Sunny Hills
仕事を終えて会社を出ると、ビルの合間に真っ赤な夕日が落ちてゆくのが見えた。風景は赤茶けたセピア色に染まり、通りを歩く人の顔はシルエットだけ。
ネクタイを少し緩め、中心街から少し離れた路地を行けば、なじみの小さなバーがある。そこには、そそっかしくて気の置けないバーテンダーがいる。俺はそいつと野球や女の話で盛り上がるのが好きだった。
今日もぶらりと店に顔を出した。
店は脂っぽさと酒や煙草の染み付いた臭いが入り混じってる。俺はカウンターに座るとバーテンダーに一杯目のビールを頼んだ。店内には他に見知らぬ客が二人いるだけで静かだった。静かな都会的音楽が流れていたけれど、利いてるのかわからない空調機の音がその音楽を邪魔するように音を立てていた。
不意に店のドアが開き、女がひとり入ってきた。連れがいるわけでもなさそうだ。
俺は本能的に軽く微笑んだ。女も微笑み返すと、
「横に座ってもいいかしら?」と言った。
「もちろんさ」そう言った後、俺はビールのおかわりを注文した。
女はジントニックを注文した。
こういう場面は考えられるのは二つのパターン。ひとつは、ドラマのように夢みたいな素敵な出会いの場面。もうひとつは、身も凍るような秘密を抱えた女との出会い。さぁ、どちらだろう。
取り留めのない話をしながら、俺は女の出方を見ていた。だが、調子に乗りすぎてビールの後のバーボンが効いて来たようだ。女は相変わらず顔色一つ変えずカクテルを飲んでいる。
「やっぱり覚えてないのね?」と女は言った。
「何を?」俺は回らない頭で考えた。
「私たちが前に出会ったことを」女は呆れたように笑った「前にこの店で私達会ってるのよ。そして一夜を共にしたのよ。あなたはひどく酔っていて、きっと覚えてないだろうと思ったけど」
「そうだったのか・・・。どうやら今夜のことも明日には忘れていそうだよ」
「そうね。いいわ、また会えるから」彼女はにっこり笑うと「私は記憶にない女なのね」
気が付くと、店の外はすっかり夜がふけて、街路樹の葉が街灯に照らされて灰色に光っていた。何杯めかわからないバーボンを開けると、俺は女と記憶にない街の中に吸い込まれていった。




