第五話
「今は…ですか、昔はいたのですか?
そんな話、聞いた事がありませんが?」
「ヒオトよ」
「ヒオトさんが?」
「私も聞いた限りでしか、知らないけど…。
まあ、今は目の前の勝負に取り組みましょう。
いい案があるなら、遠慮なく出しなさい。
出し惜しみしたら、間違いなく敗北を呼ぶ相手だというのを忘れないでよ」
そう言って、地図をアラバとセルフィが眺めなおす頃。
そのヒオトはレフィーユの隣にいた。
一歩下がって、どちらかの隣。
それが、かつての自分がいた立ち位置。
おかげで昔の事を、思い出してしまうのは無理も無い。
「私は、間違って、こんな事を言ってはいない」
私がレフィーユ・アルマフィの声を始めて聞いたのは、こんな一声だった。
名家、アルマフィの血族にして、ご令嬢、ただでさえここに入学しただけでも話題になった人が、治安部に入部したいと言って来たのだ。
「で、ですが、もしもの事があっては…」
当時の顧問も、本来なら治安維持に必要な人材が確保できると言うのに、さすがに難色を見せている。
彼女とて自分の事をわかっていたのだろうか、それらの意図を組んで毅然と答えた。
「私とて『もしも』というのが、怪我だけでは済まない意味合いがあるのを知っていて、こういう事を言っているつもりだ」
年上相手に堂々と言い、当時も一歩も引かないのは相変わらずだった。
そんな彼女に、私は…。
「じゃあ、腕前を見るという意味で、一回、私と模擬戦を行うと言うのはどうですか?」
そう提案していた。
その時、まだ彼女の腕前を知らないとはいえ、顧問はまだ困った顔をしていた。
そして、彼女は…。
「モギセン?」
キョトンとして、私を見ていた。
そして、思い付いたように答えた。
「ああ、手合わせの事か…」
とんでもない、お嬢様だ。
そう感じたのは私だけじゃないだろう。
周囲にそんな印象を与えていたのではないだろうか?
おかげで私は、注意を込めて忠告する。
「一応、聞いておきます。
ここの学園の『手合わせ』は、実際、自分の東方術を使う事を知ってますよね?」
「知っている、ここの名物といえば聞こえが悪いかも知れんが、特徴でもある訓練風景と聞く。
実戦に限りない訓練を行うが故、ここの部員は高い戦闘力を有している事も…。
戦乙女だったか?」
そんな会話の中、私は開始線に立ち、エストックを作り上げる。
彼女はというと、白い手袋を付けていた。
まだ身なりを気にするのかと思いもして聞いてみた。
「じゃあ、この色違いの制服を見て、わかりますね?」
そこでようやく彼女は、サーベルを作り上げて言う。
「わかっている、そうでなければ意味がない」
今にして思えば、ヴァルキリーを見て、意気込んで来たのは、犯罪者を含めて、彼女が最初で最後だったと思う。
その時の下馬評は、私の方が上だっただろう。
それだけヴァルキリーの戦闘力は高く、その推薦を受けて合格したのだから、私は誇りにもしていた。
「始め!!」
顧問の号令と同時にブザーが鳴る。
ゆったりと構えたレフィーユは余裕を持って言う。
「行くぞ?」
なめて掛かっていた。
彼女も、それを感じていたのだろう。
前の発言は、私に予め先攻を予測させた一撃は、とても鋭く、とんでもない重みがあった。
さらに危うく武器を落としかけるのが、災いする。
「ふんっ!!」
お腹に鈍い痛みが走る。
当て身を入れられたのだけは自覚出来たが、そこから見事に転ばされていた。
荒々しいが、それには雄々しさすら感じさせる戦法。
そこには品の良いお嬢様なんていなかった。
「まだ、やれるようだな?」
そんなレフィーユの言葉は、私に回復する時間を与えているのだと自覚できた。
私にしても戦うための訓練を受けていたので、ダメージに対して回復力はある。
頷いては見たモノの…。
この時、わかっていたかも知れない。
この人に実力では、決して勝てない事を。
だが、自然な動作だった。
「もう一度、お願いします」
私はこう答えていたのは、今でもはっきり覚えている。
屈辱からではない。
これは意地でもある。
「はあっ!!」
今度は先制を仕掛けるが…。
だが何度、この後試したのだろう。
「もうこれくらいにしておけ?」
彼女に気遣われてしまうのも無理もない。
認めざるおえない実力差があった。
しかし、彼女は言う。
「どうやら入部は無理なようだな?」
サーベルを眺め、彼女はこうも答える。
「家柄など、そんなモノに縛られたくはないのだがな。
ふっ、どうやら私を縛るモノは、相当複雑らしい」
その時、初めて悲しい顔を見た。
私は自然と動いていた。
「待ってください」
……。
そうしてヒオトは回想をやめて、レフィーユに言う。
「隊長」
かつての役職を口にして言う。
「絶対に勝ちましょうね?」
「当然だ。
負けてやる気など毛頭ない」
地図を眺めるレフィーユの頼もしさは、昔と変わっていないが、彼女は呆れてヒオトに言った。
「いい加減、気を静めてくれないか?」
それを人は、なだめに掛かると言う。