第十話
「良し、潜入完了、というより、到着でしょうかね?」
アラバは、リスティア学園の校門前で背伸びをわざとらしくしていると、
「ここまで進入を許すとはな?」
レフィーユが駆け込んでやって来た。
「やっぱりと言いたいですが、ここまで息を切らせて、走って来るとは思いもしませんでしたよ」
さすがにレフィーユは、アラバを睨んで言う。
「だ・れ・の・所為だ。
どうやってやって来た。
防衛ラインに穴はなかったはずだ?」
息を整えるついでにレフィーユは、腕時計の地図で配置を確かめていると、アラバは答えた。
「完璧なモノであればあるほど、穴はある。
貴女の妹さんが、言ってましたよ。
ですが、その程度の防衛ラインは完璧だとは思えませんよ?」
挑発された感じがしたのか、レフィーユは顔をしかめて答えた。
「だったら、お前が指揮をとれば良かった」
「いや、さすがにこの戦法には私も、抵抗がありましたからね。
リスティアの治安部の人たちは、能力面ゆえにプライドの高い人が多いですから。
この作戦を絶対、受け入れる事が出来ないでしょうね?」
「お前はどれだけ卑怯な手を使ったのだ?」
彼女は呆れもするが、興味津々だった。
だが、彼は、
「……」
相変わらず、渋い顔をする。
そんな中を、彼女のこの沈黙である。
「……」
取調べの際にも使われる、レフィーユ・アルマフィのこの威圧、実に重い。
「答えなければ、ダメですか?」
レフィーユの何も言ってないが、実に何も言っている。
「電車を使わせてもらったのですよ」
そして、この回答は、さすがに気まずい。
彼女は改めて地図を確認して答えた。
「卑怯な」
「でしょうね?」
こうなるとアラバ、というより、人は言い訳しか出来ないのではないのだろうか?
「ですが、乗り物を使っては駄目だと、言わなかったじゃないですか?」
「そんなモノは、子供の理屈だ。
それがまかり通ったら、マラソン選手は全員、乗り物使ってる」
ごもっともな意見にアラバは黙る。
するともう一人、走ってやって来た。
「おや、セルフィさん?」
「アンタって、ホントに手段を選ばないわね?」
レフィーユを見て、アラバを見て、セルフィが聞いてきた。
「それで、どうするのよ。
ここで勝負するの?」
その言葉にレフィーユは文句ないのか、カードを三枚取り出して見せる。
「構いませんがねえ…」
対するアラバも、三枚取り出すのだが、
「これで勝って、みなさん、納得しますかね?」
そんな事を聞く。
「お前は、ここまでやっておいて何を言っているのだ?」
「アンタ、勝負する気もないのに、戦法を駆使するのは、礼儀知らずのする事だというのを知っておきなさい」
姉妹で軽く怒られはするが、セルフィはレフィーユを見た。
「でも、姉さん、楽しんでるでしょう?」
「それはそうだ。
相変わらず、予測が出来ない戦法を駆使してくるのでな」
「でも、これ。
私でも、卑怯だと思うわよ?」
『確かに卑怯だがな』と前置きをすると、レフィーユはセルフィの刺さるような視線から逃げるアラバを見て答えた。
「アラバという男が、純粋に立ち向かったとして、私も考えれる戦法は、これしかなかった。
そう考えれば、この男は立ち向かって来たという事だろう?」
「だけど、これで旗を取ってもみんなが納得すると思えないわよ?」
アラバは吸い殻よりも小さくなる。
レフィーユとセルフィとでは感じ方が違っていた。
その証拠にレフィーユはこう聞く。
「アラバ、旗を取る気など全く無いだろう?」
その問いかけにはセルフィは、アラバに目を向ける。
「ですから、さっきから抵抗があると言っているでしょう?
こんな状況下で、勝利を誇る気なんて毛頭ありませんよ」
「ふっ、だがお前が選んだ戦法とは、そんなモノだ。
だったら、私は答えなければならんだろう?」
セルフィを一瞥しながら、なおもレフィーユは言う。
「お前が勝つか、私が勝つか。
その勝負の行方を知っているのは、セルフィだけだというのは、楽しくもなるだろう?」
そう言って彼女はカードを取り出した。
「さて、時間一杯だな?」
それは言わずともアラバに準備をさせる。
誰からかわからないが、不思議とタイミングは一緒だった。
「でも、ねえ、アンタ…。
周囲に人がいたとして、何人かが予想したと思うのよ?」
出されたカードは、グーとパーだった。
「私さ、アンタが、姉さんに対して勝てる姿をイメージ出来ないのよね」
セルフィの罵声は、何を指していたのか。
レフィーユは満悦して、時計を見て答えた。
「残念だったな、アラバ…」
残り少ない制限時間は、レフィーユを歓喜させる。
「諸君、良くやってくれた。
我々の勝利だ!!」
実に力強く、セルフィは肩を竦ませて答えさせる。
「完敗ね」
「いや、私はすでに負けていた。
それを取り返しただけにすぎないさ」
その曖昧な言い方に、
「やっぱり」
セルフィは感づいた様子があったので聞いた。
「セルフィ、気付いていたのか?」
セルフィは深く頷いて、アラバを見ていた。




