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少年の慟哭

やってしまいました。初投稿です。

木造の小さな小屋の中に、20歳ほどに見受けられる青年が一人。

彼は膝を床につき、両手で顔を覆い、うずくまっていた。


青年は自らに問う。

ーー俺はどこで間違った。


青年は自らに問う。

ーー俺は間違っていなかった筈だ。そう、マチガッテナドイナイ。


ならば、これは何だ?そう青年は自問する。

答えは無い。


辺りは、とても、とても静かで、とても暗くて、まるで其処には何も無かったかの様に静まり返っていた。


『無』


その言葉が一番に脳裏に浮かぶ。

まるでその概念だけが小屋に存在しているかの様に青年は感じた。



青年は想う。つい先程まで目の前に居た女性のことを。


彼女は、とても良い女性だった。


青年が間違いを侵した時は、優しく窘め、助けた。青年が、本当ならば届きそうにも無い夢を追いかけていても、ソレを決して嗤おうとはせず、応援してくれた。そんな女性は、青年の一番のパートナーであり、また愛しいヒトでもあった。


その女性は確かについ先ほどまで目の前に居た。確かに居たのだ。未だに、この手が、この目が、この体が、この心がハッキリとその女性を覚えている。


しかし、今はそこには、誰も居らず、何も無い。存在するのは、青年と『無』のみ。


青年の頭にははっきりと残っている。少女が、自分の体が小さな光の粒になり、消えていきつつあるにも関わらず自分に向かって微笑んでいたことを。そのとき、少女が遺した言葉のことも。


ーーー「『世の中に偶然なんて無い』、確かにその通りだと思うよ………だったらね?いや、だからこそかな、私は必然を起こそうと思うんだ。そう思えるんだよ………うん、私は約束する、うん、礼一君に誓うよ。………………『また会おうね、絶対……』」



彼女はその間、消えゆく自らに一瞥もくれず、礼一の顔を見つめていた。

そう、まるで自らの魂に刻み込むかの様に。






青年の足元には、目を凝らさねばハッキリとはわからないほど精密な幾何学模様と複雑な文字が有る。黒い床に、白い塗料で描かれたソレは、何処か背徳的な雰囲気を放っていた。


青年は足元に目を遣る。そこには自らの持てる知識、力、資材、全てを懸けて描いた陣がある。

狭義には『錬成陣』、一般的には他の物もひとまとめにして『魔法陣』と呼ばれる、この『世界』でも少数の人間しか扱うことの出来ない物である。更に、この様に直径が3メートルを超えており、かつ、ここまで精密な陣を扱う事の出来る生物は、この世界広しといえども、この青年だけであろう。


そして今、この青年の黒い目は、絶望によって、この空間にある何よりも昏い色を放っていた。


そして青年は、唐突に、胸の凝りを絞り出すように言葉を吐き出す。


「なんでだよっ、なんでこうなるんだよっ、こんなの無いだろ。ないだろっ!!あんまりだ、あんまりだ……」


もはや、意味や脈絡など無く。只ひたすらに言葉を吐く。それは、幼児の癇癪のようにも、また人生に絶望した大人の独白の様でもあった。


青年はがたっと膝を地面に落すと、静かに口を開く。


「なあ、俺はこれからどうしたら良いんだよ?なあ、教えてくれよ……………教えてくれよっ!!割に合わないだろこんなのっ!!可笑しいだろこんなのっ!!………畜生。畜生。畜生ぉ!!!何でこうなるんだよ!俺は聞いてねぇぞ!!聞いてねぇよ!!ねぇよ!!」


段々と、激しくなる青年の口調に反し、その瞳はさらに昏くなってゆく。嗚咽混じりに、誰に語りかけるでもなく叫ぶ少年の目は、哀願と絶望が入り混じった『黒』く『昏』い色をしていた。


青年はまた口を開く。


「なんでお前が死ななきゃならねぇ?何で?何で?なんでなんだよ?誰か答えてくれよ?なぁ?なんでなんだよ?俺はこんなこと望んじゃいない。俺はただ自分の家に帰りたいだけなんだよ。なのになんで?何で?何で?何で?……………畜生!!畜生!!畜生ぉ!!」


もはや慟哭と言うにもおこがましい程の絶叫が周囲に響き渡る。

しかし、それに応えるものはなく、青年の慟哭の声以外の音が響くことはない。







一体、どれ程の時間が経ったのだろうか。


青年は慟哭し続けた。そうしても事が変わらないことは本人も良く分かっている。胸を駆け巡る痛みが、脳を蝕む熱が、感情から来るものなのか、それとも度重なる慟哭と絶叫によるものなのかも分からない。



ーーこうしている内は、まだ彼女が生きているかもしれないという気持ちで居られるから。

ーーこうしている内は、心が現実を受け入れなくて済むから。

ーーこうしている内は、彼女がいない現実というものを噛み締め無くて済むから。



そんな事が頭の片隅に浮かぶも、それもまた、感情の荒波と自らの喉から吐き出される音で掻き消される。


彼の絶叫と慟哭は続く。








更にどれだけの時間が経ったのだろうか。


暗く静かだった青年の周囲は、朝日と鳥のさえずりによって僅かな明るさを取り戻す。四角く綺麗な透明な窓硝子から朝日が差し込み、未だに初々しさを感じさせる木製の壁から仄かに木の安らかな香りがふわりと寄せる。


激情に駆られていた少年の心には少しずつ静けさが戻ってきていた。



まだまだ、彼の心が晴れることはなくとも、その激しさは随分収まり、静かに涙を流すのみとなっていた。



少年の涙はまだ、途切れない。








日はもう少年の頭上を越し、空はもうそろそろ茜色に染まろうとしていた。少年の瞳は暗くなってゆく空とは対照的に、少しずつ、ほんの少しずつではあるが、光を取り戻しつつあった。




青年は静かに立ち上がる。


青年は、羽織っていた白いコートを脱ぎ捨て、黒いシャツ一枚となると、木で出来たドアノブを静かに捻り、呟いた。


「ごめんな………ごめんな、リオ。俺はお前に何一つしてやることも………恩を返すことすら出来なかった。」


そう呟く彼の頬には一筋の涙。そこには、これまでとは違う、純粋な悔恨の念が宿っていた。





青年は音の出ないようそっと静かに扉を開けると、一歩、二歩、と自らが夜を過ごした小屋に背を向けて歩みを進め、四歩目で立ち止まる。そして、自らが出てきた建物に向き直り、呟く。


「また会おう、リオ。」


そう言い切った青年の胸には、これだけの言葉では到底伝えきれない思いと、想いがあった。しかし、それを全て言い切ってしまうのは、短い言葉でしか言葉を残すことができなかった彼女に対してアンフェアである、と感じた青年は、あえて胸中を言葉にせず。ゆっくりと小屋に背を向け、歩き始める。


彼は、一歩、また一歩と足を動かす。



彼のその足取りは、決して軽いものではなかったが、しっかりと規則正しく踏みしめられた足跡は、その確かさを物語っていた。


どうでしたでしょうか?

文法的におかしいとこどれくらいあるんだろ……


もしかしたらこれが年内最後の投稿になるかもしれません

できるだけ頑張ります。



<感想、誤字脱字、違和感、文法的な間違い、その他何あありましたら感想欄に書き込んでいただければ幸いです>

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