第九話
心なしかレフィーユは嬉しそうにしているのを見ていたセルフィだが、
この間にも、何度もレフィーユとセルフィが指示を出していた。
その心境をレフィーユは察した様子だったので、セルフィは聞く。
「余裕があるのね?」
「ふっ、だてに二つの学園治安部リーダーを務めてたワケではない」
その余裕はセルフィに先手を取らせる余裕である。
「アルファ、迂回しながらH地点に制圧して…」
「では、私はHに6人ほどおこう。
そして、I地点に二部隊、防衛に当たった二人を合流をさせてみるか?」
「ベータ、敗走した人からIに走って回復、防衛。
残存はそのままKを攻撃しなさい」
「良いのか?
ベータの部隊は確か、二人ほど相手をしていただろう。
一人で相手をしているのか、分散して相手をしているのか知らんが、攻勢に出るのは望ましくないぞ?
Kの防衛部隊を二名、E地点の攻めに向かわせる事にしてみるか?」
「ふん、ガンマ部隊がそこで回復しているのよ。
そこから…」
「カウンターとばかりなら、H地点の五人が…」
脳裏上で、そして、言葉が、妹の表情を曇らせる。
「ふむ、アルファ、ベータと部隊分けして、指示を出すのは良かったがな」
「ふん、まさか個で指示を出して、機動力負けするとは思う?」
「確かにまとまって動けば動くほど、このゲームは優位に働くのは理解できたのだろうな。
しかし、あまりまとまって動けば動くほど、機動力に差が出るのもイメージ出来ただろう?」
「かと言って、バラバラに動けば命令系統に支障を来たすのを知っていたわよ?」
「確かにそれを避けるために最小人数で部隊分けしたのは見事だった」
セルフィだからだろうか、戦ってみて徐々にレベルを上げられていた感じがしていたのがわかった。
レフィーユ側の防衛ラインの重要拠点を奪えはするが、軽々と奪い返される。
形勢は有利そうに見えて不利だった。
悔しさを感じ、姉を見る。
だが、
セルフィは違和感を感じた。
姉の表情が、明るくないのだ。
自分が優位だというのに、もっと他の事を気にしているような感覚を妹として感じた。
理由はすぐにわかった。
「どういう事だ!?」
珍しいレフィーユの驚き、
「どうしてあんな人数で取り囲んで、逃げられた!?」
レフィーユからは誰なのか、一切名前は出なかった。
しかし、何となくだが…。
誰なのかわかった。
セルフィにしても、あの包囲からどうやって逃げられたのか気になったので聞いてみた。
「何でも二名を倒したトコロで、アラバは回復のために自分の拠点に戻ったらしい」
「それじゃ、前と変わらないでしょう?」
「当然だ、その対策に制圧のための人数だ。
しかし、あの男は人数の多さで負ける拠点を選んだ。
イワト達は制圧をしなければならなくなったんだ」
レフィーユは腕時計を見せるので、セルフィは気づいた。
「逃げたら自動的に負けるルール」
「逆を言えば、勝負を挑まざる負えない状況に持ち込めば、追尾も出来ないという事だ。
さらにアラバは自陣に下がりもしたのだろう、そこで見失った」
姉は初めて悔しそうな顔を見せる。
「さすがアラバだな…」
しかし、どことなく嬉しそうな顔だった。
セルフィは呆れてはいたが、アラバに通信を入れようとする。
だが、そこでそれをやめる事が出来たのは、その男が姉さんに対して、戦う気だったからだった。
「姉さん、勝負しない?」
「セルフィ、お前の持っているカードは一枚だけだぞ?」
これは焦りだったのが、わかった。
「…負けるのが、わかってて挑むのか?」
姉は自分との勝負する事を避けたがっている。
「別に構わないでしょう?」
この勝負で自分が負けたとしても、レフィーユはカードを消費する。
セルフィが勝負を挑んだ。
これでどんな状況であろうと手札を回復させるには、一分かかる。
その一分が、姉はあまりにも怖いのだ。
「別に構わないでしょう?」
セルフィは懸命に普通に対応する。
こんなにも焦る姉を見るのは、初めてだったのもある。
「ほら…」
当たり前の敗北。
確かにセルフィは負けはした。
だが、どうしても負けた気はしなかった。