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六喰の鍵師  作者: 長月 こたつ
魔人族の襲来編
49/63

49.黒と赤

「それが魔族化か」

「おうとも!お前ら平凡な人族にはない、崇高な魔人族だけに許された力だ」

「平凡な…ね」

「そう、平凡な人族!数だけは立派なただの人族が、地上界にのさばってるのはおかしいからな。プルフラス様のためにも、とっとと死んでくれや!」


 魔族化により、更に肥大化した肉体を軋ませ、魔人族が構えた。


「…秘鍵」


 対する紅蓮は、二つ目の鍵を握った。

 それを見た魔人族は目をギラつかせ、纏っていた剣呑な雰囲気が更に増す。


「お前を殺して、次の保持者に移させるか!」

「出来れば良いな」


 お互いの鋭い視線がぶつかる。


 魔人族は魔族化することにより、その性質が魔物寄りとなり、鍵は形を変え身体に影響を与ている。

 魔物も鍵は有している。

 ただ、魔物は鍵としての形を捨てる事により、その姿と身体能力、ひいては鍵を鍵の形として使用せずに精霊魔法(・ ・)を行使しているのだ。


 それは、魔のモノにのみ許された力。

 それはかつて生息していた動物と、魔物に優劣を付けた力だ。

 突然変異なのか、それが自然の進化だったのか…動物の中から鍵を身体へと纏ったまま生まれ個体が出始めた。

 魔物は鍵が形を成す事を知らない。それを理解出来るほどの知力が備わって居ないからだ。

 元は動物、それはどうしようもない。

 ただ精霊魔法を使えることは本能なのか遺伝子からか、魔物は初めからそれを知っていた。


 魔物は直ぐにその勢力を伸ばした。

 当たり前だ。噛む引っ掻く等しか知らない動物が、精霊魔法を使う魔物に勝てるはずもなかった。

 動物は絶滅し、魔物がその位置を取って変わった。


 だが魔人族はどうだ。

 魔人族には理解出来る知力があり、それを成すだけの力があった。

 魔人族に出来て、人族には出来ぬ方法。魔物には出来て、動物には出来無かったこと。

 魔人族が人族を下位に位置付けるのは、そう遅くはなかった。


「グラアァァァ!!」


 魔人族は裂帛の気合いを上げ、限界まで圧縮していた筋肉を爆発させ直進する。

 それを迎える紅蓮に焦りはない。


紅炎(プロミネンス)


 紅蓮の持つ秘鍵より紅い気体が噴出した。

 魔人族へ向かって吹き出た気体は、行く手を塞ぐように展開。


「グッ…ガアァァァァ!」


 だが魔人族は一瞬顔を歪めただけで、その中を強引に突き抜けた。

 その代償は小さくはない。表皮に生えた毛は焦げ微かに皮膚は焼け爛れていた。

 しかし、それだけだった。

 その事に紅蓮は驚きを禁じ得なかった。紅炎は普通なら触れれば燃えるどころか、熔けてしまう程の高温を放っているのだ。

 皮膚が爛れるだけで済むと言うことは、魔人族がそれだけ耐熱に長けている事が分かる。


 肌が少しひりひりするが、これしきならば耐えられる。魔界の炎に比べれば生温いと、紅蓮との距離を詰めた魔人族は、肥大化した腕を引き絞る。


「業火烟!」


 大きな拳が業火を纏い、紅蓮へと迫った。

 紅蓮は身体を半身にずらしながら、敢えて自ら一歩踏み込みんだ。拳を躱しつつ、魔人族の背後を取ろうとしたのだ。


「っ!?」


 だが魔人族も、そう易々とは背後へは通してくれない。空振る拳が紅蓮の横を通りすぎた時、纏っていた業火の範囲を一瞬広げたのだ。


 紅蓮は咄嗟に腕をクロスして顔を庇い、大きく後ろに退避した。その判断が早かったため、腕が微かに赤くなる程度の被害ですんだのだが、魔人族は攻め手を緩めはしなかった。

 


