第二話
そうしてアラバは、イワトへの問いかけにぼやきが混じっていた。
「ところでイワトさん、学園交流会って多すぎはしませんか?」
「そんなのワシに聞くなや」
「旧世紀には、こういう学園行事は年に一度と決まってましたのに、どうしてこの時代になって増えたのか、疑問に思いましてね」
この学園交流会、今の時代に至っては度々あるので、ついぼやいてしまうが、その返答はレフィーユが答えた。
「では、お前は一年に一度や二度程度で『交流』が成立すると思うか?」
「まあ、しませんね?
ですが、今の時代、携帯やネットで人との繋がりなんてもてるとは思うのですが?」
「だが、結局、大事なのは直に話す事が大事だったのは、旧世紀が立証している。
そういう事に時間も掛ける事、それが治安部にとっては、治安維持活動において意思の疎通を図れる大事な行事でもあるのだから。
少しは真面目に取り組んでほしいものだ」
彼女自身、アラバの正体を知っているためか、彼を咎めるのはこの程度だった。
実際、この交流会、アラバにとっては迷惑なのか、警戒しているのか、こういう日の前日には、自分が尻尾を出さないために余念は無く。
「最近では、携帯を暗証ロックをする様になりました」
「それを警戒というのか?」
時折、大組織の幹部と会話をする事もある、アラバの携帯がロックが掛かってなかった事実に、レフィーユは呆れをみせるなか。
見慣れたポニーテールが揺れる。
「ふん、二人とも相変わらずのみたいね?」
話の内容が聞こえない距離にいたセルフィは、姉であるレフィーユに勘ぐりながら挨拶をしていると、やはりアラバの表情に気づく。
「露骨に嫌そうな顔をする人ね?」
「すいませんね、私としても交流会を楽しみたいのですが、こういう顔をせざるおえないのでしょう」
「毎度毎度、お前の顔が時々、凄まじくなるのは、どうやっているのだ?」
「ふん、本日は劇画風味ね。
気持ちはわからないでもないけど」
だんだんと険しくなるアラバの顔、ある人物が原因だった。
先ほど、セルフィが挨拶を済ませた辺りから、アラバに向かって、睨み付けてくるヒオトである。
「本気の殺意を持った人間の視線が、対象物に近づくとどうなるか、研究所に持ってけばいいデータがとれそうね」
「それは私としても、リスティア学園の人達にはどうも、自分が不人気だと自覚はしているのですがね。
今日は格別じゃないですか?」
「まあ、これが原因でしょうけど…」
そう言って、セルフィは仕方のない原因であろう資料を取り出していた。
「姉さん、言われたとおり、私たちの地域の地図の資料。
言われた通り持ってきたわよ」
「ふむ、ご苦労。
ようやくこれでお前たちを、もてなす事が出来る」
レフィーユの言う『もてなし』とは、学園交流会における催し物の事だった。
原則上、交流会で招いた側は、招かれた側に対して、何かしらのイベントを催し歓迎しなければならなく。
イベントと形成上、基本的に勝負事にしてしまえば簡単に作りやすい形勢もしており。
「負けませんから」
超至近距離でのヒオトの気持ちは察しいただけるだろう。
「まったく、こういう時に事件でも起きてしまえば、たちまち中止になるというのに、どうしてこういう時に活躍しないのでしょうね。
魔法使いさん?」
まあ、そんな悲痛な叫びを上げるアラバ本人である。
「ふっ、たちの悪い、ジョークだな」
正体を知る、二人の間の会話にしか伝わらないジョークだった。
「それで、これが今回の『催し物』と関係がある事はなんとなくわかるけど。
地域間じゃ、そこまで離れていない距離なんだし。
この程度なら、私たちだけじゃなくて、みんなでも、ある程度は把握出来ているのだから。
わざわざ、三日前更新の地図を要求する事はなかったんじゃないの?」
「だが所詮は『ある程度』だ。
日常というのは、常に変化する。
今回の催し物は、そうだな…。
みんなにその地域の把握を目的とした。
対抗制圧戦をしてもらおうと思う」
あいも変わらず姉の自信のある態度と、どれくらいの企画でこのイベントが行われる事になるのかを、ここで初めて聞いて、セルフィは呆れともとれるような態度で言う。
「ふん、まさか二校の間の距離を利用して、制圧戦をするなんて前代未聞だわ」
「実際、これくらいの規模でやらないと、地理の把握など出来はしないという事だ。
だからこそ、お前たちの有利な点も奪わせてもらう事にした」
「有利な点?」
ヒオトはにらみ付けながら聞いてきたが、気づいたのはセルフィだった。
「戦力的な事?」
「ふっ、それもある。
まず、お前たち、リスティア側には、白鳳学園に留まってほしい。
それが今回、お前たちにとっての本陣となる。
逆に私たち白鳳側は、リスティア学園に留まって、そこを本陣とした制圧戦を行う。
それが防衛の有利を均等にする」
「レフィーユさん、聞く限り、それは私たちにとっても有利になるとは思いませんが?」
そう誰もが思う疑問を、ヒオトは制す。
「貴方は黙っててください。
今は隊長が話しているのですよ」
睨み見上げながら。
いい加減、見かねたセルフィが、ようやくヒオトを引き離していると、レフィーユはようやくアラバの問いに答えた。
「アラバ、あくまで私は平等な勝負をしたいだけだ。
ヴァルキリーとお前たちとでは、開きがありすぎるのは理解しているつもりだ」
「ふん、重りを付けて走れとでも言うの?」
「まあ、セルフィさん達でしたら、苦もなく…ああ…」
セルフィがヒオトを解放したおかげで、再度、睨み上げられる。
「じゃあ、何ですか、男の貴方は私たちに適わないから、手加減してほしいというのですね。ふざけないでくださいよ。重りなんて付けたらどれだけコケやすくなると思っているんですか、ずぶの素人が軽々と口にしないでください」
漫画だったら、一コマ、びっちりと埋まっている小言をささやかれ。
「怖いです、怖いっすよ」
漆黒の魔導士がおそれおののく。
そんな様をレフィーユは眺めながら答えた。
「そんな事はしない。
単純に勝負の方法を運に委ねるだけだ」
「運に委ねる?」
そうして、イベントが開催されようとした時、みんなが驚くのも無理もない
「じゃんけんだ」