薬草
俺は薬草に目を向ける。
薬草は地面の部分に二枚の葉があり、茎が伸びていてその先にフラスコを逆につけたような形の草だ。
"ブチッ "とフラスコの部分を手でちぎる、ちょろちょろと液体がこぼれ出る。
「ゴクリンコッ!」思わずのどを鳴らす、口で言ったんだけどね・・・。
薬草って位だから傷を治してくれるんだよな?
ヒリヒリする左腕に薬草から出る液体をチョロチョロとかけてみる。
"ホワッ "と青白いエフェクトと共に痛みが引いていく。
うおっすごい痛みがなくなった、赤くなっていた腕も元に戻る。
まだ全部使い切っていなかった薬草が、"パリンッ "と小さな音と共に光の粒に変わる。
一度使用したら残りを置いておけないのか。
さて、疑う余地のない異世界という訳だ。
「ふ〜」
ゆっくりと息を吐き出し眼を閉じ考えをまとめる。
どうやら異世界へ来てしまったみたいだ、だがしかし、日本にいたとしてもあのストレス社会だ。
家族も家庭もない、天涯孤独の身だし、友人知人は多少はいるがたいして問題にもならないだろう。
ストレスに耐えられなくなって、失踪・・・・
まぁ〜あのご時世ならあり得る事だ、大丈夫だろう。
あっなんか寂しくなっちゃう。
でも世の中そんなもんじゃないのかな?
俺の周りにも、天涯孤独は結構いたしな。
日本ではうまくいかなかった人生もこっちで花開くかもしれないし、淡い期待を込めて・・・。
「ココからが俺の物語だ!」
ついつい聞いた事があるフレーズを口走ってしまう。
そうと決まれば人探しだ、この自分の状況を説明するかは別として。
この世界の話しを聞かない事には始まらない。
なぜかこの世界の住人と話しができる確信がある。
そもそもポップに薬草や杉の木と出るのだ。
思いっきし、日本語だし、通じないと考える方がおかしいだろう?
異世界特有の修正が入っているのかもしれないが、分からない事をグダグダ考えるのは性に合わない。
拾った人生だと思って、楽しく生きよう。
早速辺りを警戒しながら歩き出す。
それにしてもすごい森だな〜神秘的ですらある。
物ののけ達の住む森みたいな感じだ、カタカタするやつが案内してくれないかな〜。
遠くの方から獣の鳴き声が聞こえてきたり、木の上から何かが飛び立ったりでその都度体が”ビクッ”となってしまう。
完全にビビッている。
しばらく歩くと森から林に変わってきた、空が見え太陽の日差しが目にまぶしい。
うわ〜太陽の横にもう1個何かあるね、月っぽくないけど・・。
ちょうど小高い丘の切れ目だったのか、遠くの方まで視界が開けた。
木々の向こうに煙が上がっているのが見えた。
人がいるかもしれない、逸る気持ちを抑えて、あたりを警戒しながら進むが小走りになってしまう。
あれ?あそこにあるの又薬草じゃないか?
10mほど離れた場所に先ほどと同じ草が見える。
よく見ようと目を凝らして見たら、ポップが出た【薬草】
あれ?触れなくても "目を凝らす "で調べれるんだ。
さっそく回収しておく、先程はフラスコの部分で取って液体が出てしまったから今度は茎の部分から折って採る事にした。
"ポキッ "と心地いい音とともに無事回収成功!
「薬草GETだぜ!!」
自分でも悪い癖だと分かっていても、ついつい聞いたことがあるフレーズを口走ってしまう。
よく周りの人からも注意されたな〜、冷たい視線とか・・・・
とりあえずズボンのポケットにしまっておく。
そのとき後方から物音が聞えた”ヴウゥゥゥゥ−”
恐る恐る振り返ると、なんかメッチャでかいトンボが飛んでいた!
羽を開いた状態で60センチ位ある。
こちらに気付いて飛んで来たのではなく、たまたま通りかかっただけのようだ。
モンスターも何か見えるのかな?目を凝らして見る。
【トンボ Lv3】
やっぱりトンボなんだ・・・。
ここの世界は虫とか動物はいないのかな?全部モンスター?
スライムの強さは解らないが、モンスターにダメージを与えられない可能性が高いのでそそくさとその場から遠ざかる。
特にトンボはこちらに気付かずどこかへ飛んで行った。
"ホッ "と胸をなでおろし、先ほど煙が上がっていた方向へと歩き出す。
30分ほど何事もなく進むと・・・・
「よかった道だー!」
道といっても人や動物が歩いて踏み固まった土の道だ。
その場にへたり込んでしまう。
歩いた距離は大した事ないが、やはり警戒していた分、神経をすり減らしていたようだ。
ふーと大きく息を吐き一息、道の先に目をやると、先ほど見えた煙と煙の元に 5mほどの壁に囲われた町がある。
うおー!町だ、町がある!!
ほとばしる笑顔、勢いよく立ち上がり、町に向かって走り出す。