「ガラァァァッ!」


 体勢を立て直したい紅蓮は、一旦距離を取りたかった。だが、魔人族は逃がすまいと、執拗に紅蓮を追った。

 精霊魔法を使う隙を与えまいと、魔人族は次から次へと攻撃の手を休めない。

 絶え間なく繰り出される猛追、紅蓮は回避行動を優先せざるえない状態を余儀なくされていた。


 炎が効きづらい魔人族をいかにして始末するか、紅蓮は魔人族の攻撃を全て躱しながら考えていた。


 紅炎よりも更に高火力で焼き払うか。だが紅炎も効いていない訳ではない。回数を重ねれば、それは魔人族の身体を蝕んでいくはず。しかし、あまりこの魔人族一人に長い時間構っている訳にもいかない。やはり高火力が一番適切か、と紅蓮は朧気ながらも答えが出ようとしていた。


 だがこうも張り付かれては、精霊魔法を使えない上に、高火力での反撃は自身にまで被害が及ぶ可能性があった。

 それだけではない。こうも立て続けに攻撃を繰り返されている中では、上手く精霊力を込めることは難しい。


 しかし、攻めあぐねる紅蓮の下に、解決策の方が自ら飛び込んできた。


『紅蓮!相手代わってくれぇぇぇ!』


 頭のなかに響く声。それは常闇からの念話だった。


『ちょうどいい所に来たな。こっちも面倒くさいのに絡まれているところだ』

『ぎゃははは!こっちも遠距離の面倒い奴だ』

『こっちは完全にお前向きだ』

『なに!?代われ!』


 常闇は今も続く不完全燃焼な戦いに、じわじわと煮え切らない思いを募らせていたのだ。


『タイミングは?』


 魔人族の厳しい攻撃に晒されながらも、紅蓮の声にはからかうような、笑いを堪えるような節があった。


『いつものやつに決まってんだろ、っが!』


 常闇も飛んでくる土の塊を躱しつつ、紅蓮の念話に答える。


『場所は?』

『派手にぶちかます!それで確認しろ!』

『わかった。十秒後に始めるぞ』

『とっととやれ!』


 口悪く返す常闇だったが、その声は期待に溢れていた。

 この鬱憤をぶつける相手がすぐそばにいる。下がりきっていた常闇のボルテージが上がっていく。


『始めるぞ』


 紅蓮はその言葉と共に、準備を始める。


 十秒前。

 思惑を魔人族に気付かれぬように、何食わぬ顔で攻撃を躱し続ける。

 五秒前。

 ゆっくりと、だが着実に紅蓮は精霊力を少しずつ鍵へと送り始めた。

 二秒前。

 一気に精霊力を解放する。

 魔人族もそれに気付き、攻撃が激化した。

 一秒前。

 紅蓮は大きく後ろに後ろに跳躍し、魔人族との距離を測る。魔人族は離されまいと、紅蓮に追い縋るが、魔人族は間に合わなかった。


炎の仕切り(フレイムカーテン)


