第三十四話
「治安部のリーダーとして、こんな事を言うのは不謹慎かも知れん。
だが、何だろうな。
あの男は、いつも無傷で帰ってくる」
レフィーユは身を深く沈め、思い浮かべる。
当然、今までの事だった。
その時は、正体を知らなかったが故だから、その男はいつも誘拐されては帰ってくる。
「普通は考えられない事だ」
彼女はその事に笑みを隠せないでいた。
「確かに、あの交渉力の高さは認めているけど…」
「だが、重要なスキルだと思わないか?」
レフィーユは思いつきだったが探りを入れてくる、この妹には良い理由になるだろうと話す。
「それが犯罪組織内では有名な話なんだ」
「姉さんの知り合いだからという理由が、良くも誘拐される理由だと思わないの?」
「確かに他の者の見解というのがある。
だが、アラバが一度でも、それを鼻に掛ける事があったか?」
「ふん、そんな事をしてしまえば、命の危険があるでしょう」
セルフィの皮肉は『ない』という意味合いでもとれた。
「私にしても責任はないというのは、いかんのだろうがな…。
アラバのその態度が、他の組織にとっても、メッセンジャーとしても有能なのだろう」
そう結論づけ、湯船から上がったレフィーユは、こうも言う。
「そして、あの男のそばには、いつも被害者がいる」
「どういう事?」
「これもアイツの大きなスキルだという事だ。
私が…」
「何、途中で?」
「いや、何でも無い」
背中越しだが、微笑んでいたレフィーユは、仕切り直すように答えた。
「だが、明日もアイツの警護を頼む」
「あら、バイトの予定はないはずだけど?」
「いや、嘘なのだろうが『急なバイトが入った』らしい」
「姉さん、良くも半ば公務の人間に、おかしい前置きで話せるわね?」
「あの男は、その半ば公務の人間のリーダーに、白々しさ伝わってくるほど話してくる男だよ」
「大したご身分な事ね…」
そう言ってセルフィが、次の日を迎える。
そして…。
「これが、アンタのアルバイト?」
アラバはセルフィに睨まれていた。
「浴びせる眼光が、お姉さんそっくりですね?」
「ふん、その程度の皮肉は、ここに免じて許してあげるわ」
視線で示すその先は、病院だったのが手伝っているらしい。
「それで何か悪くしたの?」
「いえ、お見舞いですよ」
「お見舞い…まさか!?」
セルフィは一旦、思い浮かべ驚くのは、アラバにとって予測の範囲だった。
「ここ、ハマダさんが入院してる病院らしいのですよ」
「アンタ、どこからそんな情報を?」
「メンバーの人から聞いたのでね」
『行きますよ』と促されるが、セルフィが足を止めるのも無理も無い。
アラバは肩をすくめて答えた。
「おそらく、教えてもらえなかったらしいですが、治安部を警戒している人たちに、入院先を聞いても答えるワケないでしょう?」




