、仕方ねえなぁとでも言いたげに、グーズーはのそりのそりと歩き始めた。
『はぁ…雨季で良かった』
乾季の頃なら、俺は間違いなくグーズーの腹の中。奴の栄養になっていただろう。乾季のグーズーは凶暴過ぎて手に負えない。
それだけに、魔物が多くて困っている土地の人々は、雨季明け頃にわざわざグーズーを捕獲しに来るらしい。そうして命懸けで自分の村の外へと運び、魔物をグーズーに食べてもらうそうだ。タイミングが悪ければ、自分達がグーズーの餌となるのに。
それほどに人間は魔物に悩まされている。遠い昔から、魔物と戦ってきているが、いまだに魔物は絶滅しない。どうやって魔物が生まれているのか、それすらまだ人間には判っていない。
『…よし、行くか』
気を取り直して、俺はまた草を切り分け進んでいく。腰に下げた方位磁石だけが、今の俺の頼り。
俺が【言葉】に出会ったのは、ほんの一月前。
いつもはお調子者の親父から急に『話がある』と呼び出された時だ。
グーズーの特徴を変更しました。
サブタイトル変更しました。