 目前に炎が遮るように展開する。

 だがそれは魔人族からすれば気にする余地もない、薄く広がっただけの炎だった。


「気でも狂ったか!」


 意味の無いことをする、と魔人族は紅蓮を嘲笑った。

 そして、視界を遮るだけの炎を意図も容易く突き抜けた。


「はあぁ?」


 だが魔人族の口から漏れたのは、呆れと落胆の声。

 炎を突き抜けて魔人族が見たものは、背を向けた紅蓮の姿だった。

 これだから人族は、と魔人族は軽蔑の眼差しを向けながらもその背中を見詰める。

 黒いドームの様な場所へ向かおうとしている紅蓮との距離は、まだあまり離れてはいない。


 ここまできて、逃がしてやるものか。

 背を向けて走る紅蓮を追おうとした魔人族だったが、それとは逆に、こちらに向かってくる黒い影を捉えた。


「ぎゃはははははははは!てめぇかあぁぁぁぁ!」


 その影は嬉しそうに笑い、魔人族に向けて疾走する。

 変な奴がきたな、と魔人族は迎撃する構えを取った。


「おらぁぁっ!」

「グラアァァァ!」


 正面から飛び込んだ常闇と魔人族の拳がぶつかった。

 にやりと笑う常闇に、魔人族は怒りに満ちた顔に変わる。


「てめぇやるなぁ」

「人族が大口を叩くなよ!」


 互いに近接戦闘を得意とする者同士、次の行動は決まっていた。


「っらぁ!」

「ガァ!」


 ほぼ同時に繰り出された拳は、それぞれ相手の頬を捉えた。

 常闇の仮面が軋み、魔人族の歯が欠ける。


「グガラアァァァ」


 押し負けたことを悟った魔人族は激昂し、我を忘れて拳を振るう。


「業炎打!」


 だが放たれた拳は、下から突き上げた常闇の手によって上へと逸らされる。


「ぎゃははは!楽しかったぜっ!」

「嘗めるなぁぁぁ!人族風情があぁぁぁ!」

「黒破!」


 自分より格下の人族に負けるわけがない。先程の人族の攻撃もたいしたことは無かったのだから。

 魔人族の自信は慢心へと変わり、回避より攻撃を選んでしまった。


「業炎双───」


 魔人族が唱え終える事はなかった。

 常闇の放った精霊魔法を纏った拳は、魔人族の下腹を強打し、纏った精霊魔法が触れた部分を瞬時に消滅させていった。

 結果、魔人族の上半身と下半身を分断したのだ。

 嘗めていたのは己だった。

 見える自身の下半身を見つめながら魔人族は後悔するが、それはもはや取り返しはきかない。

 そう、動物が使用出来なかった精霊魔術だとしても、人族はそれを扱えるのだから。


「ぎゃははは!じゃあなあぁぁぁ!」


 下半身から離され宙を舞い、あとは地面に落下するだけの上半身に常闇は蹴りを放った。


「黒懐!」


 魔人族が最後に見たの、自身に迫る黒い精霊魔法を纏った常闇の足だった。


 常闇の蹴りは魔人族の頭を捉え、蹴り抜かれた魔人族は吹き飛ぶようにその存在を消滅させた。


「ぎゃはははははは!さぁて…紅蓮はうまくやってっかなぁ?」










 炎の仕切り(フレイムカーテン)を放った紅蓮は、躊躇いなくその場を駆け出した。

 視線を走らせ、それを探す。

 目印となる常闇の黒円蓋は直ぐに見付かった。

 速度を落とすことなく、紅蓮は黒円蓋を目指してた。


「めっちゃ早く飛び回る魔人族だ!」


 すれ違い様に常闇は紅蓮にそれだけを言い残し、さっさと通りすぎていった。

 紅蓮の目前では、効力を失った黒円蓋が消え始めている。


 黒閻魔は周囲を闇で包むだけの、非殺傷の精霊魔術だ。

 その中で魔人族は、悠々と常闇を探していた。


「どこに逃げても無駄ですよ」


 宙に止まっていた魔人族は辺りを見渡し、紅蓮を見付けた。


「おや?選手交替ですか?」

「まぁそんなところだ」

「それはそれは、常闇を逃がしてしまいましたか。ですが代わりに、貴方を殺せば同じ事ですね。紅蓮の鍵師」

「ご託は良い、早く来い」

「そうですね。では死んでもらいましょう。では、トトルース。これが貴方を殺す者の名前です」


 そう言いニヤリと笑ったトトルースの姿がかき消えた。

 紅蓮は周囲に視線を走らせる。


「っ!?」


 紅蓮の背後から、土の塊が飛来した。

 ぎりぎりで躱した紅蓮に、トトルースの声がどこからともなく聞こえる。


「上手く躱せましたね。ですが、これならどうですか?」


 紅蓮の耳に、微かに風切り音が聞こえた直後。


「土塊散弾」


 四方八方から紅蓮を囲むように放たれた。

 逃げ場を潰すように、巧妙に時間差もつけて飛んでくる土の塊。

 これは常闇が嫌がるわけだな。

 紅蓮はその陰湿なやり方に感心しながらも、悠然と鍵を構えた。


焼却火膜(バースト・フィルム)


 土の塊から身を守るべく、炎の膜で紅蓮は自らを覆った。張られた高温の膜により、土塊は着弾と同時に焼き消されて行く。


 紅蓮の周りを高速で飛び交うトトルースは、その膜が途絶えた時こそ紅蓮の最後だとほくそ笑む。


 だが紅蓮もそんなことは承知している。

 だから火膜がある内に、紅蓮は次の精霊魔法を放つ。


炎熱地獄(バーニング・ヘル)


 紅蓮は周りに人が居ないことは、すでに確認済みだった。

 使用した精霊魔法、炎熱地獄は自身の半径二百メートル、高さ五十メートルの空間を燃やし尽くす広範囲殲滅形の精霊魔法。


「ギャアアアアアアァァァァァァァ…──」


 紅蓮の耳に、魔人族の悲痛な断末魔が聞こえた。


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